糸井

人生を変えるような大事件が
浅生さんの身の上に起こったんですよね。

浅生

はい。
すごく簡単に言うと、
僕がオートバイに乗ってて事故にあったんです。

糸井

結構大人になってからなんだよね。

浅生

そうそう。大人になってから、３１歳の時です。
僕がバイクに乗ってて、大型車とぶつかって。
大事故で、ほんとに普通なら死んでる。
僕は足をほぼ切断し、身体も内蔵がいっぱい破裂し、
３次救急っていう‥‥
要するにもう死んでる状態で病院に運び込まれて、
しばらくの期間は意識不明というか、植物状態というか、
まったく意思の疎通が取れない状態になってたんです。

糸井

何日ぐらい？

浅生

僕自身も何日かは正確にわからないんですけど、
多分10日ぐらい。
意識不明というか、意識混濁というか‥‥
僕の中では世界が歪んだ状態で認識されてるっていう、
そういう日々を過ごしました。
　
事故にあった当日、僕は病院で手術を受けて、
やっぱり当日の夜がヤマで。
そこ越えれば生きられるけど、
そこで大概は死ぬっていう。
もちろんそれは言われてないんですけど。
　
僕はその時、なにか
「ここで死んだら妻にものすごく怒られる」
って思っていて。
‥‥すっごく怒られると思ったんですよ。
で、妻はちょうど海外出張してて、連絡が取れない。
僕が連絡とるすべもないので、
どうにか妻に会って謝ってから死のうと思ったんです。
もう死ぬのはわかってたんで、一言ごめんって言って、
申し訳ないって言ってから死ねば、
そんなに怒られずにすむだろうと思って。
そしたら妻に連絡取るのに１日かかり、
妻は海外にいたので、戻ってくるのに、
もう２日ぐらいかかっちゃったんです。
だから僕はその間に峠を越しちゃった、っていう。

糸井

妻に謝らなきゃならないから？

浅生

そう。
もうとにかく謝るまでは死ねないと思って。

糸井

それはちょっとした意識があるんだ。

浅生

そうです。
とにかく謝るまでは死ねない死ねないと思ったら、
２日か３日もっちゃって。
で、妻が来て「ごめん」って謝って、
意識がなくなったんですよ。

糸井

え、そこから意識がなくなった？

浅生

そこから意識がなくなった。
そこまで何とか意識あったんです。
もう怒られたくない一心です。

糸井

(笑)

浅生

僕はそれから１年ぐらい入院していて、
あとはずっと車椅子生活をしていました。
　
僕は最初に、
「一生歩けない」って言われてたんですけど
ずっとリハビリを頑張って、
少しずつ歩けるようになって。
‥‥もう歩けないといわれたけど、
僕は今こんな感じで歩けるようになって。

糸井

オープンカーでぶっ飛ばしてるからね、今じゃ。

浅生

はい(笑)。
それで、僕がなんでリハビリを頑張ったかっていうと、
お金がもらえないからだったんです。
相手が無保険の車だったので、
僕に対しての保険金、
ビタ一文出ない状態なんですよ。
だから僕は、とにかく早く社会復帰して
働かなきゃいけないと思って、
一生懸命リハビリしたんです。
　
でも、僕と同じときに
同じような事故で入院した人がいて、
年も同じぐらいで。
その人は事故の相手が、
結構大きな会社の社長さんかなんかで、
わりと初期の段階から弁護士とかが来て、
同じ病室で、
「３億は堅いですよ」みたいな話をしてるわけです。
　
ところが、その同じ病室だった人は、
治れば治るほど慰謝料が減るんで‥‥
要するに後遺症が重ければ重いほど、
金額が高くなるじゃないですか。
だから、あんまりリハビリを頑張らなかったんですよ。
　
で、そうなると結果どうなったかっていうと、
僕は今こんな感じで歩けるんですけれど、
その人は多分今もまだちゃんと歩けない状態で。

糸井

その話すごくいいっていうと変だけど‥‥。

浅生

イソップ童話みたいですよね。
でも、彼の気持ちもすごくよくわかるんですよ。
僕もそっち側だったら、
１秒でもリハビリ遅らせてただろうな、
と思うんですよね。
長引かせたほうが得っていう‥‥

糸井

それはそうだ。
そっちはそうだよね。

浅生

でもまぁ、ほんとに僕はこの事件で、
「死ぬ」ということが、どういうことかを‥‥
ちょっとだけ理解したんですよ、
もちろんほんとに死んでるわけじゃないんですけど。

糸井

でも、心臓は止まってたんですよね。

浅生

一瞬ですけどね。
だから、僕は「死ぬ」を一瞬だけ体験した。
それがほんとかどうか、わからないにしても、
死ぬってこういうことかとわかってから、
死ぬのが怖くはなくなったんです。
よく、「死ぬのが怖くないから、俺は何でもできる！」
みたいな人がいるけど、それも嘘だと思うんです。
別に僕、「死ぬ」はそんなに怖くないんですけど、
だからといって死ぬの嫌ですから。
怖いのと嫌なのは別じゃないですか。

糸井

より死ぬのが嫌になるでしょうね、きっと。
どうですかね、そのへんは。

浅生

より嫌になる‥‥、
うーん、なんか、死ってすごく寂しくて。

糸井

それは、若くして年寄りの心をわかったね。
ぼくは年を取るごとに、死ぬ怖さが失われてきてる。
例えば、映画の中みたいに、
自分が「お父さん！」とか呼ばれながら死ぬシーンを
今からもう想像してるわけ。
そのときに、何か一言、
「これを言おう」っていうのがあって
それ、しょっちゅう更新してるんだけど、
結構長いこと、これがいいなと思ってたのは、
「あー、おもしろかった」っていう。
これが理想だなと思ったの。
で、嘘でもいいからそう言って死のうと思ってた。
　
でもこの頃は違うの。
さぁ命尽きるっていう最期に言う言葉は、
「人間は死ぬ」って言うと思う（笑）。
　
人間は死ぬもんだっていう、
当たり前の言葉を、一応みなさまへの、
最期の言葉にかえさせていただきたいと思います(笑)。

浅生

真理ですね(笑)。
人間は死にますから(笑)。

糸井

そう(笑)。
で、同時に「死ぬ」がリアルになったときに、
「生きる」のことを考える機会が多くなりますよね。
それはどうです？

浅生

そうですね。
何か世の中に遺したいとか、そういう気は毛頭なくて。
ただ、死ぬということが、
すごく寂しいことだと体験したので、
だから生きてる間は、
「楽しくしよう」みたいな考えでいます。
　
僕は知らない人とワーッてやるのは苦手なので、
別に、パーティー行ったりとかする気は全然ないし、
むしろ避けて引きこもりがちな暮らしなんですけど、
それでも極力楽しく人と接しようかなっていう。
だいたい日頃、ニコニコするのは上手じゃないので、
ニヤニヤして生きていこうみたいな感じです。

糸井

そのまとめ方って、なんか展開がなくていいね。
ニヤニヤで全部まとめちゃうもんね。

浅生

そうですね。
ニヤニヤして生きていきたい。

糸井

ほら、カブリオレ(※オープンカー)とか
買うじゃないですか。
ああいうのもニヤニヤですよね。

浅生

ニヤニヤです。
自分自身が楽しむだけじゃなくて、
「派手な車だ」とかあれを見た人の反応も
想像して楽しめるというか。

糸井

「寒いんじゃない」とか。

浅生

そう、人が車を見て、いろんなことを言うじゃないですか。
そこがおかしいというか。
　
だってカブリオレは屋根がないだけです。
壊れた車だって屋根はない。
カブリオレも壊れて屋根がない車も、どちらも同じで、
でも、壊れた車で屋根がないときは、
みんなもっと緊迫感あること言うんですけど、
最初から屋根のない車だと、
もっといいことを言ってくれるっていうか。
不思議ですよね、同じ屋根がないだけなのに。

糸井

みんなもそうだけど、自分も変な気がしますよね。
走ってる感が強くなりますよね。

浅生

自転車とかオートバイに近いというか、
機械に乗ってる感じがすごくするので、
不思議ですよね。

糸井

ぼく、この間カブリオレに乗せてもらったんです。
味の素スタジアムから東京まで。
同じ速度でも屋根がないだけで速く感じて、
100キロ近く出ると、もうちょっと怖いぐらいですよね。
バイクにちょっとやっぱり似てて、
車より緊張感がちょっとある分だけ、
ニヤニヤしがちですよね。
緊張感があるときって、ニヤニヤしますよね。

浅生

先生に怒られてるときとか、必ずニヤニヤしますよね。

糸井

それで、怒られちゃいますよね(笑)。

　
(第３回へ続く！)