- 糸井
- 浅生さんは今までご自身の写真を公開していなかったんですけど、この前の読売新聞のインタビュー記事に写真が出てましたよね。
顔を出すことに関してはもう問題ない？
- 浅生
- もういいです。
- 糸井
- ちなみに今まで出さないでいた理由っていうのは‥‥。
- 浅生
- 何というか「めんどくさい」が。
- 糸井
- ああ、「めんどくさい」だったんですね。
漫画家の方とかもそうなんですけど、今の時代、顔を出さなくても結構なところまで商売できるんですよね。
- 浅生
- そうなんです。
- 糸井
- あと、NHKの仕事してたときは、「NHK_PR」っていうNHKのペンネームじゃないですか。
「あれは俺がやっている」って言うのはマズイわけですよね。あの時代は。
- 浅生
- あの時代はそうですね。
- 糸井
- そうですよね。だから、あのときはあのときの隠し事があったわけですよね。
- 浅生
- はい。常に隠し事があるんです。
- 糸井
- 幼少時からずっとあるわけですか。
- 浅生
- 常に隠し事だけが、つきまとう。
- 糸井
- 隠し事の歴史を語る（笑）。
でもあとで語れるのが多いですよね。
- 浅生
- そうですね。「実はあのとき」っていう。
- 糸井
- まず、写真を見るとわかることなんだけど、人から「あなた日本人じゃないですね」って聞かれても「ワッカリマセン」って言えば、通じちゃうような外見なんですよね。
- 浅生
- ただ、意外に通じないんですよ。
- 糸井
- みんな「お前日本人だろう」って言うの？
- 浅生
- 「みんな」というわけではなく半分半分。
- 糸井
- ハンパですね。
- 浅生
- ハンパなんです。ハンパなんですけど、一々説明するのがもうめんどくさくて。
つまり大抵みんなは「どっちかな？」って思うんですよね。そうすると毎回「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、父方にヨーロッパの血が入ってて‥‥」みたいなことを言わなきゃいけないんですね。聞く人は1回なんですけど、言う側は子どもの頃から何万回って言ってて、もう飽きてるんですよね。
- 糸井
- それはですね、カードにして持っておくといいですよ。「自分の生まれは日本だけど‥‥」って書いた。
- 浅生
- うちの母なんかは、「テープに入れて1回100円でボタンを押させたらどう？」ぐらいのことを言ってました。
それで、なんですかね、この同じことを言う‥‥。
例えば、怪我をしてギプスをしていると「どうしたの」って聞かれますよね。
最初2回ぐらいはいいんですけど、50回ぐらいになってくると飽きてくる。そうするとちょっと茶目っ気が出て‥‥
- 糸井
- 嘘を混ぜる。
- 浅生
- そう。ちょっとおもしろいこと混ぜちゃったりするようになるんですよ。そうすると、こっちでちょっと混ぜたおもしろいことと別のところでちょっと混ぜたおもしろいことがそれぞれが相互に作用して、すごくおもしろいことになったりするんです。
ただ、それもめんどくさくなってきちゃうんですよね。なのでだんだんと世に出ないようになってきて‥‥。
- 糸井
- 嘘つきになっちゃったわけですね。めんどくさいが理由で。
1回か2回聞かれるんだったら本当のことを言ってたんだけど。
- 浅生
- もうめんどくさくなってくると、相手が誤解とかして「こうじゃないの」って言ったときに「そうです。そうです」みたいに訂正もしないで肯定しちゃう。そうすると次からそういうことになっちゃうんですよね。
- 糸井
- なりますね。思いたいほうに思うからね。
- 浅生
- 別の人に「あなたって、こうですよね」って言われて「あぁ、そうです」って答えると、AさんとBさんでは違った「そうです」が存在することになる。それでたまたまAさんとBさんとぼくが一緒にいると、もう話がすごいことになっちゃうわけですよ。
Aさん側のことでもあり、Bさん側のことでもあって、さらにまた説明するのがめんどくさいから「いや、もう両方合ってます」みたいなことを言うと、もはや完全にぼくと違うものがそこに存在し始めて‥‥。
- 糸井
- それってほとんど小説家のやっていることだよね。
- 浅生
- そうですよね。
- 糸井
- 幼少の頃は、見た目とか「あ、日本語喋れるんだ」的な、そういうようなことに関してですよね。
- 浅生
- そうです。まあ、今でもたまにありますけどね。
- 糸井
- 見た目だとか国籍がどうだとかっていう話はどのへんまで‥‥やっぱり今もずーっと続いてきてますか？
- 浅生
- ずーっとですね。で、多分、ぼくが日本人として日本で生きていく限り、それはまだずーっと続くんだろうなって思います。
でも今、新しく生まれる子どもは30人に1人の割合で外国のルーツが入ってる。ちょっとずつ時代は混ざってきてるわけですよ。
- 糸井
- 最近だと陸上のケンブリッジ君なんかもいるしね。
- 浅生
- そうですね。今回のオリンピック・パラリンピックでもずいぶんたくさん出てきてて。まあ、芸能の世界では昔からたくさんいたんですけど。
あと、別にヨーロッパやアメリカに行ったりして、「お前、英語流暢だね」とかわざわざ言い合ったりしないじゃないですか。「お前何人？」みたいな話も別に出てこない。
そういう意味では、日本はこれから時間をかけて混ざっていくんだろうと思います。ぼくはちょっと早すぎたんです。
- 糸井
- 自分がそういうユラユラしている場所に立っているということで、明らかに心がそういうふうになりますよね。
嘘言ったり、デタラメ言ったり、めんどくさいから「いいんじゃない」って言ったり。
- 浅生
- でもまあ、嘘は‥‥。そのときそのときで、嘘は言ってないんですよ。
- 糸井
- 言ってます。
- 浅生
- 言ってんのかな。
- 糸井
- 言ってますって。
どうでもいいことについての嘘とかジョークとしての嘘なんかはもう無数に言ってます。
それが仕事になっているんですから。
- 浅生
- そうですね。ビックリですよ。
- 糸井
- ずっと嘘をついてれば仕事になるんだもんね、この先。
それってなんだか嘘の辻褄合わせみたいだよなあ。
- 浅生
- 確かにそうなんですけど、別に合ってなくてもいいんです。
みんな辻褄を合わせて決着を付けたがるけれども、
実際は辻褄が合わないことのほうが多いわけですよね。
だから、最近ずっと書いてる短編なんかは辻褄合わせないほうがおもしろいんです。もう投げっぱなしで。
- 糸井
- みんな辻褄に夢中になりすぎなんですよね。
辻褄の話はまた違うテーマでゆっくり語りたいなあ。
特集「辻褄」みたいな。
- 浅生
- なるほど「俺と辻褄」。
- 糸井
- あるいは「阪妻と辻褄」。
- 浅生
- （笑）
