- ――
- 今日はよろしくお願いします。
- 校正さん
- はい。
私の話なんか、ぜんぜんおもしろくないと思いますけど。
いいんですか。
- ――
- いえいえ、そんなことないです。
最近では「校閲ガール」というドラマも
話題になっているくらいですから。
- 校正さん
- 私も見てますよ。
- ――
- あ、やっぱり気になりますか。
仕事のシーンは、わりと、事実に近い?
- 校正さん
- うん、結構よく取材してあると思いますよ。
- ――
- ではまず、お仕事についてお聞きします。
- 校正さん
- はい。
- ――
- 出版物の文字や言葉を直すお仕事には、
「校正」と呼ばれたり、「校閲」と呼ばれたり
するものがありますが、
そもそも「校正」と「校閲」はどう違うのでしょうか?
- 校正さん
- うーん、どうでしょう。
実はあまり
「校正」と「校閲」の区別ってはっきりないんですよ。
- ――
- えっ、そうなんですか。
- 校正さん
- ええ。
どちらも、まず一義としては、文字の間違いを直すこと。
言葉が正しく使われているか、確認すること。
あとは事実関係の確認。
このうち、文字の間違いや元の原稿と印刷された文字が
合っているかどうか確認するのを「校正」、
それに加えて、事実関係の確認まで深く調べるところまで
やることを「校閲」、
そんな風に言われることもあります。
―― 「校閲」のほうが、ちょっと仕事が深い?
- 校正さん
- うーん……、ただ、文字使いや言葉の使い方だって
そこには絶対「調べる」という行為が付いてくるわけだから、
全く何も調べずにこの仕事をするってないはずなんですよ。
だから、あまりその区別の仕方って
どうかなあっ、て私自身は思ってるんです。
- ――
- ただ、「校閲」のほうがちょっと偉そうな感じがあります。
- 校正さん
- そうですよね。昔、名刺を作るときに
「校正」より「校閲」って書いたほうが仕事が来るよ、
と言われたこともあります。
私は、自分のことをそんなに偉そうに思えないから
「校正」って言ってる、というのはあります。
- ――
- なるほど……。ずいぶん謙虚ですね。
- 校正さん
- いえいえ。
- ――
- では、今回は、本当は「校閲」と呼んでもいいお仕事の
内容かもしれないけれど、
あえて「校正」という呼び方で進めさせていただきますね。
- 校正さん
- はい。そうしてください。
- ――
- 校正について、簡単にお聞きします。
校正は、出版物の校正用の試し刷りである「ゲラ」を読んで、
間違いや疑問を指摘していきますよね。
- 校正さん
- そうです。
完全な文字の誤りや言葉遣いの誤りなどは
赤いペンでしっかり修正指示をゲラに書き込みます。
完全な誤りと言えなかったり、校正中に
文章や書いてある内容について、疑問に思ったり、
調べてみた結果、再度確認したほうがいいのではないか、
と思ったところは、
エンピツでそれを余白などに書き込みます。
- ――
- 実際、校正さんはものすごい調べてくれますよね。
私のゲラは、校正さんから戻ってくると、
文章や内容の問題を指摘してくれるエンピツ書きで
余白は真っ黒でした。
調べるのは、どのレベルまでやるものなんですか?
- 校正さん
- そうですね……、
例えば、住まいについて書かれた記事を校正するときは
書かれている家の間取り図を実際に書くし……。
- ――
- えっ!「校閲ガール」でそういうシーンがありましたが
本当にそこまでするんですか?
- 校正さん
- ええ、しますよ。
主婦向け雑誌の記事の
「子どもと一緒にクリスマス」のような特集で
折り紙で何か作る内容があれば、
実際に記事どおりに折り紙で作ってみます。
「この山折りは……」とか。
もう、すっごく面倒くさいんですけど(笑)
- ――
- 本当にそこまでやっていたとは……。
- 校正さん
- 普通、やりますよ。
- ――
- 「校閲ガール」では、小説の中に書かれている
現地に足を運んで事実確認をしていましたが、
そんなことも?
- 校正さん
- いやいやいや……。あそこまでは私はしないですし、
あそこまでやってる人は、私の知る限りでは
聞いたことがないです(笑)
ただ、パリの街について書かれているものを校正するときは
パリの地図を買ってきてきちんと調べるし、
“江戸の捕物帳”とかだったら
「○○川の左を曲がると…」というところで、
昔、それがあったかどうかを確認するために
古地図を買ってきたりとか、そういうことはしますよ。
あと、家系図を実際に書いて確認しながら、とかも。
- ――
- へぇ!
- 校正さん
- 大変だったのは、経済本でやたら関数が出てきたとき。
もう関数なんてすっかり忘れてるのに
関数がある程度解けないと
書かれていることが合ってるか、確かめようがなくて……。
- ――
- 関数、勉強しなおしたんですか?
- 校正さん
- はい。仕方ないからしましたよ。
- ――
- そこまで……。
- 校正さん
- だってそうじゃないと校正できないですから。
もう、本当に大変でした。
あとは、体操の記事だったら、実際に体操してみたりも……。
- ――
- とにかく事実誤認がないように、確かめるんですね。
- 校正さん
- そうです。
書いてあることは正しいのかどうか、
とにかく確かめるんです。
(つづきます)