- 糸井
- インタビューアーになったこともあるでしょ?
- 浅生
- あります。ぼくインタビュー得意です。すごく得意です。
- 糸井
- 得意? それ、ちょっと思うんだけど、
インタビューされてる相手が「何とかしなきゃ」って
思っちゃうんだろうね。
- 浅生
- ぼく、質問して相手が話し始めたら
わりと黙ってじーっと聞いてるんですよ。
特にテレビのインタビューだと
カメラ回ってるじゃないですか。
インタビューする人って
「あれも聞かなきゃ」「これも聞かなきゃ」って
焦っていろいろ聞くんですけど、
ぼくは黙ってカメラ回ったまんま。
じーっと黙ってると、相手が沈黙に耐えられなくなって
いろいろ言い始めるんですよね。
それでうっかりなことしゃべっちゃったりするので
結構なネタ拾えたりとかするんです。
- 糸井
- ちょっとわかります。
聞く側としては辛いけど、聞かれる側でも辛いもん。
- 浅生
- すいません。ぼく、孤独に耐えられるので。
沈黙とか孤独が全然怖くないので。
- 糸井
- 相手が怖がってるっていうのについて
多少思いやりとか無いもんなのかね。
相手は孤独とか沈黙、嫌だよ。
- 浅生
- 嫌だと思いますけど、でもまぁぼくじゃないので。
- 糸井
- (笑)
- 浅生
- 嫌なら自分で何とかしてほしいな、と…。
- 糸井
- 「自分で何とかしなさい」。
浅生さんは、お母さんと(阪神淡路大)震災のときに
お互いに連絡とらないことを決めたんだよね。
- 浅生
- そうです。
- 糸井
- 連絡とろうとして
いろんなことがややこしくなるから。
- 浅生
- 生きてればそのうち連絡とれるし、
ま、慌てないこと。それがわかりやすい。
多分、母もすごい合理的なんだと思うんですよね。
母も他人に興味がないんです。
- 糸井
- 「他人」っていうの考えたことないの?
- 浅生
- うん、多分。
自分がどう思ってるかだけで、いっぱいいっぱいというか。
もちろん、相手の気持ちとか、
僕、優しい人間なので
「この人はこういうふうに感じてるだろうな」
とかっていうのは
わりとわかるほうではあるんですけど。
だからといって、そこを何とかしてあげたい
とまでは思わないんですよね。
- 糸井
- でも、女川の手伝いとか、
そういうのはするじゃないですか。
- 浅生
- そう。
でもそれは、ぼくが楽しいからやってるんであって
嫌なら行かないですから。
- 糸井
- 神戸のときは行きましたよね?
- 浅生
- 揺れたときはいなかったんですよ。
- 糸井
- あ、そうですか。
- 浅生
- 当時、座間のほうのある工場みたいなところで働いてて。
揺れた瞬間は神戸にいなくて
ただもう燃えてる街をテレビで観てて。
そこの社員食堂のテレビを見てたらワーッと燃えてて、
死者が2千人、3千人になるたびに
周りが盛り上がるんですよ。
「おぉーっ」とか、
言ってみればもう「やったー」みたいな感じで。
ちょっとゲーム観てるみたいに盛り上がってるのが
ちょっと耐えられなくて。
それですぐに神戸に戻って
そこから水運んだり、避難所の手伝いしたりっていうのを
しばらくずっとやって。
- 糸井
- もし、あれが実家のある神戸じゃなかったら
また違ってたかしらね。
- 浅生
- 全然違うと思います。
多分、ぼく行ってないと思います。
もしかしたら「2千人超えたー」って言う側に
いたかもしれない。
そこだけは、ぼくが常に「やったー」って
言う側にいないとは言い切れないんで、
むしろ言っただろうな、という。
- 糸井
- それは、すごく重要なポイントですね。
自分が批難してる側にいないっていう自信の
ある人ではないっていうのは、大事ですよね。
- 浅生
- ぼくいつも、自分が悪い人間だっていうおそれがあって。
人は誰でもいいとこと悪いところがあるんですけど、
自分の中の悪い部分がフッと頭をもたげることに対する
すごい恐怖心もあるんですよ。
だけど、それは無くせないので、
だから「ぼくはあっち側にいるかもしれない」って
いうのは、わりといつも意識はしてますね。
- 糸井
- そのとき、その場によって
どっちの自分が出るかっていうのは
そんなに簡単にわかるもんじゃないですよね。
- 浅生
- わからないです。
- 糸井
- 「どっちでありたいか」っていうのを
普段から思ってるっていうことまでが、ギリギリですよね。
- 浅生
- だから、よくマッチョな人が
「何かあったら身体を張ってお前たちを守るぜ」
って言うけど、いざその場になったら
その人が最初に逃げることだって十分考えられるし。
多分それが人間なので、そう考えるといつも不安…、
「もしかしたらぼくはみんなを捨てて逃げるかもしれない」
って不安も持って生きてるほうが
いざというときに踏みとどまれるような気はするんですよ。
- 糸井
- 選べる余裕みたいなものを作れるかどうか、
どっちでありたいかっていう。
それは「このときも大丈夫だったから、こっちを選べたな」
っていうことは足し算ができるような気がするんだけど
一色には染まらないですよね。
- 浅生
- 染まらないです。
(つづきます)