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林さんが他のお店に行って、
インスピレーション受けた経験ってありますか?
- 林さん
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この前、妻と南青山のブルーノートに行ったんです。
僕が酔っぱらって
ちょっと大きな声を出してしまったんです。
その時、ソムリエさんに「静かにしてください」って
言われてしまって・・・・。
僕もお店でしょっちゅうお客さんに
「静かにしてください」って言うんですよ。
酔っぱらってすごく気分が良いのに怒られるのって、
すごく嫌な気持ちになるんだなってよく分かったんです。
最近は、お店側が迷惑だなって思っても、
インターネットの口コミとかですぐに広がってしまうので、
うるさいことを言えなくなってしまったんです。
でも、他のお客さんのことを考えたら
やっぱり注意するべきだし、
それは間違ってないよなって思いましたね。
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bar bossaには1ヶ月間で約500人、
年間にすると6000人ほど
お客さんが来店されるそうですね。
バーのマスターという仕事がら、
いろんな相談をされることも多いのではないでしょうか。
- 林さん
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そうですね。恋愛に悩んでいる人や
仕事や辞めたいと思っている人とか、
恋人や仕事の上司とか、
存在が近すぎる人には言えないことも、
バーのマスターだったら相談しやすいっていうのも
あるのかもしれないですね。
あと、よく思うのは
“未来から今の自分を想像してみること”が
すごく好きなんです。
それで、あの時はすごく大変だったけど
楽しかったなって思うようにすると、
すごく気持ちが楽になります。
女の子が失恋で落ち込んでいたとしても、
おばあちゃんになった時にあの頃は失恋して、
すごく泣いたけど、いい恋をしたな・・・・って
きっと思うようになりますよ。
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その時は大変だとしても、あとで振り返ってみると
「全然たいしたことなかったな」って、
思うことも多いような気がします。
- 林さん
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未来から今の自分のことを
客観的に見てみることって大切ですよね。
こういう風に考えるようになったのは
ドラえもんの影響なんですけどね(笑)。
以前、自分の遺言を残すなら何かなって
妻と話をしていたことがあって。
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- 自分が残したい「遺言」ですか。
- 林さん
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妻のお父さんが日本酒をお燗でしか飲まないんです。
「お酒はお燗にして飲め」って
遺言を義父のお父さんに言われたそうで、
義父は、日本酒を温めて来る人来る人に
これは遺言でねって嬉しそうに話すんです。
その話を聞くのがすごく好きで、
自分も娘にどんな遺言を残そうか考えるようになりました。
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林さんが娘さんに残したい遺言って
もう決まっているんですか?
- 林さん
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「レストランではピノ・ノワールを頼め」って遺言を。
ピノ・ノワールが昔から好きで、
レストランで注文するときだけは、
妻も合わせてくれるんです。
ピノ・ノワールって造り手によって、
味のスタイルや価格も変わるので、
その日の食事に合わせて頼むことって、
いろいろ考えないといけないのですごく難しいんですよ。
いつか娘がワインの頼み方を覚えて、
おいしいピノ・ノワールを頼めるようになってくれたら
いいなって思っています。
「娘はきっとそこで、レストランでのワインの頼み方、コースの組み立て方、
自分の味やお財布状況の伝え方を学べるはずなんです。
そして、そこで得られる料理、食材、味覚、価格といったさまざまな知識は、
彼女の食生活への態度を充実したものにしてくれるでしょう。」
—林伸次『バーのマスターはなぜネクタイをしているのか -僕が渋谷でワインバーを続けられた理由』(DU BOOKS)
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林さんの著書のなかにも書いてあるんですね。
娘さんはこの遺言の話を聞いたらきっと嬉しいですよね。
- 林さん
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本を読んでいないので、
きっと娘はまだこの話を知らないと思います。
でも、いつか読んでもらえたら・・・・って
期待も込めて書いたんですけどね(笑)。
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素敵ですね!
わたしも父がこんな遺言を考えてくれていたら
すごく嬉しいなって思いますね。
あ、そろそろ開店の時間ですね・・・・。
最後に、林さんが20年間お店を続けてきた秘訣を
教えてください。
- 林さん
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ここ数年で“東東京”って新しくできたお店が
すごく話題になっていますよね。
少し前だと、
蔵前の「ダンデライオンチョコレート」や
「ブルーボトルコーヒー」の1号店が清澄白河にできて。
「富士屋本店」っていう三軒茶屋のワインバーも
一旦閉店して、日本橋でまた始めたりして。
渋谷も“奥渋谷”なんて騒がれるようになって、
若者がやっているお洒落なお店が増えてきました。
街もどんどん変わってきていて、
新しいものを追いかけるよりも、
お店としては老舗になるしかないなって思っていますね。
- 林さん
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つい最近、『Hanako FOR MEN(マガジンハウス)』の
渋谷特集で、bar bossaの紹介をしてもらったんです。
他のページも読んでいて気付いたんですけど、
ネクタイをしているのって
僕と五島慶太さんの2人だけしかいなくて。
最近は、カジュアルな格好のお店も多いので
ネクタイって少ないですよね。
いつの間にか自分が古い側にまわっちゃったなって、
結構ショックだったんです(笑)。
バーテンダー修行をしていたときって、
帽子をかぶったままお店に入るだけで、
脱ぎなさいって注意されることもあったし、
すごく変わったなって。
ぼくのスタイルは、
ベストに白っぽいシャツにネクタイなんですが、
ネクタイでカウンターに立つっていうのも
悪くはないかなって思っているところなんです。
* * *
インタビュー当日、開店前のお店の扉を開けると
ベストに白シャツ、ネクタイをしている
林さんが笑顔で出迎えてくれました。
この日のインタビューを終えたのは、夕方の6時頃。
もうすぐ開店する時間ということで、
まだ、お客さんが誰もいないbar bossaは
とても静かでした。
インタビューの前半で林さんが好きだとおっしゃっていた
小説の一節があります。
「夕方、開店したばかりのバーが好きだ。
店の中の空気もまだ涼しくきれいで、すべてが輝いている。
バーテンダーは鏡の前に立ち、最後の見繕いをしている。
ネクタイが曲がっていないか、髪に乱れがないか。
バーの背に並んでいる清潔な酒瓶や、まぶしく光るグラスや、
そこにある心づもりのようなものが僕は好きだ。」
——レイモンド・チャンドラー「ロング・グッドバイ」(ハヤカワ・ミステリ文庫)
林さんが、今回監修を務めたコンピレーション
『Happiness Played In The Bar
-バーで聴く幸せ-compiled by bar bossa』の収録曲は、
お店が開店したばかりの静かな雰囲気をイメージした1曲目から
少しずつお客さんが来てザワザワしはじめて
閉店の時間が来て静かに終わるお店をイメージして、
選曲されたそうです。
最後に、これから夜が始まるような緊張感ある
「開店直後のバーが好きだ」という林さんが
CDの1曲目に選んだ、こちらの曲をご紹介します。
林さんの解説と一緒にお楽しみください。
Blossom Dearie /It Might As Well Be Spring
1924年生まれのジャズ・ピアニスト/ヴォーカリストの
ブロッサム・ディアリーは28歳の時にフランスに渡り、活動をしますが、
ノーマン・グランツというアメリカのジャズの名プロデューサーに惚れられ、
32歳でアメリカに帰国し、ヴァーヴにアルバムを残します。
この曲がその第一弾からの名演です。
——林伸次(bar bossa店主)
『Happiness Played In The Bar -バーで聴く幸せ- compiled by bar bossa』
発売元:ユニバーサルミュージック合同会社
発売日:2016年11月16日発売価格:2,160円(税込)