おもいでぐらむ。
- ——
- 「SNSってさ、『今日はこういうことしましたよ~』
っていう消息を、不特定多数のひとに
送ることだと思っていいと思うよ。
ただ枚数が決まっていないから、無限に届いちゃうだけで」
- 父
- 「お父さんは、よくわかりません!」(叫び声)
※酔っています。
- ——
- 「あとは、自慢とか。消息に色をつけてね、
『今日オレはこんなにいい一日を過ごしたんだぜ!』
っていう自慢をするの。
すると、すくなくともインターネットの上では
みんなが羨ましがるいい感じの生活をアピールできて
快感があったり……」
- 父
- 「そんなん、むなしいだけだろ」
- ——
- 「まあ、飲んで飲んで。
本当にそういう使い方がされているの」
- 父
- 「ふーん。
……じゃあ、はじめましょう!はじめましょう!」
- ——
- 「なにそれノリノリじゃん。
ずいぶん酔いやすくなったんだね」
- 父
- 「お母さんが帰ってこないうちにね……」
- ——
- 「たしかにお母さん、遅い。どこに行ってるの?」
- 父
- 「仕事」
- ——
- 「へえ」
- 父
- 「この間までは平和島の工場にパートに行ってたんだけど、
毎年この時期は、『イトイさんの手帳』をつくる
工場のほうだなあ」
- ——
- 「……えっ? お母さん、ほぼ日手帳をつくってるの?」
- 父
- 「知ってるの?」
- ——
- 「知ってるよ! だからこの取材は、ほぼ日の取材だって、
あれほど昼間から説明して……」
- 父
- 「ああ、架空請求ね」
- ——
- 「だから違うって……」
- 父
- 「お母さんが帰ってこないうちにはじめるぞ」
- ——
- 「はいはい」
- 父
- 「はやくやるぞ!」
- ——
- 「わかったよ。だからなんでそんなにノリノリなの。
……じゃあ、これから30歳のお父さんに
『おもいでぐらむ』に日常を投稿してもらい、
SNSの楽しさをいっしょに体感したいと思います。
……意識は30歳に、戻りましたか?」
- 父
- 「はい」
- ——
- 「写真はたぶん再現できないから、
テキストだけになるけれど……わたしがPCに打つから、
投稿したい内容を話してください」
- 父
- 「なにを?」
- ——
- 「当時の会社の人や、友達や、お母さんに、
いまさらだけど伝えておきたいこととか。
むしろいまだからこそ、言えることとか。
何か、ないかな?」
- 父
- 「そんなのないよ」
- ——
- 「お願いします。そこをなんとか」
- 父
- 「うーん。そうなの?」
- ——
- 「うん。ちょっと酔っ払い、めんどくさいな」
(つぎへつづきます)