もくじ
第1回めんどくさくて、嘘つきになった。 2016-10-18-Tue
第2回溶け込むか。飛び抜けるか。 2016-10-18-Tue
第3回「あっち側にいるかもしれない」不安。 2016-10-18-Tue
第4回ニヤニヤして生きていきたい。 2016-10-18-Tue
第5回受注があったら、喜んでやります。めんどくさいけど。 2016-10-18-Tue

出版社で営業の仕事をしています。社会人1年目。

浅生鴨さんの</br>嘘のようで、ほんとの話。

浅生鴨さんの
嘘のようで、ほんとの話。

NHK広報局ツイッター(@NHK_PR)の、
初代「中の人」として知られる浅生鴨さん。

ほぼ日にもこれまで色々な立場で登場してきた浅生さんですが、
どこか掴みどころがなく、ミステリアスに感じていた方も少なくないのでは。

2014年7月末にNHKを退職し、
その後は作家としての活動を本格的に進めてきた浅生さんが、
今まで広く知られていなかったご自身の半生や、
8月に刊行された新作長編『アグニオン』について、
糸井さんと対談した内容をまとめました。

プロフィール
浅生鴨さんのプロフィール

第1回 めんどくさくて、嘘つきになった。

糸井
最初に会ったときに、
「この外国の人は、流暢だな」って思ったんだよね。

浅生
「日本語上手ですね」っていう人はやっぱりいます。
糸井
この前、読売新聞にインタビューが載ってたけど、
あの写真だけ見ると、
「あなた日本人じゃないですね」って
言われてもおかしくないですよね。
浅生
でも、「日本人だろう」って言われるんですよ。意外に。

糸井
半分。
浅生
はい。
糸井
そうか。ハンパですね。
浅生
常にみんなが「どっちかな?」って思うんですよね。
そうすると必ず、
「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、
父方にヨーロッパの血が入ってて‥‥」
みたいなことを、毎回言わなきゃいけないんですね。
聞く人は1回なんですけど、
言う側は子どもの頃から何万回って言ってて、
いちいち説明するのがもうめんどくさくて。
糸井
カードにして持ってれば?
浅生
うちの母なんかは、
「テープに入れて、1回100円で聞かせたらどう?」
ぐらいのことを。
糸井
母、商売っ気があるねぇ。
浅生
なんですかね、怪我でギプス付けてて、
「どうしたの」って聞かれる時みたいな。
最初2回ぐらいはいいけど、
50回ぐらいになると飽きちゃって、
ちょっと茶目っ気が出てきて。
糸井
嘘を混ぜる。

浅生
そう。ちょっと、おもしろいことを
混ぜちゃったりするようになるんですよ。
そうすると、
そっちで混ぜたのと、
あっちで混ぜたのが相互作用して、
すごいおもしろいことになってたりして。
それでだんだん「めんどくさい」って思ってきちゃって、
あんまり世に出ないようにするっていう。
糸井
嘘つきになっちゃったわけですね。
浅生
で、相手に「こうじゃないの」って言われたら、
それが誤解でも、「そうです、そうです」みたいな。
訂正するのがめんどくさくて、
「そうなんですよ」って言うと、そうなるんですよね。
糸井
思いたいように思うからね。
浅生
別の人が「あなたって、こうですよね」って言って、
「あぁ、そうです」って言うと、
AさんとBさんでは違う「そうです」になってて。
たまたまAさんとBさんとぼくが一緒にいると、
話がすごいことになっちゃうわけですよ。

浅生
さらにぼくが説明するのがめんどくさいから、
「いや、もう両方合ってます」みたいなことを言うと、
もはや完全にぼくと違うものがそこに存在し始めて。
糸井
それは小説家だってことじゃない。
空に書いた小説じゃない。
浅生
そうですよね。
糸井
見た目だとか国籍がどうだとかっていう話は、
ずーっと続いてきたんですか?
浅生
ずーっとですね。
ぼくが日本人として日本で生きていく限りは、
多分、一生続くだろうなって。
糸井
そういうユラユラしてる場所に立たされてると、
明らかに心がそんな感じになってきますよね。

浅生
なります。
糸井
だから、嘘言ったり、デタラメ言ったり、
めんどくさいから「いいんじゃない」って言ったり。
今もそうですよね。
浅生
でもまぁ、あんまり嘘は‥‥。
そのときそのときで、実はそんなに言ってないんですよ。
糸井
言ってます。
浅生
言ってますか。
糸井
「何かを庭に埋めておくと育ちます」みたいな、
どうでもいいことについての嘘は、
もう無数に言ってますよね。
浅生
あぁ、そうですね。
糸井
でも、それが仕事になると思わなかったですね。
浅生
びっくりしますね。
糸井
嘘をつくことが仕事になるんだもんね、この先。
浅生
まぁ、そういう仕事ですよね。
糸井
嘘の辻褄合わせみたいな。
浅生
合ってなくてもいいんです、別に。
糸井
あぁ、そうか。
浅生
なんか、最近ずっと書いてる短編なんかは、
もう辻褄合わせないほうがおもしろいんですよね。
糸井
辻褄に夢中になりすぎですよね、みんなね。

浅生
決着を付けたがるところが。
でも、物事、辻褄がうまく行くことなんて限られてて。
糸井
辻褄の話は、
また違うテーマでゆっくり語れるような気がするね。
特集「辻褄」とか、やってみたい。
 
(つづきます)
第2回 溶け込むか。飛び抜けるか。