- 糸井
- あー、ほんとに、このインタビュー難しいでしょう。
- 乗組員N
- おもしろいです。
- 糸井
- おもしろいんだけどさ、やってる本人はすごく難しい・・・。
ねえ、ちょっと参加してみない?
- 乗組員N
- え、いやいやいや。
- 糸井
- だって、ぼくほど浅生さんを知らないでしょ。
- 乗組員N
- ・・・そうですね。
あの、小説は頼まれてはじめた仕事ですか?
- 浅生
- はい。
- 乗組員N
- 自分からはやらない?
- 浅生
- やらないです。
- 糸井
- おしまい、ね?
- 乗組員N
- 頼まれなかったらやっていらっしゃらなかった?
- 浅生
- やってないです。
- 糸井
- おしまい。
- 乗組員N
- 頼まれなくてやったことって何ですか?
- 浅生
- 頼まれなくてやったこと・・・、仕事でですよね?
- 乗組員N
- いえ、お仕事じゃなくても構いません。
- 浅生
- ・・・・・・・・・・・・・・、
・・・・・・・・・・、ないかもしれない。
何ですかね、この受注体質的な・・・。
- 乗組員N
- 入り口は受注ですけど、そのあと頼まれなくても
やっていらっしゃることがいっぱいあるように見えます。
- 浅生
- 頼まれた相手に、ちゃんと応えたいっていうのが
過剰なことになっていくような気はするんですよ。
10頼まれたら、12ぐらい、16ぐらいは返したい。
やりたいことがあんまりないんですけど、
期待に応えたいっていう。
- 乗組員N
- 自分から行かないけど、頼まれるとやりたいことを、
その機に乗じて持ってこられるような感じなんでしょうか。
- 浅生
- そうなのかなぁ。
- 乗組員N
- 浅生さんの公式ホームページを見ても。
誰もこういった発注してないと思いますし。
- 浅生
- あれも「話題になるホームページってどうやったらいいですか」
っていう相談をされて、「じゃあお見せしますよ」って言って、
やった感じなんですよ。
- 糸井
- 共通してるものを感じるんだよね。
「自分がやりたいと思ったことないんですか」「ない」
っていうのは、ぼくもずっと言ってきたことなんだけど、
たまには混じるよね。「あれやろうか」ってね。
- 浅生
- 例えばNHKにいた時に、自分から企画して作ったのは
東北の震災のあとに作ったCM2本だけです。
東北にだけ向けたものではなくて、
大変な思いをした神戸の人たちにも、
17年経った今、笑顔で暮らす毎日があります、
っていうだけの、「神戸」っていうCMを作ろうと。
時間はかかるけれど、必ず戻るものがあるという
ある種の覚悟が必要だと思って。
ただ、怖さはありました。
だから、CMを企画して東北に行ったんです。
「こんなCMはどう思いますか」とまず聞いて回って、
「これだったら、ぼくたちは見ても平気だ」って
たくさんの人が言ってくれたんで「作ろう」と思って。
ただNHKでは企画が通らなかったので、
勝手に作っちゃったんですよ、自腹で。
NHKが流してくれなかったら、ほかの会社でも
どこでも持ってって、お金出してもらっちゃおうと思って。
そしたら、最後の最後にNHKが全部お金出してくれた。
それぐらいです。あとはだいたい受注ですね。
- 乗組員N
- 東北の震災の時、
中学生が「Ustream(ユーストリーム)」で
NHKの映像を流していたことを許可したことも
ツイッター史上、日本のSNS史上に
残るぐらいの大きな決断だと思うんですけど、
あれはご自分から? 誰も受注しないですよね。
- 浅生
- いや、でもあれも「こういうのが流れてるのに、
何でNHKリツイートしないんだ」みたいなのが来て、
それで初めて知ったんです。
なので、自分で探して見つけたわけではないから、
受注というか、言われてやったようなもんです。
「これはやるべきだ」と決めたのは自分ですけど。
- 糸井
- 見つけてくるところまでは無理だよ、それは。
あのあたりのことが、すごく「決断だな」って言えるし、
同時に「これは決断しちゃうでしょう」っていうくらいの
雰囲気を読めた瞬間ですよね。
大きく逆らって磔になるようなことしたわけじゃなくて。
- 浅生
- いいことですから。
- 糸井
- 何とかすればできるし、「いいことですから」っていう。
あれ、すごく昔のような気がするね。
- 浅生
- 5年前ですね。
あの当時、ぼくが1番緊張したのは、
「これからユルいツイートします」って書いたときですね。
- 糸井
- あぁ。
- 浅生
- Ustreamのことは、最悪ぼくがクビになるだけです。
でも、「今からユルいツイートします」っていうのを
書くときは、相当悩みました。
ほんとにこれでいいかなって何度も文章を書き直した。
要するに1人で舵切ろうとしたんで、
「ほんとにこれでちゃんと舵が切れるか」っていう。
まぁ必要だろうなぁっていう。
- 糸井
- どっちが悩んだかっていうのも、よくわかりますね。
それは、うん。最悪なにっていうのが見えないことだからね。
- 浅生
- どう影響を及ぼしてくかわからないので、
それによって逆に傷つく人がいっぱい出るかもしれない
という恐怖はありました。
- 乗組員N
- 糸井さんもお金の寄付の話を翌々日に出されたときは、
迷ったし恐怖だったというお話をされていましたよね。
- 糸井
- あれはやっぱり、本当に嫌な間違え方をすると
「ほぼ日」の存続に関わると思ったから、
嫌だったね。嫌だったっていうか・・・。
でも、ぼくもあのあたりの仕事って受動なんです。
「このまま行くと、どっかで募金箱に千円入れた人が
終わりにしちゃうような気がするな」っていう実感。
それが何だか辛かったんですよね。
だって、ニュースで見えてた映像と、
誰かが募金箱に千円あるいは百円入れて、
終わりにしちゃうような感覚とが
どうしても釣り合いが取れないなと思った。
でも、そのあとの「お前はいくらしたんだ」っていうのも
嫌だった。イタチごっこですからね。たとえ全財産投げ出しても
たぶん「そんなもんか」って言われるわけですから。
- 浅生
- ぼくは寄付したくなかったので、福島に山を買ったんです。
- 乗組員N
- え、それは知りませんでした。
- 糸井
- ちょっといいんですよ、その話。
- 浅生
- もちろん、すごい安いんですよ。
山の山林で、ほんとにぼくが買える程度の金額なので、
全然大したことはないんですけど。
山買うとどうなるかっていうと、
固定資産税を払うことになるんですよ。
そうすると、ぼくがうっかり忘れてても月に1回、
勝手に引き落とされるので、ぼくがそこ持ってる限りは
永久に福島のその町とつながりができるので。
- 糸井
- 多分、ぼくも浅生さんも「ああいうのが嫌だな」
っていう感覚が似てるんじゃないかな。
意地悪なんだと思う。
- 浅生
- ぼく、意地悪じゃないです!!
- 糸井
- いや、要するに嫌なものがいっぱいあるんですよ。
その嫌なものって「何で嫌なんだろう」って思うと、
「自分はそういう嫌なことしたくないな」って思う。
で、面倒でも嫌なことはしない方法をとるというか。
会社の予算に組み込んじゃうとかさ。
- 浅生
- ぼくは、ストラクチャーを構築して
システムにしちゃうと、何もしなくても
そうなっていくので、そうしちゃいたいんですよね。
- 糸井
- ぼくが言ってることと同じじゃない(笑)。
- 浅生
- 言い換えただけ(笑)。
- 糸井
- 「人が当てにならないものだ」とか、
「人っていいことって言いながら嫌なことするもんだ」とか、
そういう意地悪な視線っていうのは、明らかに
浅生さんのエッセイや小説を読んでいても
そういうもんだらけですよ。
で、それは、裏を返せば優しさなんだよ。
「そういうことしがちだよね、人間って」っていう。
- 浅生
- 人間ってみんな裏表があるのに、
ないと思ってる人がいることが不思議なんですよね。
- 糸井
- そう。「私はそっちに行かない」とかね。
- 浅生
- そんなのわかんないですもんね。
- 糸井
- そのへんは、それこそ浄土真宗の考えじゃないですか、
縁があればするし、縁がなければしないっていう話で。
東洋にそういうこと考えた人がいたおかげで、
ぼくはほんとに助かってる。
- 浅生
- もともと、仏教のそもそもが「何かしたい」とか、
「何かになりたい」「何かが欲しい」って思うと、
それは全て苦行だから、全部捨てると悟れるっていう。
だから別に何かやりたいことがないほうがいい。
- 糸井
- ブッティスト。
- 浅生
- ブッティストとして(笑)。
- 糸井
- 見た目はクリスチャン、中身はブッティストみたいな。
そういうブッティスト的な何かの時期があったの?
- 浅生
- それは、まったくないです(笑)。
(つづきます)