すごいお母さん、 EUの大統領に会う   香川県丸亀市に 尾崎美恵さんという女性が住んでいます。 ごくふつうの主婦として家を守り、 ごくふつうに3人のお子さんを 育てていましたが、 ある日、たった一人で四国の文化を ヨーロッパに紹介する活動をはじめます。 その行動力はすさまじく、 なんと「EUの大統領」にまで会ってしまいました。 いったい、どんな方なんでしょう。 同じく丸亀市出身の「ほぼ日」藤田が 会いに行きました。
第6回:スリに2度遭う
  (家の中へ移動して)
ーー 四国ツアーには、
何人のフランス人を呼んだんですか?
崎尾 5人です。
在仏日本大使館や在仏の日本文化団体や協会など
80ヵ所くらいに仏語の募集要項を送って
フランス人への告知をお願いしたんです。
そして、250人くらいのエントリーが集まり、
それを5人に絞りました。
ちなみに初年度はフランス人だけでしたが、
現在では、欧州全域から募集しています。
それで、2週間の行程を組むというのは
300ピースのジグソーパズルを
全部埋めるような作業なんです。
宿や、食事場所を全部埋めて、
JRが通っていない場所の移動も埋めて。
埋められなかったら、そこを自分が払うので‥‥
5人が限界ですね。


▲ブロガーの方々が到着!
ーー それは大変ですね。
しかも、トラブルがあったときにも
全部、対応しないといけないでしょうし。
尾崎 そうですね。結局、お金を出さずに
泊めてもらっているというのは
プレッシャーがものすごいんです。
ちゃんとその場所がPRされないといけないし、
提供してくれた人に失礼がないように
彼らにマナーを守って過ごしてほしいし。
時間通りに全てがきちっといくように
神経をはりめぐらせています。
また、取材に来るメディアの対応もし、
毎回、アタフタしながら
「ああ、次の行程の時間が‥‥
 どうしよう、どうしよう‥‥」って、
それで頭がいっぱいだから、
ブロガーたちと一緒に
「一服いかがでしょうか?」
「一句詠めましたか?」などと
お茶や俳句を楽しんでいる暇がなくて。
ーー それくらい、必死なわけですね。
でも、外国人のみなさんには
すごく喜ばれそう。
尾崎 ええ。外国人は観光旅行で
何かを見るんじゃなくて
我々とふれあいたいと思っているんです。
それに、日本人以上に、お茶や盆栽や俳句を
ずっとやってきた人というのは、
本場の日本でそれを体験することが夢なんです。
そこで、たとえば俳句ツアーでは、
正岡子規、山崎宗鑑、種田山頭火、栗田樗堂といった
俳人の墓参りをして、記念館や
俳人の庵を訪問していただきました。
そこでは同好会の人々が心待ちにして
彼らのお接待をしてくれたんです。
日本の俳人の方々も、フランスの俳人が
わざわざ取材にきてくれるということで
ものすごく感動されていて。
日仏双方の俳人たちが言葉の壁を乗り越えて
意思の疎通をしているのを見て
「文化の力」の大きさを感じたんです。
もともと、この俳句巡りツアーに関しては
企画を推進してくださっていた在仏のご夫妻がいて、
その方をはじめ、多くの方のご協力なくしては
できなかったことでした。
本当にみなさんに感謝しています。


▲日仏俳句交流  (NPO法人まつやま山頭火倶楽部のみなさんと)
ーー とても感動的な体験だったんですね。
尾崎さんも、2週間ずっと一緒に行動されるんですか。
尾崎 ずっとです。
私が「ただで泊めてください」とお願いした以上、
私が行かないと、宿の人もフランス人も
事情が分からないわけです。
言葉も通じないし、
「今日の食事は何時にしたほうがいい」とか
当日のいろんな細かい詰めもありますよね。
だから、添乗員生活をまるっと2週間やる感じで。

ーー まさに「添乗員」ですね。
しかも、それ以上のことまで‥‥。
尾崎 ええ。企画立案からはじまって、
プレゼン、資金集め、メディア対応まで‥‥。
しかも結果を残さないといけないから
やっていることは添乗員というより
旅行代理店業とプラスアルファのあれこれを
一人でやっているようなものですよね。

ーー ものすごく大変そうです。
でも、それほど徹底的に考えられているので、
参加されたみなさんも
大満足で帰国されそうですね。
尾崎 うん、ただ、彼らには
最後は寝られないくらいの
大仕事が控えているんです。

ーー え?
尾崎 最後に彼らの「報告会」が入っているんです。
つまり、宿泊や移動を
無料にしてくださった方たちを集めて
「四国でどんなことしたか」を発表するんです。
参加したフランス人たちに、
報告会でプレゼンをするための
パワーポイントの資料を準備してもらうんですが、
最後の3日間ぐらいは、
彼らもほとんど寝られないんです。

ーー わぁ、ただで日本に来たけれど
最後は寝られない‥‥。

▲ブロガーたちの報告会
尾崎 ええ、でも、その仕事をやっていただいて
報告会で支援者に納得していただかないと
「次回」がなくなってしまいます。
だから最後は、もうお互い殺気が漂ってますよ。
しかも、私は家庭があるから、夜は帰宅します。
県外に行ったときは泊まりますけど、
香川県内で移動する日は家に帰って、
また早朝に出かけるんです。
家でも、夜中遅くまでいろんなメディアの対応を
しないといけないわけです。
プレスリリースも出して。

ーー プレスリリース。
尾崎 ええ。マスコミ、テレビ局、新聞社に
「こんど報告会があるから来てください」と。
そんな感じだから、
この2週間は目が落ち込むし、痩せるし‥‥
最高のダイエットです(笑)。
ジャパンエキスポもそうなんですけど、
見えているところは楽しそうだけど
見えていないところはすさまじいですよ。

ーー それでも尾崎さんがやり続けておられるのは、
喜んでくれる人がいるという
使命感のようなものがあるからでしょうか。
尾崎 自分のミッションだと思っているんでしょうね。
でも、主人に言わせたら
「とんでもない思い違いだ」って(笑)。

ーー (笑)
尾崎 あと、使命感以外には、
ダイナミックにいろんな物事を動かしていく、
醍醐味もあります。
めちゃくちゃ大変なんだけど
そのぶん達成感があって。

ーー たしかに、すごくおもしろそうですよね。
そのぶん想像もつかないような
ご苦労がありそうですけど。
尾崎 もうボロボロですよ(笑)。
それを懲りずにずっとやってきて、
いろんな方々に喜んでいただけたので、
無駄じゃなかったかなという感じです。
「成功体験」みたいに思われるんですけど、
私の中では、本当は失敗の連続なんです。
パリのジャパンエキスポに行って疲れて
やっと体調を戻したころに
こんどは日本での四国ツアーがはじまって、
四国ツアーが終わったら、
またパリがはじまって‥‥。

ーー 交互に、大変な思いを。
尾崎 ええ。
「ああすればよかった、こうすればよかった」という
失敗をしょうこりもなく繰り返しているんです。
ジャパンエキスポでは、
その日の売上金が全部すられたこともありました。

ーー えっ‥‥。
尾崎 日本のバザーなんかでも、
お金を入れる箱があって
そこへ売り上げたお金やおつりを
入れておくじゃないですか。
それと同じように、
お金を入れたり出したりしていたんですけど、
ふっと気づいたら、
「さっきまであったものが、ない!!!」って。
商品の売上げを、
高いお金を出した輸送費の足しにしたいのに、
なくなっちゃって。
しかも、5回行って‥‥2回も。

ーー 2回も!
尾崎 バカだとしか言いようがないんですが‥‥。
あちらは、主催者でさえも被害にあうほど、
窃盗団がすごいんですね。
フランス人のボランティアスタッフが
いてくれるんですが、
それでも窃盗団から見ると
我々から盗るのはきっと簡単でしょうね。
隙だらけで。
ジャパンエキスポって
ブースだけじゃなくてステージもあって、
ステージ上で何をやっても無料なんです。
私は毎年、四国にブロガーを呼んでいるから、
その経験をした人たちに、
そこでプレゼンをしてもらうわけです。
そういう四国PRのための
企画もいっぱい入れているから、
私もブースにいたりいなかったりで
慌ただしくて、お金のことなんか
どっかへ飛んでしまってるんです。
で、あっさり盗まれて、
「二度とパリの土は踏みたくない!」と怒りながら
日本に帰って来るんですけども、
またしっかりと次回も行っているんです。

ーー それでも、行かれるんですね。
尾崎 ええ、ビジネスで行く人は
ジャパンエキスポで儲けることが
目的かもしれないんですけども、私は
ジャパンエキスポというものを使って
どれだけのネットワークを
パリで作れるかが目的なんです。
いくら四国で一人でワーワー言ったって
どうにもならないことも、
フランスで人と出会って絡むことによって
できる可能性が広がりますよね。
自分がやろうとしている企画が
実現可能な範疇になっていくわけだから、
トラブルや失敗があっても
毎年出かけているんです。

▲フランス人による遍路体験講演。
 2011年、フランス国立ギメ東洋美術館にて。
  (つづきます)
 
2014-06-25-WED

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