もくじ
第1回めんどくさいが理由で、嘘つきになっちゃった 2016-10-18-Tue
第2回死ぬって、こういうことか… 2016-10-18-Tue
第3回嘘に本当を混ぜると、全部が本当に見える 2016-10-18-Tue
第4回「今から、ユルいツイートをします」 2016-10-18-Tue
第5回愛と名づけたものと、犬って同じですよね 2016-10-18-Tue
第6回表現しない人生は、考えられないでしょ? 2016-10-18-Tue

ふだんは、本の編集をしています。

あらゆる人間は100%死ぬから、 </br>僕はニヤニヤして生きていきたい。</br>浅生鴨 × 糸井重里

あらゆる人間は100%死ぬから、
僕はニヤニヤして生きていきたい。
浅生鴨 × 糸井重里

第2回 死ぬって、こういうことか…

浅生
その事故のときに、やっぱり僕と同じような事故で
入院していた人がいたんです。年齢も近かったんだけど。
その人は事故の相手が、大きな会社の社長さんかなんかで、
早い段階から、弁護士が来て、「3億はかたいですよ」
みたいな話をしてたんです。同じ病室で。
糸井
ああ。
浅生
こっちは無保険の車だったから、ビタ一文出ない状態で。
とにかく早く社会復帰して働かなきゃいけないんで、
一生懸命リハビリするんです。
ところが、同じ病室のその人は、治れば治るほど慰謝料が
減るんで…。要するに、後遺症が重いほどお金がもらえるから、
リハビリをあんまり頑張らなかったんですよ。
 
結果どうなったかっていうと、僕は今こうしているんですけど、
たぶん、その人は今もまだちゃんと歩けない状態なんです。

浅生
この事故で、死ぬとは何かを僕はちょっと理解したんです。
糸井
身体でね。
浅生
本当かどうかは、わからないにしても、体験した。
よく、死ぬのが怖くないから、俺はなんでもできる、
みたいなことを言う人がいるけど、それも嘘で…。
僕、死ぬのは怖くなくなったんですよ。
死ぬって、こういうことか、とわかったから。
だからと言って、死ぬのはいやですから。
怖いのといやなのは、違うじゃないですか。
糸井
きっと、より嫌になるでしょうね。
どうですか、そのへんは?
浅生
なんか、すごく淋しい。
糸井
それは若くして、年寄りの心をわかったね。
僕は歳をとるごとに、死ぬ怖さが失われてきたの。
もう最後に、自分が「お父さん」とか呼ばれながら
死ぬシーンを、想像しているわけ。
 
で、そのとき、何かひとこと言いたいじゃない。
それを、しょっちゅう考えては、更新しているの(笑)。
けっこう長いこと、これがいいな、と思っていたのが、
「あー、おもしろかった」って。これが理想だなって。
嘘でもいいから、そう言って死のうと思ってた。
 
この頃は、違うの。
さあ、命尽きるっていう最後に、「人間は死ぬ」(笑)。
浅生
ああ、真理を…。
糸井
そう。「人間は死ぬものだから」って、
それを皆さまへの最期の言葉にかえさせていただきたます。
浅生
養老先生でしたっけ? 
人間の死亡率は100%であると言われていたのは。
糸井
うん、それは遺伝子に組みこまれているから、
明らかにわかっていることなんだって。
「死ぬ」がリアルになると、「生きる」を考える機会が
多くなりますよね。
浅生
そうですね。だからといって、何かを世に遺したい、とか
そういう気は毛頭ないんだけど(笑)。
ただ、死ぬのは、すごく淋しいことだと、僕は体験したので
生きているあいだは、楽しくしよう、って。
 
知らない人とワーッと盛り上がるのは苦手だから、
パーティーに行く気もないし、引きこもりがちなんだけど、
それでも、できるだけ楽しく人と接しよう。
ニコニコするのはあんまり上手じゃないんで、
ニヤニヤして生きていこう、みたいな感じなんです。

糸井
どんな子供だったんですか? みんなと溶け込んでたの?
浅生
表面上は…。
神戸で生まれ育って、高校出るまではずっと神戸でした。
ちょうど校内暴力時代で、スクールウォーズの頃だったから、
中学の先生が、ヌンチャク持ってるんですよ(笑)。
糸井
ちょっとまた、おもしろくしようとしてるでしょ(笑)。
浅生
いや、してないんです。
本物のヌンチャクとか竹刀を持っている先生がいて、
生徒が悪いことすると、頭をやられるんです。
で、生徒側もただではやられないので、それに対抗する
ワルもいて、さながら、マッドマックスの世界です。
糸井
(笑)
浅生
それでも、うちは、まだマシな方で。
バレーボールに灯油かけて、火をつけて投げるみたいな
中学もあったから。幸い、うちの学校は山の上にあったから、
他校が殴り込みに来れない、というのが利点で。
みんな坂の途中で、息が上がっちゃうから(笑)。
糸井
そんななかで、浅生さんはどんな役だったんですか?
浅生
僕は、うまく立ち回る…。
強そうな奴がいたら、そいつの近くにいるけれど、
積極的には関わらない。腰巾着まではいかない
ポジションを確保してました。
糸井
いかにも戦国時代のドラマに出てきそうな(笑)。
浅生
中学の頃、僕はからだも小さかったから、
ターゲットになると、しばらくイジメられるんで、
とにかくターゲットにされないように、
立ち回ってました。
糸井
考えとしてはそうでも、相手が決めることだから、
そんなにうまくいかないでしょう?
浅生
でも、相手が得することを提供してあげれば。
中学生だから単純で、ほめれば、よろこぶわけですよ。
その子が思いもしないことで褒めてあげれば…。
ケンカ強いやつに、「ケンカ強いね」っていうのは、
みんな言うけど、「きみ、字がきれいだね」って言うと、
「おっ!」ってなるじゃないですか。
糸井
すごいね、それ!(笑)
浅生
そうやって、なんとか自分のポジションを…。
糸井
磨いたわけだ。よく関西だと、そういうのに対抗する強さは、
お笑いだから、「それで、お笑い芸人になった」みたいな人、
いっぱいいるじゃない。あれに、ちょっと似てますね。
浅生
そうですね。
糸井
「字、きれいだね」って、お笑いじゃないんだけど。
浅生
人とちょっと違う球を投げるというか、
違う切り口で、そこに行く。
糸井
今も似たようなことをやってますね、なんか。
浅生
常に、立ち位置をずらし続けている感じが。
糸井
安定していると、じっと見ているうちに、
弱みも強みもわかってきて、いいことも悪いことも
あるんだけど、いいことも悪いこともなくていいから、
今日を生きよう、できるだけ楽しく、
ということですよね。
浅生
そう。今もそうです。
糸井
いやあ、なるほど。ちょっと動物っぽいですね。
浅生
子供の頃から、あんまり目立ちたくなくて。
糸井
やっぱり、それは自然に目立っちゃうからでしょうね。
浅生
そうですね。どうしても目立ちがちなので、
目立たないようにするには、どうしようかなって。
糸井
若くしてグラビアアイドルみたいな子、いるじゃない?
ああいう子の心の中って、えらい大変だろうね。
あれで田舎にいたら、って考えると…。
浅生
そうでしょうね。
糸井
あんなボディをした子がさ、教室で社会の勉強とかしてる
わけでしょう。それは、浅生さんどころじゃないよね。
浅生
たいへんだと思います。
糸井
はあ、僕これからはそういう目で
あの人たちを見ようかな?

  (つづきます)

第3回 嘘に本当を混ぜると、全部が本当に見える