- 糸井
- まずは、写真でわかっちゃったことだけど、「ニホンゴワッカリマセン」って言えば、通じちゃうような外見ですよね。
- 浅生
- 常にみんなが「日本人か外国人か、どっちかな?」って思うんですよね。そうすると必ず、「ぼくは、日本生まれの日本人なんですけど、父方がヨーロッパの血が入ってて…」みたいなことを、毎回言わなきゃいけないんです。聞く人は1回なんですけど、言う側は子どもの頃から何万回って言ってて、もう飽きてるんですよね。
- 糸井
- ということは、暗に「ここでも聞くな」っていうふうにも聞こえますけど。
- 浅生
- そんなことはないのですが…。例えば怪我して、ギプスをしてると「どうしたの」って聞かれて、最初2回ぐらいはいいんですけど、50回ぐらいになってくると飽きるじゃないですか。飽きてくると、ちょっと茶目っ気が出て。
- 糸井
- 嘘を混ぜる。
- 浅生
- そう。ちょっとおもろいことを混ぜちゃったりするようになるんですよ。そうすると、こっちでちょっと混ぜたことと、あっちでちょっと混ぜたおもしろいことが相互作用して、すごいおもしろいことになってたりして。だんだんめんどくさくなってきちゃうんですよね。
- 糸井
- 嘘つきになっちゃったわけですね。飽きちゃったから。1回か2回聞かれるんだったら本当のことを言ってたんだけど。
- 浅生
- もうめんどくさいから、相手が誤解して「こうじゃないの」って言ったときに、訂正もせずに「そうなんですよ」って。そうすると、もはや完全にぼくと違うものがそこに存在し始めるんです。
- 糸井
- それは小説家だってことじゃない。空に書いた小説じゃない。
- 浅生
- そうですよね。
- 糸井
- だから嘘言ったり、デタラメ言ったり、めんどくさいから「いいんじゃない」って言ったり。今もそうですよね。
- 浅生
- そのときそのときで、嘘は言ってないんですよ。
- 糸井
- 言ってます。どうでもいいことについての嘘は、もう無数に言ってますよね。
- 浅生
- そうですね。
- 糸井
- 「そうですね」って、すぐにまぁ。
- 浅生
- ぼく、ずっと神戸で生まれ育って、高校出るまで神戸で暮らしていたんです。
- 糸井
- みんなと溶け込んでたんですか?
- 浅生
- 表面上は。ちょうど校内暴力時代だったです。スクールウォーズの時代ですから、中学校の先生がヌンチャク持ってるんですよ。
- 糸井
- またちょっとさ、ちょっと補色(?)‥‥(笑)。
- 浅生
- いや、これしてないんです。
- 糸井
- ヌンチャク的な白墨とか何か。
- 浅生
- 本物のヌンチャク持ってるんです。竹刀持ってる先生とヌンチャク持ってる先生がいて、生徒が悪いことすると、それで頭やられるんですよ。でも、生徒側もただではやられないので、そこに対抗しに行ったりするような。
- 糸井
- マッドマックスじゃない。その地域にもよるんでしょ。
- 浅生
- もちろんそうだと思います。うちは、まだマシなほうではあったんですけど。
- 糸井
- ヌンチャクが?そうするともう、イガイガした鉄の玉とかになっちゃうじゃない。
- 浅生
- バレーボールに、灯油をかけて火を付けて投げるみたいなことをやってる中学もあったので。ただ、幸いうちは山の上に中学があったので、他校が殴り込みに来れないっていう。みんな息が上がっちゃうので。
- 糸井
- はぁー。タバコ吸ってるからね。息が切れやすいよね。
- 浅生
- ま、そんな感じの。わりと荒れた学園みたいな。
- 糸井
- その中では、あなた何の役なんですか? ヌンチャク部じゃないですよね。
- 浅生
- 強そうな悪い奴がいたら、そいつの近くにいるけど積極的には関わらないっていう。腰巾着までいかないポジションを確保していました。
- 糸井
- 体つきがいいから、強かったんですか?
- 浅生
- いや、ぼくは中学の頃はヒョロヒョロでちっちゃい感じだったんです。ターゲットになるとしばらくイジメられるから、とにかくターゲットにはされないように。
- 糸井
- でもさ、そんなの考えとしてわかってても相手が決めることだから、なかなかうまく行かないでしょ?
- 浅生
- 相手が得することを提供してあげればいいんです。中学生だから、単純で褒めれば喜ぶわけですよね。その子が思いもしないことで褒めてあげるんです。喧嘩が強いやつに「喧嘩強いね」っていうのはみんなが言ってるから、「キミ字、キレイね」ってちょっと言うと、「おっ」ってなるじゃないですか。
- 糸井
- すっごいね、それ。
- 浅生
- そうやってなんとか自分のポジションを。
- 糸井
- 「字、キレイ」で。
- 浅生
- そうですね。違う切り口でそこに行くっていう。ちょっと違う球を投げるというか。
- 糸井
- 今も似たようなことやってますね。
- 浅生
- 常に立ち位置をずらし続けてる感じですね。