もくじ
第1回めんどくさいが理由で、嘘つきになっちゃった 2016-10-18-Tue
第2回死ぬって、こういうことか… 2016-10-18-Tue
第3回嘘に本当を混ぜると、全部が本当に見える 2016-10-18-Tue
第4回「今から、ユルいツイートをします」 2016-10-18-Tue
第5回愛と名づけたものと、犬って同じですよね 2016-10-18-Tue
第6回表現しない人生は、考えられないでしょ? 2016-10-18-Tue

ふだんは、本の編集をしています。

あらゆる人間は100%死ぬから、 </br>僕はニヤニヤして生きていきたい。</br>浅生鴨 × 糸井重里

あらゆる人間は100%死ぬから、
僕はニヤニヤして生きていきたい。
浅生鴨 × 糸井重里

第5回 愛と名づけたものと、犬って同じですよね

糸井
「ドコノコ」ってアプリを考えたときに、
これは一種の自動生成プロジェクトだから、
本部機能があったほうがいいと思って、
そのときに、思い浮かんだのが、浅生さんでした。
ちょうどNHKを退職して、フリーになったばかりで、
しかも頼まれると、嫌って言わない人だから。
立ち上げ当初からのメンバーですよね。
浅生
そうですね。たしか、7月いっぱいでNHKを辞めて、
8月に始まって、もう2年になりますね。
糸井
本棚のページと、全体の構造を担当してもらっています。
浅生
はい、ストラクチャーの構築を(笑)。
糸井
あれは、@NHK_PRの仕事にちょっと似てるんじゃない?
浅生
確かにそうですよね。

糸井
浅生さんのおうちでも、犬を飼われていたんですよね?
浅生
神戸の家で、僕が中学か高校のはじめ頃に、
柴犬とチャウチャウのミックスという、どう見ていいのか
わからない(笑)、すごくかわいい子犬がやってきて、
ずっと面倒を見ていました。頭のいい犬でしたね。
僕が大学進学のタイミングで上京して、しばらくして、
神戸の震災のあとに、親も東京に出てきたんです。
 
ただ、犬は連れて来れなかったから。
実家は広い庭があって、庭が山と繋がっているようなところ
だったので、ふだんから放し飼いで、母が週に何度か帰って、
エサと水を用意する生活を続いていて。
糸井
半野生みたいな状態で。
浅生
子犬の頃からずっとそうで、勝手に山の中を駆け回っていて、
「ごはんだよー」って呼ぶと、山の向こうから「ワウワウ!」
 言いながら姿を現わす、半野生のワイルドな犬でした。
糸井
神戸って聞くと、みんな外国人墓地とか、おしゃれな街を
想像しますけど、実際にはかなり山に近いんですよね。
浅生
南の港のほうはごく一部で、
北側の広い範囲は山だったりするので。
糸井
そういうところに、犬がいた。
浅生
そこで、犬は年老いて、17、18歳となり…。
糸井
あ、そんな年になっていたんだ?
お母さんが神戸と東京を行ったり来たりしている時期って、
何年ぐらい続いたんですか?
浅生
どのくらいだろう。たぶん、6年くらいだと思うんですけど。
糸井
そうだったんだ。
浅生
それで、最終的に、犬が戻ってこなかったんです、山から。
僕も神戸の家に戻るたびに、大声で呼んでたんだけど、
ついに現れなくなった。たぶん、年を取っていたし、
ふつうに考えると、山の中で亡くなったんだと思うんですけど、
とにかく姿を見ていないので、まだどこか亡くなったことを
信じきれない感じがしちゃうんです。
 
あとは、やっぱり僕や母が東京に来ている間、山の中で楽しく
やっていただろうとは思うんだけど、家に戻ってきたときに、
誰もいないのは、淋しかっただろうなあ。
本当に悪いことをしたなあって。
無理してでも、東京に連れて来ればよかった…。
糸井
当時は、彼女は彼女で悠々自適に暮らしてる、と思ってたけど、
今にして思えば、そうとは限らなかったな、と。
浅生
僕は貧乏生活だったから、とても犬どころじゃなかったけど、
それでもなんとかして、東京に連れてきたほうが、
走り回ることはできないけど、淋しくはなかったんじゃないか
と思うと、どうしても後悔がのこってしまって。
糸井
僕は、浅生さんの家の犬がそんなに長く生きた犬だと
知らなかったから、山と家を行ったり来たりしていた犬が、
ある日、呼んだら来なかった、というおもしろい話として、
語られているようにこれまで捉えていたけど、
こうやって聞くと、切ない話ですね。 
浅生
でも、物事はだいたい切ないんです。

糸井
犬って、飼い主の考えている愛情のかたち、
そのまんまですよね。
浅生
そうなんです。それが怖いんです。
糸井
同棲生活をしている家で飼われている犬が、愛の終わりとともに
押しつけ合われたり、だんだん面倒を見てもらえなくなったり。
愛と名づけたものと犬って、同じですよね。
浅生
うかつに飼うと、犬も人も、どっちも後悔するし、
かなしい思いをするので。
糸井
犬の話は、聞くんじゃなかったと思うくらい、かなしい。
僕は、浅生さんからクライマックスの面白いところだけを
聞いていたから、ある日、犬が山から降りて
こなくなっちゃって、だから、きっと、今もまだどこかを
走ってるんですよ、という、小説じみた話だったんだけど、
案外リアリズムって、かなしいんですよね。
浅生
かなしいんです。だから、僕は嘘をついちゃうわけで。
かなしいところを削って、面白いところだけ提示しちゃう。
それなので、突き詰めていくと、あれあれ?
ということが、いっぱい出てきちゃうんですね。
糸井
浅生さん、やっぱりインタビューとかされちゃ、
ダメなのかもしれないね。
浅生
本来そうなんです。だから、隠れて生きていたっていう、
そこに立ち戻るんですけど。
糸井
でも、人ってそういうところがありますよね。
背負いきれないことは、水面下の話にしておきましょうって
約束事が、お互いが生きていくためにある気がします。
浅生
今はとくに、みんなが大切に持っている箱を
無理やり開けようとする人たちがいるから。
糸井
底の底の話を自分からするのは、いいけど、
他人が、「この人の底の底にこんなものがありましたよ」って
探し出してくるのは、いやだよね。

(つづきます)

第6回 表現しない人生は、考えられないでしょ?