第3回
せっかちのお国柄 |
辺 |
韓国の友達が日本に来たとき、
本場のたくわんを食べたいと言ってね。 |
糸井 |
たくわん、ですか。 |
辺 |
日本人が韓国に行って、
本場のキムチ食べたいと言うのと同じです。
それで、たまたま立ち食いそば屋に入ったら、
そこにたくわんが置いてある。
で、彼はそばを頼んだ。
ところがたくわんは出てこない。
韓国では、何か頼むと
必ずキムチがついてくるんですよ。 |
糸井 |
出てきます、出てきます。 |
辺 |
しかも食べ放題で、おかわりまでいっぱい。
それで店の人に聞いたんですって、
「そこのたくわん、もらえませんか」って。
すると、「いや、おにぎりを注文しないとダメ」
と言われてね。
これもさっきの内規って言うんですかね。(笑) |
糸井 |
僕が店の人だったら、
「よし、これからはたくわん、
タダにしてみよう」と思うな。
だって、商売の大ヒントだもの。 |
サンコン |
ギニアも何かごはんを頼むでしょ。
フルーツ、必ず一緒に出るの。
マンゴーとかバナナとか。セットなんです。 |
辺 |
韓国でキムチがどっと出てくると、
日本の人は驚いて
「すいません、これ、頼んでないんですけど」
って。(笑) |
サンコン |
日本人、すぐ勘定のことにいっちゃうからね。 |
糸井 |
あ、日本にもあった。水とおしぼり。
これは頼んでないけど出てきますよ。 |
辺 |
韓国は水、出さないんですよ。
飲用に適さないし、ミネラルウォーターは
輸入だから、コーヒーより高くつく。
そういうことを知らない日本人は、
「韓国はサービス悪いな」と思うんでしょうが。 |
サンコン |
水、出ないから。 |
糸井 |
キムチは出るけど。(笑) |
辺 |
さっき、日本人はヒゲひとつでも
外見にこだわる、とサンコンさんが
おっしゃってましたね。
韓国では若い人でヒゲ生やしてる人、
あまりいないんです。 |
糸井 |
あ、そういえばそうですね。 |
辺 |
生意気だって言われる。
「年寄りでもヒゲ生やしてないのに、
この若造が!」と。
儒教の影響があって、
両親や目上の人の前では、
タバコも吸ってはいけない。 |
サンコン |
ギニアも同じ。
親とか年寄りの前では
とても丁寧にします。
コップも片手では持たない。 |
辺 |
目上の人に対する尊敬の念が強いんですね。
ソウルの繁華街あたりで、
中年と若者が喧嘩してるでしょ。
殴り合いそうな雰囲気でも、
言い合いをよく聞いてると、おかしい。
日本だと「このヤロー」「クソジジイ!」
となるところが、韓国の若者は、
尊敬語で口喧嘩してる。
「おじさんが先に
肩ぶつけてきたんじゃないですか」って。
そして結局、「生意気なやつだ」
というおじさんの言葉で、
若者が負けるようになってる(笑)。
だから、下手に喧嘩しないほうがいいぞ
となるんです。 |
サンコン |
そうそう。 |
辺 |
ホームドラマもね、
息子・娘がグレたり親の言うこと聞かないと、
必ず「父、倒れる」の展開で、
子どもたちが反省してすべてが丸く収まる。
これがお定まり。親は子にとっては絶対で、
それだけ威厳があるということですね。 |
サンコン |
ギニアもまったくそう。
お父さん、すごく大事。お母さんも大事。
そしてお兄さん、お姉さんと喧嘩しても、
最後は弟が謝るの。 |
糸井 |
朝鮮半島まで流れてきたアフリカの文化は、
日本までは渡らなかったのか(笑)。
でも、日本でもかつてはそうでしたよ。
戦後からかな、親が自信をなくして
「ま、いいか」みたいになったのは……。
アメリカ民主主義の影響もあるかもしれない。
ただ、若くてもいい意見を持ってたら
年寄りを追い越していいし、
そこから新しい何かが
生まれることもあるでしょう。 |
辺 |
人は平等、という意識は大事だと思いますけど、
私は、親子の関係は決して平等じゃない
と思うんです。
世の中には対等な関係もあり、
同時に上下関係もある。
そこらへんが最近の日本では
わけわからなくなって、親に対しても、
友だちと同じように、「ようよう」
なんて言葉づかいをする。
そんなことしたら、韓国では、
張り倒されてしまいますよ! |
糸井 |
ピョンさん、今、声、裏返ってましたよ。 |
辺 |
私も大学生の息子がたまーに、
そういう言葉づかいをすると
カチンとくるもんで。
だから息子も気をつけてますよ。
韓国で講演するとき、
私は日本を反面教師にしてほしいと言うんです。
家庭内の悲惨な事件が多発する今、
日本の悪いところは継承せず、
いいところだけ吸収するように。
日本も、韓国をそういうふうに見てもらえば
いいんじゃないですか。 |
糸井 |
性格の違う友から学べ、ですね。 |
辺 |
子どもの頃、缶蹴りして遊びませんでした? |
糸井 |
よくしましたよ。 |
辺 |
「この指と〜まれ」と言うと、みんな、
われ先にとまりに来るじゃないですか。
ところが韓国人はね、
「この指とまれ」って声がかかると、
みんなが「俺の指にとまれ」と指立てる。(笑) |
糸井 |
人の指にはとまらない。 |
辺 |
小さいときからチームプレーが不得意ですね。
逆に日本は、集団性の強い民族で、
サッカーや野球でも、組織プレーがすごい。
そういうところは、韓国も学んだほうがいい。
ただ、そればっかりになっちゃうと、
スポーツも社会も面白くないんだけど……。 |
糸井 |
僕は、個人プレーがものすごく好きなんです。
だけど、「あいつがいたから、できたな」
というチームプレーもまた好きで。
つまり、自分に足りないところを
代わりに誰かがやってる、という面白さ。
これからの時代は、
一度個人プレーに走ったやつが
今度はチームプレーの面白さを得るとか、
チームプレーばかりしてきたやつが
個人プレーを学ぶとか、
そういう混ざり方をしていくんじゃないか。
日本人も、いろんな国のいいところを
どんどん真似て、選んでいくようになるのを
期待してるんです。 |
辺 |
日本と韓国、こういう違いもあります。
日本人は人との関係で貸し借りを
つくらないようにするでしょう。
常にプラスマイナスゼロにしておきたい。
糸井さんからお歳暮をいただいて、
「これは3千円くらいだ」となると、
こっちもキッチリそれくらいのものを
お返しする。 |
糸井 |
はい。 |
辺 |
ところが韓国は、貸し借りをつくってこそ、
初めて友人である、と。 |
サンコン |
ギニアもそうよ。韓国と同じ。 |
糸井 |
共通してるところ、多いですねえ。 |
サンコン |
借りをつくっても、
その場ですぐに返さなくていいの。 |
辺 |
あとで倍にして返すとかね。
これは是非、ギニアの場合も
聞きたいんですけど(笑)、
引っ越ししたとき、
日本ではタオルか石鹸持って、
向こう三軒両隣に「よろしくお願いします」と
挨拶に回りますね。
これ、「みなさん方の仲間に入れてください」
ということでしょう。
ところが韓国は逆で、近所のほうから
集まってくる。
「何か不自由なことはありませんか」って。
向こうから「仲間に入りなさい」と
言ってきてくれるんです。 |
サンコン |
ギニアもそうですよ。 |
糸井 |
もう文化の伝播は
朝鮮半島で止まっちゃった。(笑) |
サンコン |
新しい人来たら、近所の人、
みんなお手伝いに来るの。
米とかお酒持ってきて、
新しい人の家でごはんつくるんです。 |
糸井 |
それはギニアの都会でも田舎でも同じですか。 |
サンコン |
そう、「ようこそいらっしゃい」って。 |
糸井 |
へえー、じゃあ、ギニアのマンションでも
同じことが行なわれてるわけだ。 |
サンコン |
ギニア、マンションあんまりない
ですけど(笑)。
ギニアは本州と同じ大きさでね、人口800万。
隣は遠くても、助け合いはあるの。 |
辺 |
ついでに言うと、さっきからサンコンさんは、
話しながら盛んに私の手に触れてるでしょ。
私もそうなんですよ。初対面の人であっても、
こう(サンコンさんの手に触れながら)触れる。
韓国人はどちらかと言うと
スキンシップ民族なんです。
これは相手に心を許してる証拠。 |
サンコン |
ほんと、韓国とアフリカ、似てるところ多いね。
僕、韓国料理大好きです。
辛いのもギニアと同じ。 |
辺 |
料理と言えば、日本の懐石みたいに
一品一品持ってくるのは、
韓国の人間には耐えられなくてね。
韓国人は性急な民族で、
韓国語で「パリパリ」、
「早く早く」という意味の言葉が
よく使われます。
私も外食するとき、メニュー見て注文したあと、
必ずひとこと「早く持ってくるように!」
とつけ加えます。 |
糸井 |
それ、僕の韓国人の友だちも言ってる。(笑) |