浅生さん、ほんとのことって何ですか。
第4回 誰だってある、表と裏。
- 糸井
- この間の読売新聞のインタビューみたいなのは、これからも増えていくと思うんですけど、
主には本を出したりする関係で、作家として聞かれますよね。
作家としてだったら、何とかインタビューとか成り立つ?
- 浅生
- 成り立つのかなぁ。わかんないです。
成り立ってないような気もするんですけど、
きっと記者の人が優秀だと成り立つんですよね。
- 糸井
- 今日の話は、つなげなければ成り立ってますよ。
- 浅生
- キャッチボールじゃないんですよね、何か。
- 糸井
- うん。ほんとに難しいですよ。浅生鴨インタビューって。
- 浅生
- ぼく、聞かれたときにはわりと丁寧に答えてはいるんですけど、
どうもその答えの方向が求められてるのと違うことらしくて(笑)
- 糸井
- いや、違ってもいないですよ。
でも、次の質問をさせない答えなんですよ。
- 浅生
- はぁ。
- 糸井
- 次の質問の隙間がモアっとしてあって、
目がそっちに行くように話ってできてるんだけど、
あなたと話してると、1つ終わると終わっちゃうんですよ(笑)
- 浅生
- 何でですかね?
ご飯の食べ方が、ぼくそうなんですよ。
定食でおかずとご飯があっても、
ぼく、1品ずつ全部食べるんです。
- 糸井
- やめなさい、それ。(笑)
三角食べとかあるじゃないですか。
- 浅生
- そう。三角食べができなくて。
1つずつ全部キレイになくなってからなので、
だからいつもご飯がすごい余るんです。

- 糸井
- 浅生さんは、インタビュアーになったことはあります?
- 浅生
- あります。ぼくインタビュー得意です。すごく得意です。
- 糸井
- それ、ちょっと思うんだけど、相手が「何とかしたい」って思っちゃうんだろうね。
- 浅生
- ぼく、質問して相手が話し始めたら、黙って聞いてるんですよ。
特にテレビのインタビューだと、カメラ回ってるときに、
インタビューする人って「あれも聞かなきゃ」「これも聞かなきゃ」って
焦っていろいろ聞くんですけど、ぼくだまってカメラ回ったまんま、
じーっと黙ってたら相手が沈黙に耐えられなくなって、
しゃべり始めてくれるんですよね。
- 糸井
- ちょっとわかります。
聞かれる側でもそれは辛いもん。
- 浅生
- すいません。
- 糸井
- 日常で会話してる分には、なんでもないんですけどね。
楽しい奴だぜ、なんだけどね。
- 浅生
- 孤独に耐えられるので、沈黙とか孤独が全然怖くないので。
- 糸井
- 相手が怖がってるっていうのについて、多少思いやりとか無いもんなのかね。
相手は孤独とか沈黙、嫌だよ。
- 浅生
- 嫌だと思いますけど、でもまぁぼくじゃないので。
- 糸井
- (笑)あんまり他人っていうの考えたことないの?
- 浅生
- うん、多分。
自分がどう思ってるかだけで、もういっぱいいっぱいというか。
もちろん、相手の気持ちとか、ぼく優しい人間なので
「この人はこういうふうに感じてるだろうな」とかっていうのは、わりとわかるほうではあるんですけど。
だからといって、そこを何とかしてあげたい、とまでは思わないんですよね。
- 糸井
- でも、女川の手伝いとか、そういうのはするじゃないですか。
- 浅生
- そう。でもそれは、ぼくが楽しいからやってるんであって、嫌なら行かないですから。
- 糸井
- 神戸のときは自分が‥‥。
- 浅生
- それも揺れた瞬間はいなくて、ただもう燃えてる街をテレビで観てて、
当時ぼく座間のほうで働いててそこの社員食堂のテレビを見てたら
死者が2千人、3千人になるたびに周りで盛り上がるんですよ。
「おぉーっ」とか、言ってみればもう「やったー」みたいな感じで。
「2千超えたー」「3千いったー」みたいな感じで、
ちょっとゲーム観てるみたいな感じで盛り上がってるのが、ちょっと耐えられなくて。
それですぐに神戸に戻って、そこから水運んだり、避難所の手伝いしたりっていうのをしばらくずっとやって。
- 糸井
- お母さんも、その現場にはいなかったの?
- 浅生
- うちは山のほうなので、祖父母の家が潰れたんですけど
実家自体は大丈夫でした。
帰ったときはまだ街が燃えてる状態で、友達もずいぶん下敷きになりました。
- 糸井
- あれが神戸じゃなかったら、浅生さんは違ってたましたか。
- 浅生
- もし実家と離れた場所だったら全然違うと思います。
もしかしたら「2千人超えたー」って言う側にいたかもしれない。
そこだけは、ぼくが常に「やったー」って言う側にいないとは言い切れない。
- 糸井
- それは、すごく重要なポイントですね。
自分が批難してる側にいないという
自信がある人ではないっていうのは、大事ですよね。
- 浅生
- ぼくいつも、自分が悪い人間だっていうおそれがあって。
人は誰でもいいとこと悪いところがあるんですけど、
自分の悪い部分がフッと頭をもたげることに対するすごい恐怖心があるんですよ。
だから「ぼくはあっち側にいるかもしれない」っていうのは
わりといつも意識はしてますね。
- 糸井
- そのときどっちの自分が出るかっていうのは、そんなに簡単にわかるもんじゃないですよね。
「どっちでありたいか」っていうのを普段から思ってるっていうことまでが、ギリギリですよね。
- 浅生
- だから悪い部分が出るかもしれないという不安も持って生きてるほうが、
いざというときに踏みとどまれるような気はするんですよ。
- 糸井
- 選べる余裕みたいなものを作れるかどうか、どっちでありたいかっていうことですね。
それは「このときも大丈夫だったから、こっちを選べたな」
っていうことは足し算ができるような気がするんだけど
一色には染まらないですよね。
- 浅生
- 染まらないです。

- 糸井
- あー、ほんとに永田くん、このインタビュー難しいでしょう。
- 永田
- おもしろいです。
- 糸井
- おもしろいんだけどさ、やってる本人はすごく難しい‥‥。わかる?
- 永田
- 話自体はそうとうおもしろいです。
- 糸井
- まあね。なんだろうね。やっぱりやりとりがあるからね。
永田くん、ちょっと参加してみない?
聞く側にいつも立つ人だから聞かれ慣れてないけど、
ちょっとぶつけてみようかなと思って。
沈黙に耐えられる人ですよ、この人も。
2人でちょっと。
- 永田
- いやいや。
- 糸井
- だって知らないでしょ、ぼくほど。浅生を。
- 永田
- そうですね。あの、小説は頼まれ仕事?
- 浅生
- はい。
- 永田
- 自分からはやらない?
- 浅生
- やらないです。
- 糸井
- おしまい、ね?
- 永田
- 頼まれなかったらやってなかった?
- 浅生
- やってないです。
- 糸井
- おしまい。
- 永田
- 頼まれなくてやったことって何ですか?
- 浅生
- 頼まれなくてやったこと‥‥、仕事でですよね?
- 永田
- いや、仕事じゃなくてもいいです。
- 浅生
- ないかもしれない。
- 永田
- おぉー。
- 糸井
- おしまい。1個ずつ全部おしまいだ。
- 浅生
- ちょっと頑張ります。つなげる何かを。
- 糸井
- 頼む。無理にとは言わない。
- 浅生
- 何ですかね、この受注体質な‥‥。
- 永田
- 入り口は受注だけど、そのあとは無駄に頼まれなくてもやってることっていっぱいあるように見えます、むしろ。
入り口を利用して。
- 浅生
- 頼まれた相手に、ちゃんと応えたいっていうのが過剰なことになっていくような気はするんですよ。
だから10頼まれて、頼まれた通りの10だけ納品だとちょっと気が済まなくて、
12ぐらい、16ぐらい返すっていう感じにはしたいなっていう。
やりたいことがあんまりないんですけど、やりたいことは期待に応えたいっていうこと。
- 永田
- 何にも無いと自分からプチッて先には行かないけど、
頼まれるとやりたいことがワーッと、その機に乗じて持ってこられるような感じです。
- 浅生
- そうなのかなぁ。
- 糸井
- 「自分がやりたいと思ったことないんですか」「ない」っていうのは、俺もずっと言ってきたことなんだけど、
たまには混じるよね。「あれやろうか」ってね。
- 浅生
- 例えばNHKにずっといて、自分からやったのって東北の震災のあとにCMを2本作ったくらいです。
そこで、神戸の話をしようと思ったんです。神戸で今暮らしてる人が17年前に大変な思いをしましたけど、17年経った今、笑顔で暮らす毎日があります、っていうだけの「神戸」っていうCMを作ろうと思ったんです。
ただ、怖いんで、CMの企画して東北に行きました。
いろんなところで「こんなCMを考えてるんですけど、どう思いますか?」っていうのをまず聞いて回ったんです。
「これだったら、ぼくたちは見ても平気だ」ってたくさんの人が言ってくれたんで「よし、じゃあ作ろう」と思って。
ただNHKでは企画が通らなかったので、「もういいや、作っちゃえ」って思って、勝手に自腹で作っちゃったんですよ、
NHKが流してくれなかったら、どこにでも持ってって、お金出してもらっちゃおうと思って。
そしたら、最後の最後にNHKが全部お金出してくれました。
それぐらいです、自分からやろうと思って作ったのって。あとはだいたい受注ですね。
- 永田
- 浅生さんが当時、NHK番組のインターネット中継を自分の独断で許可しますっていうのも受注ということなんですか。
- 浅生
- あれも「こういうのが流れてるのに、何でNHKリツイートしないんだよ」みたいなのが来て、
初めてそれで知って、「ああ、たしかにこういうのがある」っていう感じでした。
自分で探して見つけたわけではないから、言ってみれば人から言われてやったようなもんで。
- 糸井
- まぁ、それはそうだろうけどね。
- 浅生
- でも、やるって決めたのは自分ですね。
- 永田
- あのときは、2人ともものすごいことをやってるなというのは。
それこそ毎日発信、あの当時ど真ん中で。
糸井さんも毎日原稿書いてたし、みんな忘れちゃってるけど、なんか書くだけでも相当ピリピリした時期でしたよね。
- 浅生
- ぼくは「これからユルいツイートします」って書いたとき一番緊張しました。
- 糸井
- あぁ。
- 浅生
- 中継を流すのは、まぁ最悪クビになるだけじゃないですか。
「今からユルいツイートします」っていうのを、日常的なことをやりますっていうのを書くときは、やっぱり相当悩んだんです。多分半日ぐらい悩んだんですよね。
何度も文章書き直して、ほんとにいいのかなって。
要するに1人で舵切ろうとしたんで、傷つく人がいっぱい出るかもしれないっていう恐怖はありました。
- 永田
- 糸井さんもお金の寄付の話を翌々日に出したときは、迷ったし恐怖だったしってお話は。
- 糸井
- でも、あれはぼくもあのあたりの仕事って受動なんですよ。
ニュースで見えてた映像と、誰かが募金箱に千円入れて、
あるいは百円入れて、で、終わりにしちゃうような感覚とがどうしても釣り合いが取れないなと思って辛かったんです。
痛みを共有するっていうことをしないとな、みたいな。
でも、あれも嫌だったよね、たとえ全財産投げ出しても、たぶん「そんなもんか」って言われるわけですから。
- 浅生
- ぼく、女川に直後から行ってFM作ったりとかしてたんですけどそれはずっとこっそりやってました。
なんというか僕、自分がそこに行ってみたからって全部見てるわけでも、見たものがすべてでもないから一時情報をあまり信用してないんです。
でも、自分で見て自分がやって、そうやって感じたものを言いたくて行ってたんですよね。
実感ないままで何かを言うのは嫌だなって思ったんです。
- 糸井
- 早野さんが、震災後の時期でほんとに何でもないときにしょっちゅう呼ばれて行ってたんですよね。
僕、あの回数が、一次情報ってものだと思うんだよね。
呼ばれるだけの頼られ方をしているっていうことと、大小区別されることなくいってるっていうことがすごいことなんです。
で「うれしくってヒョイヒョイ行ってるのか」って言ったら、「そりゃあ、嫌なこともありますよ」っていう。
そのほんと加減、それは自分たちがやってることもそういうふうにしたかったんです。
現地の人が「もう来なくなっちゃうんだろうね」って心配してることに対して「不動産屋と契約したから2年はいます」とか、
そういう誰でもできることをやるってところが大事だと思ってたんです。
- 浅生
- ぼくは寄付したくなかったので、福島に山を買ったんです。
もちろん、すごく安いんですよ。
山の山林で、ほんとにぼくが買える程度の金額なので、全然大したことはないんですけど。
山買うとどうなるかっていうと、毎年固定資産税を払うことになるんですよ。
そうすると、ぼくがうっかり忘れてても勝手に引き落とされるので、
ぼくがそこ持ってる限りは永久に福島のその町とつながりができるんです。
- 永田
- 今持ってるんですか。
- 浅生
- 今もです。だから、9月にまた1つ「あっ」みたいな。
「また落ちてた」。
- 糸井
- 多分、何が言いたいんだかよくわかんないんだけど、「ああいうのが嫌だな」っていう感覚が似てるんじゃないかな。
要するに嫌なものがいっぱいあるんですよ。
その嫌なものって「何で嫌なんだろう」って思うと、「自分はそういう嫌なことしたくないな」って思う。
- 永田
- と、面倒でもそういう方法を。
会社の予算に組み込んじゃうとか。
- 糸井
- そうそう。
人の表裏だとか、意地悪な視線っていうのは、
明らかに鴨さんのエッセイとか小説とか読んでてもそういうもんだらけです。
それは、裏を返せば「優しさ」って言ってくれる人もいる、みたいな。
そういうことしがちだよね、人間ってっていう。
- 浅生
- 不思議なんですよね。
人間ってそういう、しょせん裏表がみんなあるのに、ないと思ってる人がいることがわりと不思議で。
- 糸井
- そう。「私はそっちに行かない」とかね。
- 浅生
- そんなのわかんないですもんね。