浅生さんから生まれる表現の話

第2回 浅生さんの今までについて①
- 糸井
- 一度浅生さんバイクで大変な事故に遭ったじゃない。
あの後いろいろ変わったんじゃない。
- 浅生
- そうですね。あれは。
ほんとにぼくはそれで「死ぬ」ということがどういうことかをちょっと理解したんですよ。もちろんほんとに死んでるわけじゃないんですけど。
- 糸井
- 身体でね。
- 浅生
- 体験した。ほんとかどうかわからないにしても。よく、死ぬのが怖くないから俺は何でもできるみたいな人がいるけど、それも嘘で。別にぼく、「死ぬ」はそんなに怖くないんですけど、だからといって死ぬの嫌ですから。怖いのと嫌なのは別じゃないですか。怖くはなくなったんですよ。死ぬってこういうことかと。
- 糸井
- 同時に「死ぬ」がリアルになったときに、「生きる」のことを考える機会が多くなりますよね。それはどうです?
- 浅生
- そうですね。だからといって、何か世の中に遺したいとか、そういう気は毛頭なくて。ただ、死ぬということが、ぼくはすごく淋しいことだと体験したので、だから生きてる間は「楽しくしよう」みたいな。別に、知らない人とワーッてやるのは苦手なので、パーティー行ったりとかする気は全然ないし、むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。だいたい日頃、ニコニコするのは上手じゃないので、ニヤニヤして生きていこうみたいな感じです。
- 糸井
- そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。
- 浅生
- そうですね。ニヤニヤして生きていきたい。

- 糸井
- 浅生さん、本当にずっと神戸で生まれ育って、高校出るまではずっと神戸じゃないですか。その時はみんなと溶け込んでたんですか?
- 浅生
- 表面上は。
- 糸井
- 「自分の時間」みたいなのがありますよね。
あと、浅生さんの犬の話しましょうか。
浅生さんのおうちでは犬を飼ってらっしゃったんですね。
- 浅生
- かつての話ですが、柴とチャウチャウのミックスがいたんです。
ずっと面倒みて、本当に頭のいい犬で言うことも聞くんですけど、神戸の震災に遭って家族で東京に出てくるんですけど、そのとき犬は連れてこれなくって。
実家は山につながってるような広い庭があって、そこで放し飼いにしてました。
うちの母は、東京と神戸を行ったり来たりして、週に何回か家に帰ってその犬のためにエサとか水とかを用意して。
犬は犬で山の中で勝手に過ごしたりしてて。
庭に川があるので、水はそこで飲めるし。
- 糸井
- 半野生みたいな。
- 浅生
- そうですね。元々、子犬のときからそういう感じだったんですね。だから、勝手にどっかに行ってて「ご飯だよー」って呼ぶと、山の向こうから「ワウワウ!」って言いながら、ガサガサっと現れるっていう。半野生のようなワイルドな犬。
- 糸井
- 前に地図を見せてもらった時も思いましたけど、神戸ってだいぶ山ですよね。
そういうところに犬がいた。
- 浅生
- で、おそらく6年くらいだと思うんですけど母がそんな生活を続けてるうちに、犬は年老いて17歳18歳なって、もうそろそろとなり…。
最終的には犬が戻ってこなかったんですね、山から。
やっぱり見てないと、亡くなったって信じきれない感じがどうもあって。ほんとは山の中でまだやってるんじゃないかなっていう思いが1つと、もう1つはやっぱりぼくとか母が東京に来ちゃってる間、犬としてはもちろん山の中楽しいだろうけど、時々家に戻ってきたときに誰もいないっていう。ほんとに淋しかっただろうなっていう。それが本当に悪いことしたなと思って。犬に対しては、淋しい思いさせるのが1番悪いなっていう。
- 糸井
- 「犬は犬で、悠々自適だ」っていうふうに思ってたけど、それはそうとは限らなかったなと。
- 浅生
- そうなんです。ほんとに淋しかったんじゃないかなと思って。無理してでも東京に連れてくれば良かった。まぁ貧乏生活でしたからとてもじゃないけどそんなことできなかったんですけど、それでも何とかして東京連れてきたほうが、もしかしたら淋しい思いはさせなくて済んだかなと。
走り回れはしないけど、少なくとも誰か人といるっていう、そういうことはできたかなと思うと後悔が‥‥。
- 糸井
- 今まで、浅生さんのお話では、山と家の間を行ったり来たりしてたんだけど、ある日呼んだら来なかったっていう、おもしろい話として語られてたけど、ちゃんと時間軸をとると、切ない話ですね。
そこの、クライマックスのおもしろいとこだけをぼくら聞いてたんで。案外リアリズムっていうのは悲しいですよね。
- 浅生
- 悲しいんです。だから、そういうところでぼくは嘘をついちゃうわけですよね。悲しいところを、常に削っておもしろいとこだけを提示してるので。だから、突きつめていくと、いろいろとあれあれ?みたいなことがいっぱい出てきちゃうんですよね。
- 糸井
- そうだね。だからインタビューとかされちゃダメなのかもしれないね、もしかしたらね。
- 浅生
- 本来は。だから、隠れて生きてたっていう、そこに立ち戻るんですけど。
- 糸井
- でも、人ってそれは薄めたようなとこありますよね。だいたい。そのことをもう2段ぐらい深くまで聞くと、言いたくないことにぶち当たるっていうか。それはフィクションの中に混ぜ込んだりすれば書けるけど。
- 浅生
- 多分、人をそれこそ2段階掘ると、その人が思ってなかったこととかが出てきちゃうじゃないですか。そこがおもしろくもあり怖くもあり、あんまりそこ聞いちゃうと、この人の本当のことを聞いてしまうっていう‥‥。他人の本当のこと、ぼくどうでもいいというか、背負いきれないというか。
- 糸井
- どうでもいいというか、背負いきれないというか‥‥。それって、水面下の話にしておきましょうっていう約束事が、何かお互いが生きてくときのためにあるような気がしますね。
- 浅生
- で、それは、特に今、みんなが持ってる箱を無理やり開けようとする人たちがいて、その箱は開けちゃいけないよねっていう箱が、どうも勝手に来て無理やり奪い取って勝手に開けて中身出して「ホラ」ってやるような人たちがたくさんいるような気がして。開けてみたら大したことはなかったりするんですけど、それでも本人にとってはそれが大事な箱だったりするので。