乗組員Nさんが、せっかく浅生さんのインタビューなのでと言って『アグニオン』を机に置いていきました。
- 糸井
- 『アグニオン』は、日本でいちばん、
買ったけど読んでないっていうことを
申し訳なさそうに告白する人の多い本ですよね。
途中で「遊ぶ金を送金しました」って遊びが加わったから
ますます増えたけど、もともとこの本に関しては
「ぼくはちゃんと読む気もあるし、買いましたよ」
っていう人が自己申告してる数が多い。
ぼくは2冊持ってます。まだ読んでませんけど。
- 浅生
- 女川でもそういう人に会いました。
「持ってます」っていう。何ですか、この現象。
- 糸井
- だからそれは、作者に対する
親しみとリスペクトが強くて。
- 浅生
- ほんとに、普段本を全然読んだことのないようなタイプの人が
「買いました!」って言うので、申し訳なくてなんか・・・。
- 糸井
- 書くなよ(笑)!
- 浅生
- でも、発注されたからしょうがない・・・(笑)。
『アグニオン』に関してはほんとに
「何でもいいから書いてみて」って言われて、
ワッと書いたらそういう、そこの「最後の少年」っていうのが
ポツッと最初に出てきたので、そっから編集者と一緒に・・・。
- 糸井
- ストラクチャーを作ったのね。
- 浅生
- そうですね。
書いてみるまで、自分でも
どういう物語かわかんないんですよ。
『アグニオン』を書いていて辛かったのは、
自分で伏線を始末しなきゃいけないことでした。
- 糸井
- 当たり前じゃん(笑)。
- 浅生
- 自分でもこの先どんな話になるかわからないのに。
いろいろ伏線を仕込むから、回収してかなきゃいけなくて。
ざっくり何となく 決めてた話も、2話の途中ぐらいから
違うふうに変わってきてて。
- 糸井
- 『おそ松くん』とかを連載で読んだ経験のあるぼくには、
そういうのって全然気にすることないよって思うね。
だって、『おそ松くん』はおそ松くんが主人公の
六つ子の物語を書いたはずなのに、チビ太とか
デカパンとか異形の者たちの話になっちゃってる。
- 浅生
- これも元々そうなんです。
実は1回原稿用紙で500枚ぐらい書いたんですよ。
最後の最後にそれまでの物語を
ある意味解決するための舞台回しとして、
出した1人のキャラクターがしめていくんですけど。
それを読んだ編集者が
「このキャラがいいね。この人主人公にしませんか」
って言われて、その500枚は全部捨てて、
もう1回そこからゼロから書き直したっていう。
- 糸井
- 『アグニオン』はもう、2刷?
- 浅生
- いや、2刷いってないです。
- 糸井
- 2刷いってない? 2刷まで頑張ろうか、じゃあ。
- 浅生
- そうなんですよね。
- 糸井
- まず読むことかな。
- 浅生
- いや。
- 糸井
- 買うことかな。
- 浅生
- 買うことです。
- 糸井
- 3冊買うことかな。
- 浅生
- もうね、こうなったら買わなくっても
遊ぶ金だけ送っていただければ。
- 糸井
- (笑)。
- 浅生
- もはや、読んだつもりで送金してくださいっていう(笑)。
- 糸井
- そろそろしっかりしたまとめにはいりましょう。
表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。
でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 受注なのに。
- 浅生
- そうなんです。それが困ったもんで・・・。
- 糸井
- そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
- 多分一番の矛盾です。
- 糸井
- 矛盾ですよね。
「何にも書くことないんですよ」
「言いたいことないです」
「仕事もしたくないです」
だけど、何かを表現してないと・・・。
- 浅生
- 生きてられないです。
- 糸井
- 生きてられない。
- 浅生
- でも、受注ない限りはやらないっていう。
ひどいですね(笑)。
- 糸井
- 「受注があったら、ぼくは表現する欲が満たされるから、
多いに好きでやりますよ、めんどくさいけど」
ちょっとそこが似てるんじゃないかなぁという気がしますね。
- 浅生
- かこつけてるんですかね。何かに。
- 糸井
- うん。そうねぇ。何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
- うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
- 表したい欲ですよね。
表したい欲って、裏表になってるのが
「じっと見たい欲」ですよね。
- 浅生
- 「じっと見たい欲」。
- 糸井
- うん。
表現したいってことは、
「よーく見たい」とか「もっと知りたい」とか
「えっ、今の動きみたいなのいいな」とか、
そういうことでしょう?
- 浅生
- ぼく、画家の目が欲しいんですよ。
あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。
画家の目はきっとあるとおもしろいなって。
- 糸井
- それは絵を描いてたほうが、
画家の目が得られるんじゃない?
- 浅生
- そうかな。
- 糸井
- (笑)。
- 浅生
- そうかもしれない。
- 糸井
- いや、すごいですよ、ほんと、画家の目ってね。
違うものが見えてるんですからね。
- 浅生
- あと、見えたとおりに見てるっていうか、
見たとおりに見えてるじゃないですか。
ぼくらは見たとおりに見てないので。
- 糸井
- そこに画家は個性によって、実は違う目だったりする。
でもそれはぼくなんかが普段考える
「女の目が欲しい」とか、
そういうのと同じじゃないですかね。
受け取る側の話をしてるけど、
でもそれはやっぱり表現欲と表裏一体で、
受けると出す・・・。
これはどうでしょうねぇ。
臨終の言葉をぼくは最初の方に言ったんで、
浅生さんは今、臨終の言葉になにを言うか。
どうでしょう。受注、今しました。
- 浅生
- 死ぬときですよね。
前に死にかけたときは、そのときは「死にたくない」って
思ったんで、すごく死にたくなかったんですよ。
なんだろうな、今もし急に死ぬとして・・・・
「仕方ないかな」。
- 糸井
- わはははは!
これで終わりにしましょう。いいですね。
- 浅生
- 「仕方ないかな」っていうので終わる気がしますね。
- 糸井
- 「人間は死ぬ」とあまり変わらないような気がしますけど。
ありがとうございました。
- 浅生
- ありがとうございました。