- 糸井
- 頼まれなかったら『アグニオン』は書いてなかった?
- 浅生
- 書いてないです。
- 糸井
- 今まで頼まれなくてやったことって何ですか?
- 浅生
- 頼まれなくてやったこと…仕事の話ですよね?
- 糸井
- いや、仕事じゃなくてもいいです。
- 浅生
- ないかもしれない。
- ──
- 浅生さんの変な公式ホームページとか(笑)。
あれ、誰もそんな発注してないですよね?
- 浅生
- 「話題になるホームページってどうやったら作れますか」
っていう相談をされて、それで作った感じなんですよ。
頼まれたことに、ちゃんと応えたいっていう気持ちが
過剰なことになっていくような気はします。
10頼まれたら、頼まれた通りの10を納品するのでは
ちょっと気が済まなくて、12ぐらい、16ぐらいは
返すっていう気持ちが働きますね。
やりたいことがあんまりないんですけど、
期待に応えたいっていうのがあります。
- ──
- 見事ですね。あの感じ。
- 浅生
- 『アグニオン』が辛かったのは、
自分で始末しなきゃいけないこと。連載だったので。
- 糸井
- 当たり前じゃん。
- 浅生
- 連載の、それこそ1話とか2話では、
自分でもどんな話になるかわからないので。
いろいろ伏線を仕込むと、回収していかなきゃいけなくて。
- ──
- まったくわかってなかった?
- 浅生
- まったくわかってなかった。
ざっくり何となく決めてたんですけど、
2話の途中ぐらいから話が変わってきて。
- 糸井
- 『おそ松くん』とかを連載で読んだ経験のあるぼくには、
そういうのって全然気にすることないよって思うね。
『おそ松くん』はおそ松くんが主人公なはずなのに、
六つ子の物語を書いたはずなのに、
チビ太やデカパンとか異形の者たちの話になっちゃった。
- 浅生
- 『アグニオン』も、原稿用紙で500枚ぐらい書いたんですよ。
最後の最後に1人キャラクターが出てきて、
それが最後を締めていくんですけど、読んだ編集の方が、
「このキャラがいい。この主人公に変えませんか」って。
けっきょく、その500枚を全部捨てて、
もう1回、ゼロから書き直したっていう。
- 糸井
- めんどくさがりなわりには。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- ぼくもSF読んでた時期があるんだけどね、
でもぼくが読んだのは、フレデリック・ブラウンとか。
- ──
- タイタン。
- 糸井
- そう、『タイタンの妖女』とか。ああいうの大好きなんだ。
これとはちょっと…。
- 浅生
- 毛色が違いますね。
昔で言うと、高千穂遙さんとかそういう感じですかね。
- ──
- ああ、高千穂遙さんの
『クラッシャージョー』とか読んでたな。
- 糸井
- ぼくは、だから時代がちょっと違っててさ、苦しいのよ。
もう『アグニオン』だけで苦しいもん。
そういうのタイトルなの?みたいな。
もっとなんか「神々の黄昏」みたいなさ。
そういうのにしてよ。
- ──
- タイトルだけでも?
- 糸井
- うん。
- 浅生
- 何だかわかんないタイトルにしたかったんです、もう。
- 糸井
- わからなくしたいんだね。
- ──
- ペンネームも明らかに本名じゃないし、
わからないものにする癖がついちゃってるんですね。
- 浅生
- ああ、そうですね。そうかもしれない。
- 糸井
- 一生何だかわからないんでしょう。
表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。
でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
- 浅生
- そうですね。それが困ったもんで。
- 糸井
- そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
- そこがたぶん、一番の矛盾。
- 糸井
- 矛盾ですよね。
何にも書くことがない、
言いたいことないです、
仕事もしたくないです、
って言っておきながら、何かを表現してないと…。
- 浅生
- 生きてられないです。
- 糸井
- 生きてられない。
- 浅生
- でも、受注がない限りはやらないっていうね。
ひどいですね。
- 糸井
- これはでも、ぼくも似ている気がしますね。
何かを変えたい欲じゃないんですよね。
- 浅生
- うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
- 表したい欲ですよね。
表したい欲の裏は、「じっと見たい欲」ですよね。
- 浅生
- 画家の目がほしいんですよ。
あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。
画家の目があったらもっとおもしろいだろうなって。
- 糸井
- いや、すごいですよ、ほんと、画家の目ってね。
違うものが見えてるんですからね。
- 浅生
- あと、見たとおりに見えてるじゃないですか。
ぼくらは見たとおりに見てないので。
- 糸井
- しかも画家の個性によっても、見えるものが違う。
でも、それはぼくなんかが普段考える
「女の目がほしい」とか、
そういうのと同じじゃないですかね。
(つづきます)