ーー | 四国とヨーロッパをつなぐために 「四国夢中人」という市民団体を 立ち上げたとのことですが、 どういうきっかけではじめられたんですか? |
尾崎 | これがもう、単純なんですけど、 フランス語を教えているとき、 パリで「ジャパンエキスポ」という やけに盛り上がっている イベントがあるのを知ったんです。 私、こんな年で フランス語の講師をやっているんだから、 人ができないことをやらないと 意味がないんじゃないかと。 そこで、「香川のうどんを紹介しよう‥‥」 と考えたんです。 |
ーー | さぬきうどんを。 |
尾崎 | そう。さぬきうどんを食べてほしいし、見てほしい。 それも、ネギや生姜をトッピングするセルフうどん。 フランス料理は出されたものを 食べるというのがあたりまえですが、 うどんには自分で作る楽しさがあります。 「釜揚げ」とか「釜玉」とか、食べ方も 30種類ぐらいあっておもしろい。 たかがうどん、されどうどん、侮るなかれです。 で、そういうものを向こうでも 紹介できたら楽しいのに‥‥と思ったら すぐに主催者に電話してました。 |
ーー | また! 主催者に直接電話を。 |
尾崎 | ええ、ジャパンエキスポの、パリの主催者に。 「ブースを借りて四国の文化や、うどんを紹介したい。 イベントの経験は、全くない。オッケーか?」 と聞いたら「オッケーだ」と言われたんです。 |
ーー | わぁ、またトップから許可をもらって。 |
尾崎 | はい。でも、電話を切った後で、 「え、ちょっと待って。できるって言ったって、 お金もかかるし、私うどん屋さんじゃないし、 うどん打てないし。どうしよう」 って‥‥。 |
ーー | (笑) 電話かけたあとで、悩む。 |
尾崎 | いつも順番が逆なんです。 でも、もう行くしかないか、みたいな。 しかも私、ジャパンエキスポには行ったことがない(笑)。 話だけを聞いた状態だったから、 どんなところかも分からない。 よく聞いたら、イベントのブース代だけで かなりかかるんです。 そこで、「四国のPRになるから」と 自治体に支援を頼んだところ、 四国運輸局から 「ブース代は払えませんが、 荷物の送料なら支援できます」と、 ご提案いただきました。でも、 「送料はいいです。全部背負って行ってもいいので ブース代だけお願いできませんか」と言って 最初の年はブース代をお願いしました。 まぁ実際は背中に背負ってなんて行けないから 送料も相当かかりました。 日本からフランスにダンボール箱を 20個送るだけでも、20万円以上必要。 自分の渡航費も要ります。 だからもう、イベントに出展する物品は みなさんに支援をお願いするしかない。 そのために走り回りました。 |
ーー | どういうものを集めたんですか? |
尾崎 | まずはうどんですよね。 香川県中のうどん屋さんに頭を下げて、 袋に入ったおみやげ用の「半生うどん」を たくさん提供していただきました。 それと同時に、新聞社に ジャパンエキスポに出展するという エッセイを投稿し、 香川経済同友会でプレゼンテーションして 「香川のPRをするために、ご協賛お願いします」 と多くの方々に呼びかけました。 そして、四国運輸局、香川県、 四国ツーリズム創造機構などの自治体に行って 「英語で作っている観光パンフレットを 全部フランス語で作ってほしい」とお願いし、 四国遍路のフランス語版パンフレットまで 作ってもらったんです。 香川県はパンフレットなどの送料も 負担してくれました。 |
ーー | うどんと、フランス語版パンフレット。 ほかにご用意されたものは‥‥ |
尾崎 | 香川の伝統工芸品を中心に集めました。 知り得る限りの場所へ行き、 提灯、水引アクセサリー、 庵治の石灯篭、漆器、凧などを 提供していただいたんです。 親戚の今治タオル屋さんからは布巾や手ぬぐい。 ほかにも和小物、Tシャツなど‥‥ 合計30品目くらいです。 そうそう、丸亀うちわも持って行きました。 うちわは軽いし、いただいたものを 1本でもたくさん配りたいですから 無理にダンボールに詰め込んで。 でも、今考えたらほんとに おそろしいことをしたなと思います。 ぜんぶ「ただでください」と言って お願いしてましたからね。 |
ーー | イベントのスタッフを集めるのも 大変だったんじゃないでしょうか。 今見せていただいた報告書には 「イベント会場に搬入・撤収してくれる 親日派のフランス人が見つかった」 と、書いてあるんですけど‥‥。 |
尾崎 | あ、私が高松駅でナンパした方なんです。 今もものすごくお世話になっていて。 |
ーー | ナンパ‥‥!? |
尾崎 | ほら、私、「外国人ストーカー」だって 言ってたでしょ? 高松駅でたまたま外国人の男性を見かけて、 何人かも分からなかったんですけど、 「ハーイ!」みたいに声かけたことがあったんです。 そしたらフランス人で、日本語も堪能な方で。 10分くらいしゃべって、 「いつかフランスに行く機会があったら連絡しまーす」 と言って名刺だけは交換していたんです。 それっきりだったんですけど、 ジャパンエキスポに出展することになって 荷物の受け渡しをどうしようか困っていたときに、 ふっと、思いだしたんです。 そういえば、パリに住んでいると言ってたなと。 すがる思いで電話をしました。 |
ーー | ‥‥その方は1回だけ 高松でお会いした方なんですよね。 |
尾崎 | ええ。 |
ーー | どういう方かも分からないのに! |
尾崎 | ええ。その時点で分かるのは、 パリに住むフランス人で 日本語がしゃべれる、ということだけ。 で、その方に電話して 「こんどパリのジャパンエキスポに 出展することになったんですけど‥‥」と言ったら、 「おぉ、来い、来い」って言うわけです。 「来い、来いって‥‥あなたは何者でしょうか?」 私のほうが何者だ、って感じだけど。 |
ーー | (笑) |
尾崎 | またもや順番が逆なんです。 「お世話になります」と言ってから、 相手はどんな人なんだろうと少し不安になって。 私のやってることって、めちゃくちゃでしょう。 それで、最初の年は 長男のお嫁さんも一緒に、パリに行ったんです。 |
ーー | お嫁さんを連れていったんですか? |
尾崎 | ええ、ちょうど長男が結婚したばっかりで、 お嫁さんは仕事をしてなかったから 「パリ行く?」って誘ったの。 そしたら、 「え、パリ?! 行く、行く!」って。 |
ーー | 本当は、知らない人の家に行くのに。 |
尾崎 | そう(笑)。 そんなの主人にも絶対言えませんよ。 高松で10分だけしゃべった方のところに お世話になるなんて話。 でも、その方には、 いろんな面でものすごく支援していただきました。 フランスって、宅配便のようなシステムがないんですよ。 つまり、フランスに送ったものを いったん誰かに引き取ってもらって 当日会場に搬入しないといけない。 それを、その方がすべて引き受けてくださったおかげで ジャパンエキスポに出展できたんです。 |
ーー | なんて親切なフランス人! |
▲お世話になった、親日家のザバヴァさんファミリー |
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尾崎 | しかも、私が荷物をたくさん送り過ぎたせいで、 その方の乗用車には積みきれない。 そしたら、友だちの車まで手配してくださって。 イベント終了後も、荷物を日本へ持って帰ると また送料がかかるので困っていたら、 「毎年出展するなら、置いといていいよ」 と言ってくださって、 今もその方の納屋に置かせてもらっています。 すべて快く引き受けてくださって 本当にありがたいです。 まぁ、むこうは「ひどい日本人に当たった」と 思っているでしょうね。 |
ーー | (笑) イベント自体は、どうでしたか。 |
尾崎 | 4、5日間は立ちっぱなしで、 忙しくて食事が全くとれませんし、 クーラーのない会場に 入場を待ちわびていた数万人の若者が 怒涛のように押し寄せてくるんです。 もう何が何だかわからない状況で、 迷子にならないようにするのが精一杯でした。 |
ーー | 想像しただけで大変そうです。 「ほぼ日」も、ときどきイベントをするんですけど 1日だけの開催でも、けっこう準備が‥‥。 |
尾崎 | 大変でしょう。 |
ーー | はい。 それを5日間も外国でやるなんて‥‥。 |
尾崎 | とにかく日本語は全然通じないわけだから そのストレスだけでもすごいし、 楽しい気持ちなんて、微塵もないですね。 |
ーー | 微塵もない(笑)。 |
尾崎 | 微塵もないですよ。 睡眠不足と過労でげっそり痩せました。 ただね、みなさまの協力を得て、 この大規模なイベントに参加できたことで、 ヨーロッパの人達がどれぐらい日本に対して 熱い思いを持っているかというのを 全身で感じたんです。 「これは何かやらないといけないぞ!」 と思いました。 |
▲ジャパンエキスポにて、 日の出製麺所による「手打ちうどんの実演」。 |
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ーー | いっそうの情熱を燃やされたんですね。 |
▲在仏日本大使館公邸での前夜祭。 |
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尾崎 | ええ。そして、ジャパンエキスポの前夜祭が 在仏日本大使館公邸で行われたんですけど、 我々もそこに招待されて行ってみたら なんと、持参したあの丸亀うちわが、 大活躍してくれました。 うちわを手にした招待客が、 涼しそうに扇いでいるのを目の当たりにして、 「海外に四国を売り込める」 と確信したんです。 (つづきます) |