- 糸井
- 見た目や国籍についての話は、
今までもずっと質問されてきたこと?
- 浅生
- ずーっとですね。
たぶん、ぼくが日本人として日本にいる限りは
一生続くと思います。
でも今、新しく生まれる子どもの30人に1人が
外国のルーツが入っているそうなので。
ちょっとずつ時代は混ざってきている。
ぼくは、ちょっと早すぎたんです。
- 糸井
- 早すぎたのね。
そういうユラユラしている場所に立たされていると、
心もユラユラするようになりますよね。
- 浅生
- なります。
- 糸井
- だから、嘘を言ったり、デタラメ言ったり、
めんどくさいから「いいんじゃない」って言ったり。
- 浅生
- でもまぁ、あんまり嘘は…。
嘘を言っているつもりはないんですよ。
- 糸井
- どうでもいいことについての嘘は、
もう無数に言ってますよね。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- それが仕事になると思わなかったですね。
嘘の辻褄合わせみたいだね。
- 浅生
- 合ってなくてもいいんです、別に。
最近書いている短編小説なんかは、
もう辻褄を合わせないほうがおもしろいんですよね。
- 糸井
- そうか。
『アグニオン』はもう、2刷?
- 浅生
- いや、2刷いってないです。
- 糸井
- 2刷いってない?2刷まで頑張ろうか、じゃあ。
- 浅生
- そうなんですよね。
- 糸井
- まず読むことかな。
- 浅生
- いや。
- 糸井
- 買うことかな。
- 浅生
- 買うことです。
もうね、こうなったら買わなくっても
遊ぶ金だけ送っていただければ。
読んだつもりで送金してくださいっていう。
- 糸井
- (笑)
おれ、浅生さんがこないだ書いた
ほかの小説も持ってるんですよ。
- 浅生
- ああ、『伴走者』(講談社「群像」2016年9月号掲載)ですか。
あれも続きを書かなきゃいけなくて、その前に。
- 糸井
- あっちのほうがスッと読める気がするんで。
- 浅生
- そうですね。あっちは大人向けです。
- 糸井
- あ、そうですか。
じゃ、あっちを僕ね、約束しましょう。
2~3日中に。
- 浅生
- あはは。
『伴走者』は読むと早いですよ。
たぶん、小1時間もかからないです。
- 糸井
- そうですね。
それでならして、こっち(『アグニオン』)に。
- 浅生
- こっちは大変です。
- ──
- どのようにこの企画は始まったんですか?
- 浅生
- 始まりは2012年かな。ちょっとツイッターが炎上して、
始末書を書いたりするようなことがあって、
落ち込んでたんです。ショボンとしてたときに、
新潮の編集者の方がやって来て、
「何でもいいから、ちょっと書いてもらえませんか」って。
- ──
- 不思議ですね。
- 浅生
- 『yom yom』っていう新潮の雑誌を読んでほしいと頼まれて
「何が足りないと思いますか」って聞かれたので、
「若い男の子向けのSFとかは、この中にないよね」
みたいな話をしたら
「じゃ、なんかそれっぽいものを…」と。
- 糸井
- えっ。そんなことだったの?
- 浅生
- とりあえず10枚ぐらい書いてみたら
SFの原型みたいなのになって。
それを編集者の方が読んで、
「おもしろいから、ちゃんと物語にしましょう」と。
- ──
- SFはお好きだった?
- 浅生
- 嫌いではないですけど、そんなマニアではないです。
- ──
- かなりSF好きな人が書いた小説に見えますが。
- 糸井
- いっぱいは読んでるでしょ。
- 浅生
- いっぱいは読んでます。
- 糸井
- この人ね、そのへんがずるいのよ。
- 浅生
- ずるくないですよ(笑)
- ──
- この人を「ずるい」と言えるのが
ほぼ日というメディアで(笑)
- 糸井
- 海外テレビドラマシリーズとか
いっぱい観てるでしょ。
- 浅生
- いっぱい観てます(笑)
- 糸井
- もうねぇ、ずるいんだよ。
- 浅生
- ずるくないじゃないですか。
ちゃんとケーブルテレビのお金払って観てますよ。
『アグニオン』に関しては
「何でもいいから書いてみて」って言われて、
ワーッと書いたらそういう…。
- 糸井
- ストラクチャーを作ったのね。
- 浅生
- そうですね。
「あ、こういう物語なんだ」って
書いてみるまでわかんないんですよ、自分でも。
- ──
- 終わったとき、
作家としての新しい喜びみたいなの出ましたか?
- 浅生
- 「終わった」っていう。
- ──
- 達成感?
- 浅生
- 達成感というか、「よかった」っていうか。
自分で走ろうと思って走り出したマラソンではなくて、
誰かにエントリーされて走る。
- 糸井
- 誰かが「代わりに走ってくれ」って
言ったみたいな感じだよね。
小津安二郎の『秋刀魚の味』みたいな内容で、
少年が読んでおもしろいもの書いてくださいって
頼まれるみたいな。
- 浅生
- 今、ちょっとそういう感じの準備を始めてます。
でも書くと、必ずいつもどこか妙なものが…
『エビくん』みたいな…妙なものが混じるんですけど、
でもそっち系の準備も始めてる感じです。
- ──
- 糸井さんは小説書いたときは、自分からですか。
- 糸井
- ぼくは、もう本当に嫌でしょうがなかった。
二度と書かない。
- ──
- 浅生さんは?浅生さんはまた頼まれたら書く?
- 浅生
- たぶん、嫌いじゃないんです。
- 糸井
- 観るのがそんなに好きだっていう人なんだから、
ぼくとは違いますよ。ぼくはめんどくさいもん。
- 浅生
- めんどくさいんです。間違いなく。
- 糸井
- めんどくさいの種類が違う。
ぼくのめんどくさいは、
もうほんとにめんどくさいから。
- ──
- でも、18年間毎日原稿書いてますよね。
- 糸井
- 毎日のほうが楽なんだよ。
毎日やってるっていう言い訳ができるから。
日曜も営業している蕎麦屋がまずくてもさ、
「毎日やってるからしょうがないよ」って言えるのと同じ。
努力賞がほしいね、ぼく。
- 浅生
- 毎日やってるという(笑)
- 糸井
- うん。努力賞で稼ぐ。
(つづきます)