第5回
違いを超えて |
糸井 |
いま話しているような交流、
若い子はスッといける気がするけど、
僕ら以上の年代って、
なんか肩肘張ってて難しいんだよなぁ。
違う文化と接するとき、
何が交流のきっかけになりますかね? |
サンコン |
僕はね、やっぱり歌。国境がないでしょ。
僕のカラオケの十八番、『浪花節だよ人生は』。
それから『矢切りの渡し』『花と竜』。マジ。 |
糸井 |
演歌、いってますねえ。実は演歌って、
韓国の人たちが得意なものですね。 |
辺 |
歌、それから食べ物でしょうね。
小さいときに日本人の子とよく喧嘩をしてね。
向こうは私たちがキムチ食べてるもんだから、
「ニンニクくさい」と言うわけです。
そうするとこっちは「たくわんくさい」と返す。
いい喧嘩になるんですよ。 |
糸井 |
そういうふうに、お互い、まず言っちゃう。 |
辺 |
そのうち時代は変わって、日本人は今、
キムチ大好きになりましたでしょう。
韓国人もたくわん大好きなんですよ。
時の流れの中で、
そういうふうに融け合うものでね。
身近という点でも、食べ物って大きいですよ。
理解のきっかけでしょ。 |
糸井 |
ベトナム料理店とか、今、日本で増えてるけど、
そうするとベトナムに
行ってみたくなるもんなぁ。 |
サンコン |
違いはあっても同じ人間、
その違いをお互いに認めるのが大事です。
僕、日本に来て辛かったことあるんです。
テレビに出始めた頃、出演者たちが
「サンコン、今日、顔色悪いね」とか、
飲みに行くと、「何を飲んでも顔に出ないね」
とか言うの、冗談で。
だけどアフリカは肌とか顔色の話しない。
日本人は赤くなったり青くなったり
顔色変わるけど、
アフリカ人、顔の色に出ないから。 |
糸井 |
そうだよね。 |
サンコン |
「やっぱり違うんだ、国が」と初めて認識した。
でもサンコン、怒っちゃいけない、
逆に取ったほうがいいと思って、
今度は自分のほうから言ったんですよ、
「今日ちょっと僕、顔色悪いなぁ」って。
そうやってギャグにして、
笑いで吹っ飛ばしちゃうの。 |
糸井 |
サンコンさんは、その考え方を
発明したわけですよね。
つまり、お互い違うだけだから、
本当に怒ったらおしまいだ、
仲良くなれるよう切り替えよう、と。
僕のホームページのキャッチフレーズは、
「オンリー・イズ・ノット・ロンリー」
というんです。
これ、英語の文法としては変らしいんだけどね。
たった一つであること、個性というのは
孤独ではない。みんな違うんだと認めたうえで、
わかり合うこと助け合うことが、
これからの時代だと思って……。 |
サンコン |
とってもいいキャッチフレーズ。
僕は講演のとき、
よく社会を5本の指にたとえるの。
自分の指、細いの太いの長いの、
みんな形違うじゃない。
だけど一本一本、全部大事なんですね。
離れているけど、それぞれに役目があって、
その役目はどれも非常に大きい。
糸井さんの言うように、
オンリーだけどロンリーじゃない。 |
糸井 |
だから、お互いの違いを
うーんと珍しがっていいんですよね。
相手を珍しいと思う場合、
相手にもこっちが珍しい。 |
辺 |
日韓がサッカーの試合をやるでしょう。
テレビの前で私は韓国を応援する。
娘は日本を応援する。
アトランタ五輪の柔道で、
ヤワラちゃんが北朝鮮の選手に負けて
金メダルを逃したとき、私が喜ぶそばで、
娘はワーンと泣いてた。 |
糸井 |
面白いなぁ。 |
辺 |
それで、いいんです。昔の親だったら、
娘に「おまえは唐辛子と
ニンニクのDNAなんだから、
韓国を応援しろ!」と言ったかもしれない。
だけど私は言いたくない。
逆に娘から「お父さん、日本を応援しなさい」
と強要されたくもない。そこは、
自分の気持ちに素直なのが一番ですから。 |
糸井 |
こうやってお互いに話してること自体が
楽しい……。
スポーツ、歌、それに人間同士の直の対話って、
どんな政治的外交よりも
強力だって気がするなぁ。 |
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(おわり) |