糸井

「あなた日本人じゃないですね」って言われちゃうような
外見ですよね。

浅生

いや、意外にそうでもないんですよ。

糸井

そうなんだ。ぼくは最初に会ったときに、
「この外国の人は、日本語が流暢だな」って思いました。

浅生

まぁ、今でもたまにありますけどね。
多分、それはぼくが日本人として日本で生きていく限りは、
ずっと続くだろうなって思います。

糸井

自分がそういうゆらゆらしてる場所に立たされてることで、明らかに心がそういうふうになりますよね。

浅生

なります。常に「どっちかな？」って思われるんです。
いちいち「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、
父方がヨーロッパの血が入ってて…」みたいなことを、
毎回説明しなきゃいけないのがめんどくさくて。
聞く側は１回なんですけど、言う側は子どもの頃から
何万回って言ってるので。
それで、飽きてくるとちょっと茶目っ気が出て、
嘘を混ぜる。

糸井

嘘つきになっちゃったわけですね。

浅生

相手が誤解して「こうじゃないの？」って
言ってきたときに、訂正するのもめんどくさいから
「そうなんですよ」って言うと、もはや完全にぼくとは違うものがそこに存在し始めて。

糸井

それは小説家だってことじゃない。空に書いた小説。

浅生

そうですよね。

糸井

今もそうですよね。「何かを庭に埋めておくと育ちます」
みたいなどうでもいい嘘は、もう無数に言ってますよね。

浅生

そうですね。

糸井

それが仕事になると思わなかった。

浅生

ビックリしますね。

糸井

ずっと嘘をついてれば仕事になるんだもんね、この先。

浅生

まぁ、そういう仕事ですよね。

（つづきます）