浅生鴨さんの
嘘のようで、ほんとの話。
第4回 ニヤニヤして生きていきたい。
- 糸井
- 浅生さんの、
人生を変えるような経験についても……。
あれはもう、何万回もしゃべったのか。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 人生を変えるような大事件が
浅生さんの身の上に起こって……。
これ、このまんまテープ起こしに
入れないようにしておこうか(笑)。

- 浅生
- 「すごいことが起こったんです」
「でも、言わない」
みたいな(笑)。
でも、ほんとにぼくはそのことで、
「死ぬ」ということがどういうことかを……。
もちろん、ほんとに死んだわけじゃないんですけど。
- 糸井
- 何万回目でよければ、お願いします。
- 浅生
- すごく簡単に言うと、
ぼくがオートバイに乗ってて。
31歳の頃です。
- 糸井
- 結構大人になってからなんだよね。
- 浅生
- そうなんです。
31歳のときに、バイクに乗ってて、
大型の車とぶつかって、
足をほぼ切断し、
身体も内蔵もいっぱい破裂し、
3次救急っていう、要するに、
死んでる状態で病院に運び込まれて、
そこから大手術をして復活したんですけど。

- 浅生
- それから1年ぐらいは入院してて、
そのあとずっと車椅子生活をして。
最初に「一生歩けない」って言われたんですけど、
リハビリをずっとしてるうちに、
少しずつ歩けるようになって、今に至ると。
大事故で、ほんとに普通なら死んでる。
しばらくは意識不明というか、植物というか、
まったく意思の疎通が取れない状況だったんですけど、
ぼくの中では世界が歪んだ状態で認識されてるっていう。
そういう日々を。
- 糸井
- 何日ぐらい?
- 浅生
- 正確にはわからないんですけど、10日ぐらい。
- 糸井
- 意識不明が。
- 浅生
- 意識不明というか、意識混濁というか……。
多分、妻の日記とか見るとわかると思うんですけど。
- 糸井
- そのとき妻がいたんですね。奥さんも大変だったね。
- 浅生
- 大変なんですよ。
とにかくぼくは、事故にあって運ばれて手術を受けて、
その日の夜が、ヤマなんですよね。
そこ越えれば生きられるけど、
そこで大概は死ぬっていう。
もちろん、それは聞かされてないんですけど。
そのとき、妻がちょうど海外出張中で連絡が取れなくて、
「ここで死んだら妻にものすごく怒られる」って、
なんか思ったんですよ。
ぼくが連絡取ることもできないので、
何らかの方法で一応伝わってはいたんですけど、
妻に会って謝ってから死のうと思ったんです。

- 浅生
- もう死ぬのはわかってたんで、
一言「ごめん」って言って、謝ってから死ねば、
そんなに怒られずに済むだろうと思って。
そしたら、妻に連絡取るのに1日かかり、
海外から戻ってくるのにまた中1日かかりで、
結局2日ぐらいかかっちゃったんです。
それで、その間に峠を越しちゃったっていう。
- 糸井
- 謝らなきゃならないから?
- 浅生
- はい。もうとにかく謝るまでは死ねないと思って。
- 糸井
- それはちょっとした意識があるんだ。
- 浅生
- そうです。
とにかく謝るまでは死ねない死ねないと思ったら、
2日か3日もっちゃって。
で、妻が来て、
「ごめん」って謝って、意識がなくなったんですよ。
- 糸井
- え、そっから意識がなくなった?

- 浅生
- なくなりました。
そこまで何とか意識はあったんです。
もう怒られたくない一心で。
- 糸井
- 心臓止まったりもしたんですよね。
- 浅生
- 一瞬ですけどね。やっぱり、
「死ぬとは何か」を、ちょっと理解したんですよ。
- 糸井
- 身体で。
- 浅生
- 体験して。
ほんとかどうかわからないにしても。
よく、死ぬのが怖くないから
俺は何でもできるみたいな人がいるけど、それも嘘で。
別にぼく、「死」はそんなに怖くないんですけど、
だからといって死ぬのは嫌ですから。
怖いのと嫌なのは別じゃないですか。
怖くはなくなったんですよ。死ぬってこういうことかと。
- 糸井
- より嫌になるでしょうね、きっと。
- 浅生
- より嫌になる……うーん。
- 糸井
- どうですかね、そのへんは。
- 浅生
- なんか、すごく……淋しい。

- 糸井
- あぁ、それは、若くして年寄りの心をわかったね。
俺は年を取るごとに、
死ぬことへの怖さが失われてきたの。
で、もう最後に映画の中で、
自分が「お父さん」とか呼ばれながら
死ぬシーンをもう想像してるわけ。
そのときに、何か一言いいたいじゃない。
その言葉をさ、しょっちゅう更新してるの。
結構長いことこれがいいなと思ってたのはね、
「あー、おもしろかった」っていう。
これが理想だなと思ったの。
嘘でもいいからそう言って死のうと思ってた。
- 浅生
- 「おもしろかった……パタッ」と。
- 糸井
- でも、それがこの頃、
ちょっと変わってきて。
さぁ命尽きる、っていう最期に、周りが
「何か言ってる、何か言ってる」って言ったら、
………「人間は、死ぬ」。

- 一同
- (笑)
- 浅生
- 真理を(笑)。

- 糸井
- そう(笑)。
「人間は死ぬもんだから」っていう。
そう言って死ぬのを、皆さまへの、
最期の言葉にかえさせていただきたいと思いますよ。
- 浅生
- 人間は死にますから。
- 糸井
- で、同時に、「死ぬ」がリアルになったときに、
「生きる」のことを考える機会が多くなりますよね。
それはどうです?
- 浅生
- そうですね。だからといって、
何か世の中に遺したいとか、
そういう気は毛頭なくて。
ただ、死ぬということが、
ぼくはすごく淋しいことだと体験したので、
だから、生きてる間は
「楽しくしよう」みたいな。
別に、知らない人とワーッてやるのは苦手なので、
パーティー行ったりとかする気は全然ないし、
むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、
それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。
だいたい日頃、ニコニコするのは上手じゃないので、
「ニヤニヤ」して生きていこうみたいな感じです。
- 糸井
- そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。
「ニヤニヤ」で全部まとめちゃうもんね。
- 浅生
- そうですね。ニヤニヤして生きていきたい。
(つづきます)