Lesson1073
「エモい」の果て
2023-04-26
「感情こそが大切!」
と、表現の世界で何度、耳にしたことだろう。
「人が感動するのは、
設定じゃない、ストーリーでもない、
人物の感情だ。」
これは、私も講師をつとめる
マンガ家育成の学校で叩き込まれたことだ。
「もっと楽曲の感情を掘り下げて、
もっと感情を込めないと‥‥」
いま流行の「サバ番」(新人発掘育成
サバイバルオーディション番組)では、
プロデューサーも、若き才能たちも、
曲に込められた感情を、
深く掘り下げて理解・表現できることを重視する。
表現の世界では、「エモい」はいいことだ。
「エモい」
は、若者言葉で、
心揺さぶられる何とも言えない気持ちを表す。
ところが、この「エモい」が重視されない、
それどころか邪魔になる世界がある。
学問の世界だ。
私はこの4月から、
いままでやったことのない分野に首をつっこんで
学んでいる。
週1~2の割合でディスカッションがある。
「それはノスタルジーだ。」
過ぎ去った日を懐かしむ万感・郷愁は、
表現の世界では意味があることだけど、
学問では意味がないとバッサリ斬られる。
学問で重視されるのは客観性。
自分でも意外だったのが、
バッサリ斬られても、学問の世界では、
不思議な気持ちよさがあることだ。
「あ、いま、自分に欠けてる視野を補ってもらえた」
ラッキー、という感じすらある。
ところが表現の世界は、そうはいかない。
もし自分の表現をバッサリ斬られたら、
傷ついてなかなか立ち直れないだろう。
この4月、私は、「部屋探し」もしていて、
手違いがあって、
関東でもそうとう治安の悪い地帯に
足を踏み入れた。
不動産屋さんの担当者は、
すごく謝っていたが、
私にとっては必要な経験だった。
「夜は、女性は、歩くな。」
その土地に慣れたタクシーの運転手さんも、
昔に比べればよくなってきたが、
それでも治安は悪いと、言葉少なに言った。
そこは、昼間から、
酒の入った缶を手に、うつろな目で、
歩いている人がいた。
女性は歩いておらず、
若者は歩いておらず、
子どもは歩いておらず、
当然、家族連れも見かけない。
ただ、男性が、ちら、ほら、
まだ老人ではないのに、
まるで老人のような足どりで歩いていた。
「治安が悪い」と聞けば、
私は、喧嘩や嫉妬、裏切りなど、
ネガティブな感情が渦巻く場所を想像していた。
だが、実際、そこは、そうじゃなかった。
「すさむ」とは、
全てのエモさが脱水され渇いた状態だ。
そのあと、阿佐ヶ谷の物件を見に行ったら、
打って変わって街がみずみずしい。
まるで息吹き返すような私がいた。
木々がさざめく、風に彩がある。
老人も若者も子どもも、
いろんな世代・性別の人が歩いている。
話し声、笑い声、商店街では売り声がする。
潤いが街にある。
潤いは人の感情からくる。
「人情」
阿佐ヶ谷の物件にはしなかったけれど、
私の部屋さがしの優先順位の1位は、その日から
「環境」
に変わった。
もしエモさが脱水された灰色の街に住んだとして、
自分が心の潤い(=感情豊か)を持ち続けられるとは、
とうてい思えなかった。
感情豊かに生きることは、豊かな人生に通じる。
そう発見した! と思っていたら、
けっこうショックな情報を聞いた。
「感情を揺さぶられたくない」
という若い人の存在である。
そういう若者は、「エモい」を
ちょっと違ったニュアンスでつかうという。
何かの作品とか、誰かの言動とかが、
ともすれば感情を激しく揺さぶるものだったとする。
けれど、それに接する自分は、
巻きこまれてそれ以上、感情を揺さぶられたくない、
そういう時に、
「エモい」
という言葉でくくってしまうことで、それ以上
感情を揺さぶられないよう歯止めをかけるという。
心揺さぶられる現象を、
否定するのでもなく、斜に構えるまでには行かず、
ギリギリのラインで
巻き込まれないよう防御する言葉が、
「エモい」
最初は理解できなかったけど、
Z世代が、映画を1.5倍速で見ていたり、
「タイパ」(=タイム・パフォーマンス)を重視していたり。
生まれたときからインターネットを通して、
たくさんの映画や音楽・ドラマに触れられる環境にいて、
そんなにしょっちゅう、いちいち感動してはいられない。
そういうこともあるのかなと腑に落ちた。
昔のドラマには、
煽情的な音楽や、お涙ちょうだいのシーンで、
視聴者を大げさに煽るものもあった。
「泣ける」
というのは当時の売り文句の代表選手で。
その反動からか、
「泣く、のではなく、煽られて泣かされる、のは嫌」
という若い人がいても不思議はない。
そのせいか、最近のドラマは、
クライマックスでさえ、さりげない。
「エモい」をめぐって多様な果てを見た。
エモい、を重視する表現の世界、
エモい、とバッサリ斬られる学問の世界、
全てのエモさが脱水された灰色の街、
エモい、を感情の防波堤にする若者。
それでも私は、想いを表現して生きていく。
「エモい」
あなたはどんな想いを込めてつかっていますか?
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▲『半年で職場の星になる!
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やる気が湧き・上司もうなる目標の立て方まで。
この1冊で仕事のフィールドで通じ合い、チームで成果を出していける!
自由はここにある!
ラジオで、山田ズーニーが、
『おかんの昼ごはん』について話しました!
録音版をぜひお聞きください。
●「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日~)
インターネット環境があれば、だれでもどこからでも
無料で聴けます。
聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
(MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。
「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!
『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。
『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫
自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社
『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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