糸井

浅生さんは、神戸でニヤニヤして生まれて。

浅生

生まれたときは
ニヤニヤしてなかったと思うんですけど（笑）。
ぼく、神戸で生まれ育って、高校出るまでは
ずっと神戸で、高校出てから東京にやってきました。

糸井

神戸で、何をしてたんですか？
みんなと溶け込んでたんですか？

浅生

あの、表面上は（笑）。

糸井

自分の時間みたいなのがありますよね。
犬をなくしてたりしてたんですよね。
犬がなくなる話、しましょうか。

浅生

犬はね、もう思い出すと悲しいんですよねぇ。

糸井

ときにはそういうのも混ぜないとさ。
浅生さんのおうちでは犬を飼ってらっしゃったんですね。

浅生

かわいい、かわいい、柴とチャウチャウのミックスという、
どう見ていいのかわからない犬を飼っていました。
ぼくが中学のときか高校の始めぐらいにうちにやってきて。
本当に頭のいい犬で、言うことも聞いてたんですけど、
ぼくが東京に出てきて、うちの親も震災のあと・・・。

糸井

神戸の震災に遭われたんですね。

浅生

はい。
それで親も東京に出てくるんですけど、
犬は連れてこられませんでした。
実家には山につながってる広い庭があったので、
犬はそこで放し飼いにしてたんですけど。
うちの母が、東京と神戸を行ったり来たりして、
週に何回か家に帰ってエサとか水とかを用意して、
犬は犬で山の中で勝手に（笑）。

糸井

半野生みたいな。

浅生

みたいな感じで。
子犬のときからそういう感じだったんです。
勝手にどっかに行ってて、「ご飯だよー」って呼ぶと、
山の向こうから「ワウワウ！」って言いながら、
ガサガサっと現れるっていう。
半野生のようなワイルドな犬。

糸井

浅生さんがどういうところに暮らしてたのか、
前に地図を見たら、たしかにそういう場所でしたね。

浅生

山ですよね。

糸井

神戸っていうと、みんな外国の街のような。

浅生

おしゃれタウン。

糸井

おしゃれタウンを想像しますけど、
神戸は、山ですね。ずいぶん。

浅生

多分神戸市って、南の港のほうはごく一部なのかな。
面積的には、北のわりと広い範囲が山だったりするので。

糸井

それで大阪の人に
「神戸っておしゃれやん」とか言われたらねえ。

浅生

あそこは、もうぼくらは神戸じゃないと見なしてます。

糸井

おしゃれなとこは神戸じゃない？

浅生

いや、おしゃれなとこだけが神戸。
それ以外はもうなかったことにしてます。

糸井

ほぉ。
ま、そういうところに犬がいた。

浅生

で、結局、ある日犬は年老いて17歳18歳なり・・・、
もうそろそろ。

糸井

あ、そんなになってたの？

浅生

結構な年だったんです。

糸井

お母さんが行ったり来たりしてる時期っていうのは、
何年ぐらい続いたんですか？

浅生

何年ぐらいだろう・・・。
いっても６年とかだと思うんですけどね。

糸井

そんなに長い期間、そういう暮らししてたの。

浅生

ええ。
最終的には犬が山から戻ってこなかったんですね。
神戸帰るたびに、大声で呼ぶと山の中から現れてたのに。
それがついに現れなくなったんですよ。ってことは、
年取ってたし、山の中で亡くなったんだろうなと。
とにかくやっぱり姿を見てないので、亡くなったって
信じきれない感じがどうもあって。ほんとは山の中で
まだ生きてるんじゃないかなっていう思いが１つと、
もう１つはぼくや母が東京に来ちゃってる間、
犬が家に戻ってきたときに人が誰もいないのは、
本当に淋しかっただろうなっていう。
それが本当に悪いことしたなと思って。
犬に対しては、淋しい思いさせるのが１番悪いなと。

糸井

そのときには、彼は彼で・・・。

浅生

彼女です。

糸井

彼女は彼女で、悠々自適だっていうふうに思ってたけど、
それはそうとは限らなかったなと。

浅生

そうなんです。ほんとに淋しかったんじゃないかなと。
無理してでも東京に連れてくれば良かった。
何とかして東京に連れてきたほうが、
少なくとも寂しくさせないことはできたかなと。
もうそれを思うと後悔が・・・。

糸井

いままで、浅生さんのお話ではそんなに
長く生きてた犬だってことをまず語ってなくて。
ピーって鳴ったらピューッて入ってきてたんだけど、
ある日呼んだら来なかったっていう、
おもしろい話として語られてたけど。

浅生

まぁ、原則そうなんです。
呼ぶとパーッて現れて、ワウワウ言いながら。

糸井

そこの、クライマックスのおもしろいとこだけを
いままでぼくらは聞いてたんで。
でも、ちゃんと時間軸をとると、切ない話ですね。

浅生

切ないんです。
でも、物事はだいたい切ないんですよ。

糸井

まあね。
犬って、飼い主の考えてる愛情の形のまんまですよね。

浅生

そうなんです。それが怖いんです。

糸井

怖いんですよね。
同棲生活をしてる家で飼われてる犬が、
愛の終わりとともに押し付けあわれたり、
見てやれなくなったり。
愛と名付けたものと犬って同じですよね。
だから、飼えるぞっていうときに飼ってもらわないと。

浅生

迂闊に飼うと、ほんとになんか・・・。
犬も人もどっちも後悔するというか、
どっちも悲しい思いをするので。

糸井

犬の話は聞くんじゃなかったっていうほど悲しいですね。

浅生

悲しいんです、もう。
だから、ぼくはそういうところで嘘をついちゃうわけです。
悲しいところを、常に削って
おもしろいとこだけを提示してるので、
突きつめていくといろいろとあれあれ？みたいなことが
いっぱい出てきちゃうんですよね。

糸井

インタビューとかされちゃダメなのかもしれないね、
もしかしたらね（笑）。

浅生

だから、隠れて生きてたっていう、
そこに立ち戻るんですけど（笑）。

糸井

でも、人ってそれは薄めたようなとこありますよね。
だいたい、そのことをもう２段ぐらい深くまで聞くと、
言いたくないことにぶち当たるっていうか。
それはフィクションの中に混ぜ込んだりすれば書けるけど。

浅生

多分、それこそ２段階掘ると、
その人が思ってなかったこととか、
本当のことを聞いてしまうというか・・・。
ぼくは、他人の本当のことを、
どうでもいいというか、背負いきれないというか。

糸井

どうでもいいというか、背負いきれないというか・・・。
それって、「水面下の話にしておきましょう」っていう
約束事が、何かお互いが生きてくときのために
あるような気がしますね。

浅生

特に今、みんなが持ってる箱を、どうも勝手に来て
無理やり奪い取って、勝手に開けて中身出して
「ホラ」ってやる人たちがたくさんいて。
実は開けられる側も、開けてみたら
大したことはなかったりするんですけど。
それでも本人にとってはそれが大事な箱だったりする。

糸井

この間ぼくも書いたことなんだけど、
自分から言う底の底の話はいいんだけど、人が
「底の底にこんなものがありましたよ」っていうような。
つまり、引き出しの中からヨゴレたパンツが出てきて、
自分から「なにこのヨゴレは～！」って言って
笑いをとるとかだったらいいけど、
人が探して「このパンツなに！」って言ったら、嫌だよね。

浅生

いましたよね。
勝手に人のカバンの中を探って
「こいつ、こんなもの持ってきてる！」ってやる人。

糸井

いたんですか？

浅生

いましたね、そういう子。

糸井

学校に。

浅生

いましたね。

糸井

そういう時代があったんですか？

浅生

それはぼくじゃないんですけど。

糸井

学校は荒れてる時代ですか？

浅生

ぼく、ちょうど校内暴力時代なんです。

（つづきます）