- 浅生
- その事故のときに、やっぱり僕と同じような事故で
入院していた人がいたんです。年齢も近かったんだけど。
その人は事故の相手が、大きな会社の社長さんかなんかで、
早い段階から、弁護士が来て、「3億はかたいですよ」
みたいな話をしてたんです。同じ病室で。
- 糸井
- ああ。
- 浅生
- こっちは無保険の車だったから、ビタ一文出ない状態で。
とにかく早く社会復帰して働かなきゃいけないんで、
一生懸命リハビリするんです。
ところが、同じ病室のその人は、治れば治るほど慰謝料が
減るんで…。要するに、後遺症が重いほどお金がもらえるから、
リハビリをあんまり頑張らなかったんですよ。
結果どうなったかっていうと、僕は今こうしているんですけど、
たぶん、その人は今もまだちゃんと歩けない状態なんです。
- 浅生
- この事故で、死ぬとは何かを僕はちょっと理解したんです。
- 糸井
- 身体でね。
- 浅生
- 本当かどうかは、わからないにしても、体験した。
よく、死ぬのが怖くないから、俺はなんでもできる、
みたいなことを言う人がいるけど、それも嘘で…。
僕、死ぬのは怖くなくなったんですよ。
死ぬって、こういうことか、とわかったから。
だからと言って、死ぬのはいやですから。
怖いのといやなのは、違うじゃないですか。
- 糸井
- きっと、より嫌になるでしょうね。
どうですか、そのへんは?
- 浅生
- なんか、すごく淋しい。
- 糸井
- それは若くして、年寄りの心をわかったね。
僕は歳をとるごとに、死ぬ怖さが失われてきたの。
もう最後に、自分が「お父さん」とか呼ばれながら
死ぬシーンを、想像しているわけ。
で、そのとき、何かひとこと言いたいじゃない。
それを、しょっちゅう考えては、更新しているの(笑)。
けっこう長いこと、これがいいな、と思っていたのが、
「あー、おもしろかった」って。これが理想だなって。
嘘でもいいから、そう言って死のうと思ってた。
この頃は、違うの。
さあ、命尽きるっていう最後に、「人間は死ぬ」(笑)。
- 浅生
- ああ、真理を…。
- 糸井
- そう。「人間は死ぬものだから」って、
それを皆さまへの最期の言葉にかえさせていただきたます。
- 浅生
- 養老先生でしたっけ?
人間の死亡率は100%であると言われていたのは。
- 糸井
- うん、それは遺伝子に組みこまれているから、
明らかにわかっていることなんだって。
「死ぬ」がリアルになると、「生きる」を考える機会が
多くなりますよね。
- 浅生
- そうですね。だからといって、何かを世に遺したい、とか
そういう気は毛頭ないんだけど(笑)。
ただ、死ぬのは、すごく淋しいことだと、僕は体験したので
生きているあいだは、楽しくしよう、って。
知らない人とワーッと盛り上がるのは苦手だから、
パーティーに行く気もないし、引きこもりがちなんだけど、
それでも、できるだけ楽しく人と接しよう。
ニコニコするのはあんまり上手じゃないんで、
ニヤニヤして生きていこう、みたいな感じなんです。
- 糸井
- どんな子供だったんですか? みんなと溶け込んでたの?
- 浅生
- 表面上は…。
神戸で生まれ育って、高校出るまではずっと神戸でした。
ちょうど校内暴力時代で、スクールウォーズの頃だったから、
中学の先生が、ヌンチャク持ってるんですよ(笑)。
- 糸井
- ちょっとまた、おもしろくしようとしてるでしょ(笑)。
- 浅生
- いや、してないんです。
本物のヌンチャクとか竹刀を持っている先生がいて、
生徒が悪いことすると、頭をやられるんです。
で、生徒側もただではやられないので、それに対抗する
ワルもいて、さながら、マッドマックスの世界です。
- 糸井
- (笑)
- 浅生
- それでも、うちは、まだマシな方で。
バレーボールに灯油かけて、火をつけて投げるみたいな
中学もあったから。幸い、うちの学校は山の上にあったから、
他校が殴り込みに来れない、というのが利点で。
みんな坂の途中で、息が上がっちゃうから(笑)。
- 糸井
- そんななかで、浅生さんはどんな役だったんですか?
- 浅生
- 僕は、うまく立ち回る…。
強そうな奴がいたら、そいつの近くにいるけれど、
積極的には関わらない。腰巾着まではいかない
ポジションを確保してました。
- 糸井
- いかにも戦国時代のドラマに出てきそうな(笑)。
- 浅生
- 中学の頃、僕はからだも小さかったから、
ターゲットになると、しばらくイジメられるんで、
とにかくターゲットにされないように、
立ち回ってました。
- 糸井
- 考えとしてはそうでも、相手が決めることだから、
そんなにうまくいかないでしょう?
- 浅生
- でも、相手が得することを提供してあげれば。
中学生だから単純で、ほめれば、よろこぶわけですよ。
その子が思いもしないことで褒めてあげれば…。
ケンカ強いやつに、「ケンカ強いね」っていうのは、
みんな言うけど、「きみ、字がきれいだね」って言うと、
「おっ!」ってなるじゃないですか。
- 糸井
- すごいね、それ!(笑)
- 浅生
- そうやって、なんとか自分のポジションを…。
- 糸井
- 磨いたわけだ。よく関西だと、そういうのに対抗する強さは、
お笑いだから、「それで、お笑い芸人になった」みたいな人、
いっぱいいるじゃない。あれに、ちょっと似てますね。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 「字、きれいだね」って、お笑いじゃないんだけど。
- 浅生
- 人とちょっと違う球を投げるというか、
違う切り口で、そこに行く。
- 糸井
- 今も似たようなことをやってますね、なんか。
- 浅生
- 常に、立ち位置をずらし続けている感じが。
- 糸井
- 安定していると、じっと見ているうちに、
弱みも強みもわかってきて、いいことも悪いことも
あるんだけど、いいことも悪いこともなくていいから、
今日を生きよう、できるだけ楽しく、
ということですよね。
- 浅生
- そう。今もそうです。
- 糸井
- いやあ、なるほど。ちょっと動物っぽいですね。
- 浅生
- 子供の頃から、あんまり目立ちたくなくて。
- 糸井
- やっぱり、それは自然に目立っちゃうからでしょうね。
- 浅生
- そうですね。どうしても目立ちがちなので、
目立たないようにするには、どうしようかなって。
- 糸井
- 若くしてグラビアアイドルみたいな子、いるじゃない?
ああいう子の心の中って、えらい大変だろうね。
あれで田舎にいたら、って考えると…。
- 浅生
- そうでしょうね。
- 糸井
- あんなボディをした子がさ、教室で社会の勉強とかしてる
わけでしょう。それは、浅生さんどころじゃないよね。
- 浅生
- たいへんだと思います。
- 糸井
- はあ、僕これからはそういう目で
あの人たちを見ようかな?
(つづきます)