すごいお母さん、 EUの大統領に会う   香川県丸亀市に 尾崎美恵さんという女性が住んでいます。 ごくふつうの主婦として家を守り、 ごくふつうに3人のお子さんを 育てていましたが、 ある日、たった一人で四国の文化を ヨーロッパに紹介する活動をはじめます。 その行動力はすさまじく、 なんと「EUの大統領」にまで会ってしまいました。 いったい、どんな方なんでしょう。 同じく丸亀市出身の「ほぼ日」藤田が 会いに行きました。
第5回:フランス人を招いて四国ツアー
ーー パリで、「四国を売り込める」と
確信されたとのことですが
実際にはどんなことをなさったんですか?
尾崎 パリのジャパンエキスポに出たのが2008年で、
翌年の2009年には、フランス人を呼んで
四国ツアーを実施しました。
日本に来たいと思っている外国人が
たくさんいると分かったので
「じゃ、彼らを呼ぼう」と思ったんです。
お茶、俳句、盆栽といった日本文化に
精通したフランス人を四国に呼んで、
ブログを通してリアルタイムに
四国を紹介してもらおうと考えました。
ーー なるほど、ブログを活用しようと
なさったんですね。
尾崎 はい。それで、欧州からブロガーを招こうとしていたとき、
「尾崎さん、受け入れ側にホームページがなかったら
 ブロガーを呼ぶこともできないよ」と言って、
ホームページを無料で作ってくれる方が現れたんです。
そしてたまたま、「四国夢中人」と書いた
前衛書道家の作品に出合い、
「これはいい!」と思って、作家に会いに行きました。
「この名前欲しいんですけど‥‥」
「じゃあ、書体をそのままロゴとして使っていいよ」
これで、ホームページと名前とロゴができました。
さらに、欧州と四国をつなぐ
この「四国夢中人」の活動を、国土交通省の
「ビジット・ジャパン地方連携事業」に
認可していただいたんです。
まるで鬼退治に出かける桃太郎みたいに
次々と、必要な仲間やものが集まりました(笑)。
ーー (笑)すごいです。
お茶や俳句などに精通した
ブロガーを呼んだのには、理由があるんですか?
尾崎 外国人が日本に来るときって、
まず、東京や京都に行きますよね。
四国まで来てくれる人は、
100人に1人くらいなんです。
そんな状況なのに、
漠然と「四国を見てください」と
不特定多数の人にPRしても意味がない。
欧州に茶道や俳句や盆栽が広がっているのを
現地で実感していましたので、
それらの日本文化に傾倒した欧州人を招くことで、
彼らによるブログ発信が
一般の外国人の心も捉えてくれればといいなと思いました。
ありがたいことに香川には茶の湯文化が根付いており、
多くの協力者にも恵まれたんです。
ーー 具体的にどういうツアー内容になったんですか?
尾崎 香川で登り窯を持っている方による「抹茶茶碗制作」、
前衛書家による「掛け軸制作」、
香川県漆芸研究所で「菓子盆制作」、
和菓子店で「和菓子作り」、
京都の伝統工芸士による「茶灼・花器制作」、
栗林公園での「お茶会」、
そして、最後の仕上げに
高松で1番人気のある野外スポットで
彼らが「抹茶のお接待」をするという内容です。
ーー うわぁ、盛りだくさんですね!
これらをすべて実現されたなんて、すごいです。
尾崎 ええ、前代未聞の「茶の湯研修ツアー」に
なったんですけど、
これは、多くの人々の協力があったからこそ
実現できたことなんです。
本来なら、海外に日本の茶道を紹介するというのは
茶道の世界に住む人にしか
できないことだと思うんですが‥‥。
四国の文化を伝えるため、
彼らに最高のおもてなしをしてくださった
地元のみなさんに感謝しています。

▲茶の湯研修ツアー
ーー 強力なサポートを得て、
遍路文化が根付く四国ならではの
「お接待」ができたんですね。
ツアーの期間はどれくらいだったんですか?
尾崎 2週間です。
私が旅行代理店みたいなもので、
全部のスケジュールを考えました。
彼らのパリ〜高松の往復航空券は
国が負担してくれるのですが、
それ以外の食事代、宿泊代、国内の移動費は
ありませんから、無料で提供してもらえるよう、
自治体や企業に私がお願いに行くんです。
ーー えっ、それ全部、
ただで提供してくれるところを
見つけるんですか。
尾崎 そう。
「四国のことを紹介したいから
 協力してくれませんか」って、
頭を下げてお願いするわけです。
真っ先に行ったのは「JR四国」でした。
社長さんに、これは国交省の
支援事業だということを説明して、
「四国にフランス人たちを呼びますので、
 移動のJRを提供してくださいませんか」
というお願いをしました。
VIP対応の立派な応接室で
「ただにしてもらう」話をするなんて、
ありえませんよね。
そしたら、社長が「よっしゃ」と言ってくださって。
本当にありがたいです。
ーー わぁ。またトップに許可をもらって。
尾崎 はい。そして次は、
あちこちのホテルの支配人にお願いして、
2週間分の宿代を無料にしていただきました。
私は働いた経験がないので
こういう交渉の仕方も、
毎回、現場で覚えていくしかなくて‥‥。
ーー きっと尾崎さんの熱意が
伝わっているんでしょうね。
尾崎 何回も行っているので
「また来たな」と思われているでしょうけどね。
きっと、私は、お金儲けじゃないからこそ
どこへでも行けるんです。
自分がお金儲けしてたら、
「協力してください」とは言えないですよね。
いくら四国のPRをするといっても、
「でも、尾崎さん、結局それであんたとこ儲かるやん」
なんて言われたら終わりじゃないですか。
もし、実家がうどん業者で「うどんをPR!」って言うと
「でも、あんた、うどん屋だから」となるけど、
これがどこにも引っかかってないわけで。
ーー はい。
尾崎 「四国夢中人」の活動は
特定の組織や団体に属さず、
金銭がからんでいないことが
大切なんだなと思いましたね。

(つづきます)
 
2014-06-24-TUE

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