- 糸井
- 今まで裏方をやったり、名前を変えたり、隠したりしてますけど、『アグニオン』は今までで一番表に立ってる?
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- きっかけは?
- 浅生
- 2012年にちょっとツイッターが炎上して、落ち込んでたんです。
そんなときに新潮の編集者がやって来て「何でもいいから書いてもらえませんか」と言われて。
新潮の『yom yom』っていう雑誌を読んで「何が足りないと思いますか」って言われたんで「若い男の子向けのSFとか」って話をしたら「じゃあそれで」と。
- 糸井
- えっ。そんなことだったの?ひどい(笑)
- 浅生
- で、とりあえず10枚書いたら編集者が「これおもしろいから物語にして連載しましょう」と。
そっから編集と一緒に。
- 糸井
- ストラクチャーを作ったのね。
- 浅生
- 自分でもどんな話になるかわからないのに
いろいろ伏線を仕込むから、回収してかなきゃいけないのが辛かった。
- 糸井
- まったくわかってなかったんだ?
- 浅生
- 実は1回原稿用紙で500枚ぐらい書いたんですけど、
最後の最後にそれまでの物語を解決するキャラクターが出てきて。
それを読んだ編集に「この人主人公にもう1回書きませんか」って言われて、その500枚は全部捨てて、もう1回ゼロから書き直しました。
- 糸井
- めんどくさがりなわりには。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- ぼくは『アグニオン』っていうタイトルだけで苦しい。
もっとなんか「神々の黄昏」みたいな、そういうのにしてよ(笑)
- 浅生
- 何だかわかんないタイトルにしたかったんです(笑)
- 糸井
- 何だかわからないものにする癖がついてるんですね。
- 浅生
- ああ、そうですね。
そうかもしれない。
- 糸井
- 「ドコノコ」を考えたときにおもしろいと思ったんだけど、
タガがないと思って、浅生さんを思いついて。
立ち上がりからのメンバーですよね。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 全体のストラクチャーの構築を。
- 浅生
- ストラクチャーの構築を。
- 糸井
- あれがあるのは、なんか浅生さんにとっていいですよね。
NHK_PRの仕事に似てるんじゃない?
- 浅生
- まぁちょっと似てますよね。
- 糸井
- 人手が足りないからできないとかっていうんじゃなくて、
どんどんあの中に知恵とか、知恵や勇気や絆や……入れていけるといいですね。
- 糸井
- 小説は、頼まれなかったらやってなかった?
- 浅生
- やってないです。
- 糸井
- 頼まれなくてやったことって何ですか?
- 浅生
- 頼まれなくてやったこと‥‥
(長い沈黙)
ないかもしれない。
- 糸井
- おぉー(笑)
- 浅生
- 何ですかね、この受注体質‥‥。
- 糸井
- 入り口は受注だけど、
そのあとは頼まれていないのにやってることがいっぱいあるように見える。
- 浅生
- 頼まれた相手にちゃんと応えたいっていうのが
過剰な気はするんですよ。
- 糸井
- 頼まれるとやりたいことがワーッと沸き起こるのかな。
たとえば、ご自分のところの変な公式ホームページとか、
誰もあんな発注してないと思うし(笑)
- 浅生
- あれは「話題になるホームページってどうやったらいいですか」と相談をされて「じゃあお見せしますよ」って(笑)
- 糸井
- 「自分がやりたいと思ったことはない」って俺もずっと言ってきたけど、たまに混じるよね。「あれやろうか」ってね。
- 浅生
- たとえばNHKにずっといて自分からやったのって、
東北の震災のあとにCMを2本作ったことですかね。
神戸の話をしようと思ったんです。
「絆」とかいっぱい出始めた頃に、今そんな話したって意味がないから「神戸は17年経って日常を取り戻しました」っていうCMを。でも初めは企画が通らなかった。
- 糸井
- きっとね、神戸がどのくらいかかったかみたいな話って、
東北の人自身が聞いてがっかりしたの。長く感じたの。
- 浅生
- でも、覚悟はやっぱり必要で。
ぼく、東北は30年かかると思ったんですよ。
だけど必ず戻るものがあるっていうのも含めてCMをつくろうと。
- 浅生
- ただ怖くて東北の人に企画をみせて回ったら、
「これなら、ぼくたちは見ても平気だ」って
たくさんの人が言ってくれたんで、
自腹で勝手に作っちゃったんですよ。
最後は結局NHKが企画を通してくれて。
それくらいです、自分でやったのは。
- 糸井
- でも浅生さんの大きな決断としては、
当時NHKの放送を一般の人が転載したユーストリームを、
自分の独断でリツイートしたっていう。
(※当時の出来事の詳細はこちらの記事をご覧ください。)
あれは自分から?
- 浅生
- 「これを何でNHKリツイートしないんだよ」みたいなのが来て、
「これはやるべきだな」と思って自分で決めました。
- 糸井
- あのあたりは「決断だな」って言えるし、
大きな波っていうのを読めた瞬間ですよね。
大きく逆らって磔になるようなことしたわけじゃなく。
- 浅生
- いいことですから。
- 糸井
- でも、NHKの人がそういうことをやったっていうのが、
やっぱりショックでしたね。
ぼくらからすると、こういう人だと思ってなかったから。
- 浅生
- ぼくが1番緊張したのは、
「これからユルいツイートします」って
書いたときですかね。
- 糸井
- あぁ。
- 浅生
- ユーストリームをリツイートするのは、
まぁ最悪クビになるだけじゃないですか。
でも「今からユルいツイートします」、
つまり“日常的なことをやります”っていうのを書くときは
相当悩んだんです。何度も書き直して。
- 糸井
- 最悪どうなるか、っていうのが見えないもんね。
- 浅生
- どうハレーションしてくかわからないので、
それによって逆に傷つく人がいっぱい出るかもしれないっていう恐怖が。
- 糸井
- ぼくも、お金の寄付の話を翌々日に出したときは、迷ったし恐怖だった。嫌な間違え方をすると「ほぼ日」の存続に関わると思ったんで。
でもこのまま行くと、誰かが募金箱に千円入れて終わりにしちゃうような、その実感が辛かったし嫌だった。
- 浅生
- ぼくは寄付したくなかったので、福島に山を買ったんです。
- 糸井
- ちょっといいですよね、それ。
- 浅生
- ぼくが買える程度の金額なので安いんですけど、
山を買うと毎年固定資産税を払うことになって、
うっかり忘れてても勝手に引き落とされるので、
ぼくがそこを持っている限りは永久に福島のその町とつながりができる。
- 糸井
- たぶん、何が言いたいんだかよくわかんないけど、
「ああいうのが嫌だな」っていう感覚が似てるかな。
2人とも意地悪なんだと思う。
- 浅生
- ぼくは意地悪じゃないです(笑)
- 糸井
- 要するに嫌なものがいっぱいあるんだよ。
その嫌なものを「何で嫌なんだろう」って思うと、
「自分はそういう嫌なことしたくないな」って考え始めて。
- 浅生
- ぼくはだから、ストラクチャーを構築する。
- 糸井
- ぼくが言ってることと同じじゃない(笑)
- 浅生
- 言い換えただけ(笑)
- 糸井
- 「人は当てにならないものだ」とか、
「いいことって言いながら嫌なことするもんだ」とか、
そういう意地悪な視線は、鴨さんのエッセイとか小説とか読んでてもそういうもんだらけですよ。
裏を返せば「優しさ」みたいな。
- 浅生
- 人間ってそういう裏表がみんなあるのに、
ないと思ってる人がいることがわりと不思議で。
- 糸井
- そのへんは、ほとんど浄土真宗の考えじゃないですか。
縁があればするし、
縁がなければしないんだよっていう話でさ。
東洋にそういうこと考えた人がいたおかげで、
俺はほんとに助かってる。
- 浅生
- 仏教のそもそもが「何かしたい」とか、
「何かになりたい」って思うと、
全て苦行だから、全部捨てると悟れるっていう。
だから別に何かやりたいことがないほうが。
- 糸井
- ブッティスト。
- 浅生
- ブッティストとして(笑)
- 糸井
- そういうブッティスト的な何かの時期があったの?
- 浅生
- まったくないです(笑)
(つづきます)