- 糸井
-
この「ちいさな田んぼキット」の商品化へ向けて、
去年1年間、青山のビルの屋上で
うちの社員と一緒に稲を育ててたんですけど、
いやあ、おもしろかった!
- 藤田
- ああ、なんか、うれしい(笑)。
- 糸井
-
だって、本当に都会の真ん中で米が収穫できたし、
油断してたら、ちゃんと「失敗」もしましたから。
- 藤田
- え、失敗?
- 糸井
-
ビルの屋上で育てていた稲は
ぜんぶ成功して、収穫までできたんですけど、
ぼくが自宅で育てていた苗、
まだ4月なのに、ものすごい暑い日があって、
一気に枯れちゃったんです。
- 藤田
- へえ‥‥水が足りなかったのかな?
- 糸井
-
そうかもしれないです。
その後は、うちの社員たちが
ああでもないこうでもないと試行錯誤しつつ
育てていたのを見てたんですけど
夏休みの水やり当番とか、
「台風が来てるので避難させました!」とか、
そんなのが、いちいち、おもしろくて。
- 藤田
- ええ、ええ。
- 糸井
-
これ、いちばんはじめのアイディアは、
「福島の木をつかって
何か商品つくれないかな?」だったんです。
つまり、福島の檜で田んぼのワクを組んで、
土と水を張った「水田セット」‥‥みたいな、
ひとつの「風流」として遊べないかなあと。
- 藤田
- つまり「水田盆栽」みたいな(笑)。
- 糸井
-
そうそう、でもそのうちに、
自宅で水田の風景をたのしむっていうより、
「みんなでお米をつくろう!」
みたいなプロジェクトにしちゃったほうが
おもしろそうだなって、思い直して。
- 藤田
-
それで、私にご連絡をくださったと。
ありがとうございます。
- 糸井
-
そもそも、どう思いました?
自分ちのベランダでお米を育てる‥‥って。
- 藤田
- 私、田んぼの風景が好きなんですけど‥‥。
- 糸井
-
ぼくも好き。で、みんな好きですよね。
ときどきの季節を感じられるし。
- 藤田
-
そう、だから
「都会のマンションのベランダに
あの風景があったら、いい感じだろうな」
ってワクワクしたんですが
「でも、
そんな簡単に、お米がつくれるのかな?」
とも、同時に思いました(笑)。
- 糸井
- そうですよね、プロからしたら(笑)。
- 藤田
-
ただ、一般の人にとっての「お米」というと
田植えのシーンか、
黄金の稲穂が垂れている姿か、白米か‥‥
くらいだと思うんですが、
白いごはんになってお茶碗に盛られるまでには
あたりまえのように
農作物が育っていくすべての過程があるわけで、
それを実際に体験してもらうって、
すごく、おもしろい試みだなあと思います。
- 糸井
-
生長にともなって
人の側にもいろんな仕事がうまれるんですよね。
- 藤田
- そうですね。
- 糸井
-
藤田さんたちにとっては
あまりに当然のことかもしれないんだけど
単純に
「お米って、こんなふうに育っていくんだ」
とか
「お米の花ってのが、あるんだー」
ということが
いちいちわかるだけで、おもしろかった。
- 藤田
-
‥‥私、以前、娘が風邪を引いたので
病院に連れて行ったとき、
かるくショッキングなことがあったんですが
その話をしてもいいですか?
- 糸井
- ええ、どうぞ。
- 藤田
-
お医者さんの診察を終え、
処方された薬をもらうために薬局へ行ったら
キッズコーナーに
「ぬいぐるみのたくさん入った箱」が
置いてあったんです。
- 糸井
- ええ。
- 藤田
-
そのなかから、
「ホウレンソウらしきぬいぐるみ」が
顔を出してたんですよ。
で、
「ホウレンソウのぬいぐるみ?
めずらしいなぁ、かわいいのかな?」
と思って引っこ抜いてみると‥‥。
- 糸井
- はい。
- 藤田
-
なんと、
下から「ニンジン」が出てきたんです!
- 糸井
- なるほど(笑)。
- 藤田
-
「なぜ、ヒユ科のホウレンソウの根に
セリ科のニンジンがついているんだ?
と‥‥。
- 糸井
-
いや、実際につくっている人にとっては
やっぱり違和感あるんでしょうね。
- 藤田
-
まあ、そうだよな、ふつうの人にとっては
それくらい伝わってないよなあと。
- 糸井
-
「魚は切り身で泳いでる」なんていうのも
あながち冗談でもないのか、と。
- 藤田
-
ええ。ですから、
今回の「ちいさな田んぼキット」のことを
うかがったときに、
「これは、おもしろいものになる」って。
つまり、育てる人にとっては
いろいろ意外な出来事が起こるはずなので。
- 糸井
-
そうでした。
真夏の稲が
あんなに水を吸うことも知らなかったし、
ひとつの稲穂から
あんなに少ししかお米がとれないことも
知らなかったし。
- 藤田
- でしょうね。
- 糸井
-
世話をしていた社員が言ってたのは
「屋上まで水を運ぶのが、重くて」とか。
- 藤田
- なるほど。
- 糸井
-
つまり、かつては「水利」をめぐって
人々が争ったってことも、
実感を持って、わかったんですよ(笑)。
- 藤田
- そうか‥‥なるほど。
- 糸井
-
陽当りのことにしたって、
観葉植物を部屋に置いておくだけなら
ほとんど考えないですよ。
でも、稲の場合には、そうはいかない。
- 藤田
- はい。
- 糸井
-
水のこと、陽当りのこと、風のこと。
ひとつひとつ勉強していったんです。
で、このおもしろさは
みんな味わえばいいのにって(笑)。
- 藤田
- 最終的にとれた量は‥‥。
- 糸井
- どれくらいだっけ?
- ──
-
合計「9バケツ」育てまして、
とれた量が「玄米で300グラム」です。
玄米の「玄」を外して、270グラム。
- 藤田
-
精米すると
1割くらい目方が減りますからね。
- ──
- 2合に満たないくらいです。
- 糸井
- ‥‥素晴らしいでしょ?(笑)
- 藤田
-
いやあ、でも、都会のビルの屋上で
本当にお米って、できるんですね。
- 糸井
- うん、できましたよー!(笑)
<つづきます>
2015-03-24-TUE