- 糸井
- 日本でいちばん、買ったけど読んでないということを、
申し訳なさそうに告白する人の多い本『アグニオン』。
浅生さんのはじめての小説、僕は2冊もっています。
- 浅生
- 女川でも、そういう人に会いました。持ってますって。
なんですか、この現象!(笑)。
ふだん本を読まないようなタイプの人が、買いました!
って言ってくれるんだけど、なんだか、申し訳なくて…。
- 糸井
- それなら、書くなよ(笑)。
- 浅生
- でも、発注されたから、しょうがないんです(笑)。
- 糸井
- そもそも、どんなはじまり方だったんですか?
- 浅生
- はじまりは2012年かな。その頃、ツイッターが炎上して、
始末書を書かなくちゃいけなかったりして、落ち込んで、
しょんぼりしていたところに、新潮社の編集者がやってきて、
なんでもいいから、書いてもらえませんか?
って言われたのが、最初です。
- 糸井
- そうなんだ。
- 浅生
- そのときに「yomyom」という小説誌を渡されて、
この雑誌に何が足りないと思いますか、って聞かれたから、
若い男の子向けのSFとかは、今この中にはないよね、
という話をして、とりあえず10枚くらい書いてみたら、
その編集者が、これおもしろいから、ちゃんと物語にして、
連載しましょう、という話になって。
- 糸井
- SFは、もともとけっこう読んでいたんですか?
- 浅生
- 嫌いではないですけど、そんなにマニアではないです。
- 糸井
- でも、いっぱい読んでますよね。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 日本の古い映画とかもけっこう観てますよね?
- 浅生
- 観てます。
- 糸井
- 海外ドラマシリーズなんかも…。
- 浅生
- ああ、けっこう観てますね。
- 糸井
- もう、そのあたりがずるいんだよ。
- 浅生
- ずるくないですよ。ちゃんとケーブルテレビにお金払って、
観てますもん(笑)。
- 糸井
- 僕、海外ドラマシリーズとか、1シーズン観て、
2シーズン目の途中で、もうめんどくさいもん(笑)。
- 浅生
- なかには、11シーズンとかあるんですよ。
もう勘弁してくれって、思いながら、見るんですけど。
- 糸井
- 猫もあきれるよね。
- 浅生
- どう考えても、7シーズンで終わるべきだったやつが
ダラダラ続いて、10とか11まで行かれた日には…。
- 糸井
- それ、何のことですか?
- 浅生
- 「クリミナル・マインド」とか。
もう、打ち切れ!とか内心思ってるんですけど(笑)。
- 糸井
- あれ、そんなことになってるんですか。
「ロスト」は何シーズンですか?
- 浅生
- 「ロスト」はシーズン5か6で、最後ぐだぐだですよ。
まあ、最初からだけど(笑)。あれは作り方がおもしろくて、
脚本家がいっぱいいて、それぞれが好きにエピソードを
書いていくんです。
- 糸井
- それで、伏線の始末は、お前がやってくれ、って
いうんでしょ。
- 浅生
- そう、それです。『アグニオン』で辛かったのは、
全部、自分で始末しなきゃいけないんで。
- 糸井
- 当たり前じゃん(笑)。
- 浅生
- しかも連載だから、自分でもどんな話になるかわからないのに、
いろいろ伏線を仕込んで、回収していかなきゃならなくて。
- 糸井
- 『おそ松くん』を連載で読んだ経験のある僕からすると、
そういうのは、全然気にすることないと思うね。
だって、『おそ松くん』は、おそ松くんが主人公の
六つ子の物語のはずなのに、チビ太やデカパンとか、
異形の者たちの話になっちゃってるもんね。
- 浅生
- 『アグニオン』もそうで、実は原稿用紙で500枚ぐらい書いて。
その最後にそれまでの物語を解決するための舞台まわしとして、
ひとりの少年が出てきたんだけど、それを読んだ編集者が、
この少年がいいですね、彼を主人公にもう一回書きませんか?
と言われて、だから最初の500枚は全部捨てて、
もう一回そこから書き直したんです。
- 糸井
- めんどくさがりなわりに、そういうことできるんですね。
- 糸井
- だって、表現しないで一生を送ることもできたのに、
でも、表現しない人生は、やっぱり考えられないでしょ?
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 受注じゃないとできないのに。
- 浅生
- そこが、困ったところで(笑)。
- 糸井
- そこですよね。
- 浅生
- たぶん、それが一番の矛盾なんだと…。
- 糸井
- 何も書くことないんですよ、とか、
言いたいことなんてないし、仕事もしたくないです、
と言いながらも、なにか表現していないと…。
- 浅生
- 生きてられない。
- 糸井
- そうなんです。
- 浅生
- でも、受注がない限りはやらないっていう。ひどいですよね。
- 糸井
- 受注があったら、僕は表現する欲が満たされるから、
大いに好きでやりますよ、めんどくさいけど、って。
僕もそうだから、そこが浅生さんと似ているんじゃないか、
という気がします。
- 浅生
- (笑)
- 糸井
- 「表現したい欲」って、裏表になっているのは、
「じっと見たい欲」ですよね。
もっと知りたい、とか、今の動きいいな、って
そういうことでしょう?
- 浅生
- 画家の目がほしんですよ。あの人たち、僕らとは、
違うものを見てるじゃないですか?
- 糸井
- たぶんそれは、僕なんかが考える、女の目がほしいとか、
そういうのと同じことじゃないですかね。
- 浅生
- ああ、そうですね。
- 糸井
- そういえば、臨終の言葉を、僕はさっき言ったんだけど、
浅生さんだったら、自分が死ぬとき、なんて言いますか?
- 浅生
- 前に死にかけたときには、死にたくないって思ったんですよ。
すごく死にたくなかった…。
だから、もし今、急に死ぬことになったとしたら、
そうだな、仕方ない、かな。
(おしまい)