Lesson1106
ちょっと知識を仕入れたからって、
振りかざしそうになる時の私へ
2024-07-24
コミュニケーションが通じない時、
相手に、この問題についての
「知識」が足りてない、と気づくことがある。
で、教えてあげなきゃ、と、
必要最低限の知識を、
かいつまんで、わかりやすく、と、
説明し始めるものの、
やってみると、かなり面倒くさい。
相手は頼んでもいない説明を
えんえんされて苦痛の表情、
気まずいことこの上なく、
それでも、この説明をやり遂げた果てには、
「そうだったのか!」という相手の笑顔があるはず、
と、どうにかこうにか説明しきる。
ところが、相手は、
「で、だからなに?」
と、最初のスタンスを1ミリも変えず、
ただ、より気まずくなった、だけ、
なんてことはないだろうか?
私はある。
とくに小論文編集者をしていた時は、
仕事でスペシャリストから日々、知識を得て、
家族にこれをやっては、ドン引かれていた。
ここ1、2年は、私には珍しく、
ほんのちょっとばかり勉強をしている、
だから、なんなら、今日、明日にでも、
これをやってしまうところだった。
「このやり方、なぜ、うまくいかないんだろう?」
先日、私は、
内田麻理香先生(東京大学特任准教授/博士)から、
科学の専門家とそれ以外の人々に、
いかにコミュニケーションを通じさせるか
=「科学コミュニケーション」のお話を聞いた。
院生たちにも人気のたいへん面白いお話だった。
で、楽しんで聞いていたところ、
「欠如モデル」
が刺さって、刺さって、刺さりすぎて、
具合が悪くなるんじゃないか、
というほど衝撃を受けた。
科学の専門家が、そうでない人々と
コミュニケーションする時、
欠如モデルに陥りやすい、注意が必要だ。
「け、けつじょ、もでる?!」
私は、その意味を知らなかった、初めて聞いた。
本来の定義は、
科学コミュニケーションについてだから、
検索したり、内田先生のご著書読んだりして、
正しく理解していただきたいのだが、
私なりに、これは科学以外の
コミュニケーションにも通ずるな、と思い、
「欠如モデル」をこのように解釈した。
「コミュニケーションがうまくいかない時、
相手がわかってくれない時、
相手の知識が足りてないからだ、と思い、
知識さえ充填すれば、通じ合える、
相手はわかってくれるもの、と踏んで、
相手に知識を教え込もうとする。
それでもうまくいかない時は、
相手の理解がおよばないせいにする。
最終的に通じ合えなかったとしても、
知識がない人とは話にならない、とか、
相手の理解が足りないからだ、とか、
やっぱり相手の欠如のせいにして片づけようとする、
コミュニケーションのカタチ」
「ぎゃあー!!!」
と心が叫んだ。
その日、先生は、
わかりやすい例をあげて説明してくれた、
その例を聞いて、心あたりがありすぎ、
痛テテ、イテテ…、と、昔の記憶が蘇る。
若い頃の私は、
自分の推しの音楽を、
相手が好きになってくれない時、
「相手は、知らないから、
つまり、音楽を聴いたことがないから、
だからわからないんだわ。
音楽を聴きさえすれば、好きになるはず」
と思い込んで、
なかば押し付けるように
相手に、おすすめの1曲を聴かせる。
しかし、相手はピンと来ない。
すると、
「1曲じゃこの良さはわかんないよね。
アルバム1つ、とおして聴かなきゃ、
聴けば、絶対、この世界観、好きになるはず」
と、おすすめのアルバムをおしつけ、
それでも相手が、うかない顔だと、
「そうか! 聴くだけじゃわかんないよね。
ライブに行って、見て、感じてもらえば‥‥」
と、わかりあえないことを、
ひたすら相手に「欠如」があると見立てて、
せっせ、せっせ、と、
欠如している情報を相手に充填しようとした。
「それは知識のあるなしが問題ではない。」
たしかに、知識のあるなしは、
場合によっては人生を変える。
私自身、知識の少ない、
よくものを知らない人間で、だからこそ、
ちょっと知識を仕入れただけで開眼がある。
例えば、
「お酒」とか、「睡眠」とか、「栄養」とか、
知らなかったからこそ、
ちょっと本を読んで知識を得るだけで、
ガラリと健康状態も、人生も変わった。
だから知識を万能のように思いがちだけど、
さきほどの音楽で言えば、「感性」。
何十曲聴こうと、ライブに行こうと、
感性に合わないものは合わないのだ。
あるいは、相手の今の「心境」、「状況」。
相手は悲しいことがあって、
そこの感情を揺さぶられる音楽は
しばらく聴きたくないし、聴けない、かもしれない。
あるいは、「経験」や「背景」、「文脈」、
相手が実は音楽に詳しく、
その方面の音楽は少し前に聴きつくして飽きた、
いまは、別のジャンルの音楽を開拓中、かもしれない。
相手は今までどんな音楽を聴いてきたのか?
相手は今、どんな状況か?
相手は今、そしてこれから、
何に興味を持ち、何を求めているのか?
「相手のことを、相手から教えてもらおう」
その気持ちがないと、
コミュニケーションは成り立たない。
コミュニケーションは相手あってのものだ。
「相手に知識や理解が欠如している」
そう思っている時、まさに自分こそ、
相手に関する知識が欠如している、
相手に関する理解が欠如している。
ちょっと知識を仕入れたからって、
振りかざしそうになる時の私へ、
「聴こう!」
自分のほうこそ相手に対する理解不足、
だから、相手の話をよく聴こう、
と私は思う。
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ラジオで、山田ズーニーが、
『おかんの昼ごはん』について話しました!
録音版をぜひお聞きください。
●「ラジオ版学問ノススメ」(2012年12月30日~)
インターネット環境があれば、だれでもどこからでも
無料で聴けます。
聴取サイトは、http://www.jfn.co.jp/susume/
(MP3ダウンロードのボタンをクリックしてください)
または、iTunesからのダウンロードとなります。
ほんとうにおかげさまで本になりました!
ありがとうございます!
▲『おかんの昼ごはん』河出書房新社
「親の老い」への哀しみをどう表現していいかわからない
私のような人は多いと思います。
読者と表現しあったこの本は、思い切り泣けたあと、
胸の奥が温かくなり、自分の進む道が見えてきます。
この本が出来上がったとき、おもわず本におじぎをし、
想いがこみ上げいつまでもいつまでも本に頭をさげていました。
大切な人への愛から生まれ、その先へ歩き出すための一冊です。
『「働きたくない」というあなたへ』河出書房新社
「あなたは社会に必要だ!」
ネットで大反響を巻き起こした、おとなの本気の仕事論。
あなたの“へその緒”が社会とつながる!
『新人諸君、半年黙って仕事せよ』
―フレッシュマンのためのコミュニケーション講座(筑摩書房)
私は新人に、「だいじょうぶだ」と伝えたい。
「あなたには、コミュニケーション力がある」と。
――山田ズーニー。
▲『人とつながる表現教室。』河出書房新社
おかげさまで「おとなの小論文教室。II」が文庫化されました!
文庫のために、「理解という名の愛がほしい」から改題し、
文庫オリジナルのあとがきも掲載しています。
山田はこれまで出したすべての本の中でこの本が最も好きです。
『おとなの進路教室。』河出書房新社
「自分らしい選択をしたい」とき、
「自分はこれでいいのか」がよぎるとき、
自分の考えのありかに気づかせてくれる一冊。
「おとなの小論文教室。」で
7年にわたり読者と響きあうようにして書かれた連載から
自分らしい進路を切りひらくをテーマに
選りすぐって再編集!
▲文庫版でました!
あなたの表現がここからはじまる!
『おとなの小論文教室。』 (河出文庫)
ラジオ「おとなの進路教室。」
http://www.jfn.co.jp/otona/
おとなになっても進路に悩む。
就職、転職、結婚、退職……。
この番組では、
多彩なゲストを呼んで、「おとなの進路」を考える。
すでに成功してしまった人の
ありがたい話を聞くのではない。
まさに今、自分を生きようと
もがいている人の、現在進行形の悩み、
問題意識、ブレイクスルーの鍵を
聞くところに面白さがある。
インターネット、
ポッドキャスティングのラジオ番組です。
「依頼文」や「おわび状」も、就活の自己PRも
このシートを使えば言いたいことが書ける!
相手に通じる文章になる!
『考えるシート』文庫版、出ました。
『話すチカラをつくる本』
三笠書房
NHK教育テレビのテキストが文庫になりました!
いまさら聞けないコミュニケーションの基礎が
いちからわかるやさしい入門書。
『文庫版『あなたの話はなぜ「通じない」のか』
ちくま文庫
自分の想いがうまく相手に伝わらないと悩むときに、
ワンコインで手にする「通じ合う歓び」のコミュニケーション術!
『17歳は2回くる―おとなの小論文教室。III』
河出書房新社
『理解という名の愛が欲しいーおとなの小論文教室。II』
河出書房新社
『伝わる・揺さぶる!文章を書く』
PHP新書
内容紹介(PHP新書リードより)
お願い、お詫び、議事録、志望理由など、
私たちは日々、文章を書いている。
どんな小さなメモにも、
読み手がいて、目指す結果がある。
どうしたら誤解されずに想いを伝え、
読み手の気持ちを動かすことができるのだろう?
自分の頭で考え、他者と関わることの痛みと歓びを問いかける、
心を揺さぶる表現の技術。
(書き下ろし236ページ)
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