浅生さんから生まれる表現の話
第5回 表現することについて
- 浅生
- 『アグニオン』の話をすると、書くことになった発端は2012年かな。そのころ、ちょっとツイッターが炎上して、始末書を書いたりするようなことがあって、ちょっと落ち込んでたんです。落ち込んでてショボンとしてたときに、新潮の編集者がやって来て、「何でもいいから、何かちょっと書いてもらえませんか」「はぁ」みたいな。
- 糸井
- そうだったの。
- 浅生
- で、とりあえず10枚ぐらい書いてみたら、それを編集者が読んで「これおもしろいから、ちゃんと物語にして連載しましょう」って言われて。
これに関してはほんとに「何でもいいから書いてみて」って言われて、頭だけワッと書いて、そっから編集者と一緒に…

- 糸井
- ストラクチャーを作ったのね。
- 浅生
- そうですね。「あ、こういう物語なんだ」って書いてみるまで、わかんないんですよ自分でも。書き終わった時も、何だかマラソンを最後までちゃんと走れた時の「終わった」という感覚というか。
しかも、自分で走ろうと思って走り出したマラソンではなくて、誰かにエントリーされて走ってる。
- 糸井
- 誰かが「代わりに走ってくれ」って言ったみたい。
ぼくは小説書くのは、嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で、もう本当に嫌でしょうがなかった。
ぼくも頼まれてやったけど、二度と書かない。
浅生さんはまた頼まれたらどうする?
- 浅生
- 多分やります。きっと嫌いじゃないんです。
- 糸井
- 浅生さん、元々SFとかそういうのたくさん観るでしょ。観るのがそんなに好きだっていう人だからきっとやるだろうね。ぼくはめんどくさいもん。
- 浅生
- ぼくもめんどくさいですよ。間違いなく。
- 糸井
- めんどくさいの種類が違う。ぼくのめんどくさいは、もうほんとにめんどくさいから。
- 浅生
- (笑)でも、18年間毎日原稿書いてますよね。
ぼく毎日書いてないですもん。

- 糸井
- 毎日のほうが楽なんだよ、かえって。毎日やってるっていうアリバイができるから。日曜もやってる蕎麦屋がまずくても、しょうがないよって言えるじゃない。
努力賞で稼ぐ。
- 浅生
- やっぱりめんどくさいんですよね。
- 糸井
- そろそろまとめろと言われましたね。
そもそもぼくらの人生、表現しなくて一生を送ることだってできたじゃないですか。でも、表現しない人生は考えられないでしょ、やっぱり。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 受注なのに。
- 浅生
- そうなんです。それが困ったもんで。
- 糸井
- そこですよね、ポイントはね。
- 浅生
- そこが多分一番の矛盾。
- 糸井
- 矛盾ですよね。「何にも書くことないんですよ」とか「言いたいことないです」「仕事もしたくないです」。だけど、何かを表現してないと‥‥。
- 浅生
- 生きてられないです。
- 糸井
- 生きてられない。
- 浅生
- でも、受注がない限りはやらないっていうね。ひどいですね。
- 糸井
- だから、「受注があったら、ぼくは表現する欲が満たされるから、多いに好きでやりますよ、めんどくさいけど」。これはでも、自分がちょっとそこが似てるんじゃないかなぁという気がしますね。
- 浅生
- かこつけてるんですかね。何かに。
- 糸井
- うん。そうねぇ。何かを変えたい欲じゃないですよね。
- 浅生
- うん。変えたいわけではないです。
- 糸井
- 表したい欲ですよね。表したい欲って、裏表になってるのが「じっと見たい欲」ですよね。
- 浅生
- 「じっと見たい欲」?
- 糸井
- うん。多分表現したいってことは、「よーく見たい」とか「もっと知りたい」とか「えっ、今の動きみたいなのいいな」とか、そういうことでしょう?
- 浅生
- 画家の目が欲しいんですよ。あの人たちって、違うものを見るじゃないですか。画家の目はきっとあるとおもしろいなって。
- 糸井
- いや、すごいですよ、ほんと、画家の目ってね。違うものが見えてるんですからね。
- 浅生
- あと、見えたとおりに見てるっていうか、見たとおりに見えてるじゃないですか。ぼくらは見たとおりに見てないので。
- 糸井
- そこに画家は個性によって、実は違う目だったりする。でもそれはぼくなんかが普段考える「女の目が欲しい」とか、そういうのと同じじゃないですかね。受け取る側の話をしてるけど、でもそれはやっぱり表現欲と表裏一体で、受けると出す‥‥。
これはどうでしょうねぇ。臨終の言葉をぼくさっき言ったんで、浅生さんは今、臨終の言葉何かどうでしょう。今受注したね。
- 浅生
- はい。死ぬときですよね。前に死にかけたときは、そのときは「死にたくない」って思ったんで、すごく死にたくなかったんですよ。今もし急に死ぬとして‥‥「仕方ないかな」。
- 糸井
- (笑)
これで終わりにしましょう。いいですね。