- 糸井
- 「ドコノコ」ってアプリを考えたときに、
これは一種の自動生成プロジェクトだから、
本部機能があったほうがいいと思って、
そのときに、思い浮かんだのが、浅生さんでした。
ちょうどNHKを退職して、フリーになったばかりで、
しかも頼まれると、嫌って言わない人だから。
立ち上げ当初からのメンバーですよね。
- 浅生
- そうですね。たしか、7月いっぱいでNHKを辞めて、
8月に始まって、もう2年になりますね。
- 糸井
- 本棚のページと、全体の構造を担当してもらっています。
- 浅生
- はい、ストラクチャーの構築を(笑)。
- 糸井
- あれは、@NHK_PRの仕事にちょっと似てるんじゃない?
- 浅生
- 確かにそうですよね。
- 糸井
- 浅生さんのおうちでも、犬を飼われていたんですよね?
- 浅生
- 神戸の家で、僕が中学か高校のはじめ頃に、
柴犬とチャウチャウのミックスという、どう見ていいのか
わからない(笑)、すごくかわいい子犬がやってきて、
ずっと面倒を見ていました。頭のいい犬でしたね。
僕が大学進学のタイミングで上京して、しばらくして、
神戸の震災のあとに、親も東京に出てきたんです。
ただ、犬は連れて来れなかったから。
実家は広い庭があって、庭が山と繋がっているようなところ
だったので、ふだんから放し飼いで、母が週に何度か帰って、
エサと水を用意する生活を続いていて。
- 糸井
- 半野生みたいな状態で。
- 浅生
- 子犬の頃からずっとそうで、勝手に山の中を駆け回っていて、
「ごはんだよー」って呼ぶと、山の向こうから「ワウワウ!」
言いながら姿を現わす、半野生のワイルドな犬でした。
- 糸井
- 神戸って聞くと、みんな外国人墓地とか、おしゃれな街を
想像しますけど、実際にはかなり山に近いんですよね。
- 浅生
- 南の港のほうはごく一部で、
北側の広い範囲は山だったりするので。
- 糸井
- そういうところに、犬がいた。
- 浅生
- そこで、犬は年老いて、17、18歳となり…。
- 糸井
- あ、そんな年になっていたんだ?
お母さんが神戸と東京を行ったり来たりしている時期って、
何年ぐらい続いたんですか?
- 浅生
- どのくらいだろう。たぶん、6年くらいだと思うんですけど。
- 糸井
- そうだったんだ。
- 浅生
- それで、最終的に、犬が戻ってこなかったんです、山から。
僕も神戸の家に戻るたびに、大声で呼んでたんだけど、
ついに現れなくなった。たぶん、年を取っていたし、
ふつうに考えると、山の中で亡くなったんだと思うんですけど、
とにかく姿を見ていないので、まだどこか亡くなったことを
信じきれない感じがしちゃうんです。
あとは、やっぱり僕や母が東京に来ている間、山の中で楽しく
やっていただろうとは思うんだけど、家に戻ってきたときに、
誰もいないのは、淋しかっただろうなあ。
本当に悪いことをしたなあって。
無理してでも、東京に連れて来ればよかった…。
- 糸井
- 当時は、彼女は彼女で悠々自適に暮らしてる、と思ってたけど、
今にして思えば、そうとは限らなかったな、と。
- 浅生
- 僕は貧乏生活だったから、とても犬どころじゃなかったけど、
それでもなんとかして、東京に連れてきたほうが、
走り回ることはできないけど、淋しくはなかったんじゃないか
と思うと、どうしても後悔がのこってしまって。
- 糸井
- 僕は、浅生さんの家の犬がそんなに長く生きた犬だと
知らなかったから、山と家を行ったり来たりしていた犬が、
ある日、呼んだら来なかった、というおもしろい話として、
語られているようにこれまで捉えていたけど、
こうやって聞くと、切ない話ですね。
- 浅生
- でも、物事はだいたい切ないんです。
- 糸井
- 犬って、飼い主の考えている愛情のかたち、
そのまんまですよね。
- 浅生
- そうなんです。それが怖いんです。
- 糸井
- 同棲生活をしている家で飼われている犬が、愛の終わりとともに
押しつけ合われたり、だんだん面倒を見てもらえなくなったり。
愛と名づけたものと犬って、同じですよね。
- 浅生
- うかつに飼うと、犬も人も、どっちも後悔するし、
かなしい思いをするので。
- 糸井
- 犬の話は、聞くんじゃなかったと思うくらい、かなしい。
僕は、浅生さんからクライマックスの面白いところだけを
聞いていたから、ある日、犬が山から降りて
こなくなっちゃって、だから、きっと、今もまだどこかを
走ってるんですよ、という、小説じみた話だったんだけど、
案外リアリズムって、かなしいんですよね。
- 浅生
- かなしいんです。だから、僕は嘘をついちゃうわけで。
かなしいところを削って、面白いところだけ提示しちゃう。
それなので、突き詰めていくと、あれあれ?
ということが、いっぱい出てきちゃうんですね。
- 糸井
- 浅生さん、やっぱりインタビューとかされちゃ、
ダメなのかもしれないね。
- 浅生
- 本来そうなんです。だから、隠れて生きていたっていう、
そこに立ち戻るんですけど。
- 糸井
- でも、人ってそういうところがありますよね。
背負いきれないことは、水面下の話にしておきましょうって
約束事が、お互いが生きていくためにある気がします。
- 浅生
- 今はとくに、みんなが大切に持っている箱を
無理やり開けようとする人たちがいるから。
- 糸井
- 底の底の話を自分からするのは、いいけど、
他人が、「この人の底の底にこんなものがありましたよ」って
探し出してくるのは、いやだよね。
(つづきます)