- 私
-
兵藤先生の授業は毎回抽選になるくらい大人気の授業ですよね。実際私も今期受講したかったのですが抽選に外れちゃいましたし(笑)
自分のもやもやだったり悩みを話すという一番怖いところを人にさらすという授業にも関わらず、これだけ人気があるのには兵藤先生の学生との向き合い方に秘密があるんだと思っていて。
- 兵藤
- いやいや、とんでもない(笑)。
- 私
- 実際どのように学生の言語化をサポートされているんですか?
- 兵藤
- ひとつはグループワークにするってこと。隣の子もこの辛い作業に向き合っているんだっていう「共に戦う感」は大切にしてるよ。あなた1人じゃなくて、15人みんな怖いんだよっていう空気を作ること。1人じゃ怖すぎるよね。でも皆と一緒なら出来るって私も信じてるし、実際皆頑張ってくれるよ。
- 私
- 学生に支援されているって思ってもらう為にやっていることはありますか?
- 兵藤
-
そこはもう体系化されてるんだけど、必ず学生から発言が出たら最初は支援的なコメントをする。
「よくやったね」とか「そこに気が付いたんだ」とか。最初の一言は絶対に支援的。その次に、「でも、こういう見方もあるんじゃない?」みたいに提案をする。この順番が大事なのよ。確かにアメリカ式のディベートみたいに勝ち負けのある会話もあるけど、私達が目指してるのはそれじゃないから、もし相手が違う意見でも違う意見を持った他者として相手の意見を認める。どうしたら支援されていると思えるかっていうのは、そういう細かい積み重ねだろうね。
- 私
- なるほど。
- 兵藤
- あとは、価値判断、道徳判断をしないっていうのもルール化してる。これは、良い悪いで評価しないってこと。あとは、べき論もやらない。その人の経験について「こうすべきだったって」って言ったり、「今後こうすべきだ」とも言わない。
- 私
- 問いかけで大切にされてることはありますか?
- 兵藤
-
「どんな気持ちだった?」はもう100万回位言ってる(笑)。
だって最初は感情って言葉を持ってないからね。感情だけ込み上げてきて、涙が出てきて「えーん」ってなってる人に「嬉しかったの?悲しかったの?苦しかったの?」って小学生みたいだけど、ペアになって感情に言葉をはめてく。
- 私
- 感情って言葉にならない時が1番辛いですもんね。
- 兵藤
-
でしょ。だから、感情を解きほぐす。それで、自分でも知らなかった感情がそこに隠れていたことを知ってハッとする。
あとね、やってから分かったんだけど、感情を言語化するのは男子の方が苦手な子が多いね。意外と自分の気持ちを他人に話すって経験をしたことのない男子は多い。
「出来てよかったね」みたいに、結果に対する評価ばっかり受けてきてるのよ。
「滑り台から落ちてどうだったの?」って聞かれて「周りは出来てるのに僕だけ出来なかったから悔しかった」みたいな、悔しいとか嬉しいって感情を肯定されたことのある子って少ないのよ。
- 私
- そうなんですね。
- 兵藤
- 行動した時にどう心が動いたかってところがその人の個性なのに、そこを肯定されてない。今はまだ良いかもしれないけど、他者だらけの社会に出たら、自分を表現する力と他者を想像する力がなかったら、分かってもらえないし分かってあげられない。その先にあるのは孤独感だよね。
- 私
- たしかに。
- 兵藤
- またキャラ問題に戻るけど、本当の私を分かってくれないっていうのは、本当の私を表現できてないからなんだよね。そのキャラを押し付ける他者にも責任はあるかもしれないけど、言葉にしなきゃ分からないからね。両方に責任があるんじゃないかなぁと思う。
- 私
- 最後に若者と大人が仲良く生きていく為にはどうすれば良いと思いますか?
- 兵藤
- 私、大人と若者が仲良く生きていくっていうことには、やや疑問を持っていて。というのも、私は若者には反発する力をつけてほしいなって思ってるから。結果として、ぶつかった方がお互いを理解できると思ってる。
- 私
- では学生は大人に反発する力をつけろと思いますか?
- 兵藤
- つけろってなると上から目線だけど、そこが大人がやるべきことなんじゃないかな。彼らがその力をつける支援が足りないんだと思う。
- 私
- 具体的に支援とは何ですか?
- 兵藤
-
あなた達が持っている力を引き出すとか、それを表現できる力を付けさせるとか。
それを付けさえすれば私たちが理解するっていうのはちょっと力の不平等がありすぎ。私は若者はそんな弱い人間だと思っていないので、理解してあげたいなんて一切思ったことはない。理解する努力は勿論するけど、大人が理解してあげようっていうのはありえないと思っている。
「お前らになにがわかる。こっちにはこっちの価値観と生き方があるんだ」って本音を言い合う関係の中に、お互いを理解するヒントがあると思う。
君たちに力があるっていうことを信じて、君たちが反発するっていうことをひたすら待つ。若者が反発して来ないなら、その環境を大人が整えてあげれば良いじゃん。反発できないのは、大人側の問題で君たちの問題じゃない。
- 私
- 反発する力ってどうやってつけさせるんですか?
- 兵藤
-
例えば、自分と違う意見を若者が言ってもそれをつぶさない。
自分とは違う価値観を言ってきたときに、潰さない。それは大人側の問題だよ。別に理解なんてする気はないけど潰さない。理解なんてしなくていいよ、ただ潰さない。
- 私
- 若者の話を興味をもって聞き・・・
- 兵藤
-
興味なんて持たなくてよくない?つまんないならつまんないって素直にいえる関係のほうが対等だし、それが理解ってことなんじゃないの?「今はこっちのほうがおもしろいんですよ」とか言われるのイラっとするけど嬉しい。
大人にこういうことを理解してもらいたいっていうのは相手に頼ってるじゃん。誰かに理解されなくても、自分はこれを信じるっていう強さを若者には持ってほしい。
自分がどう思っているかを表現さえできれ良い。その力を信じるっていうのが、大人の仕事だと思う。
- 私
- なるほどなぁ。大人に反抗する位、個の強い若者を育てたい、というところに兵藤先生の優しさを感じます。今日はありがとうございました。私も強く生きようと思います!
- 兵藤
-
そうだよ、若者には頑張ってもらわなきゃ。
こんなアホみたいな社会を作ってる大人を信頼なんてしちゃだめだよ(笑)。
〈つづきます〉