もくじ
第1回校正という仕事 2016-12-06-Tue
第2回校正の実務 2016-12-06-Tue
第3回校正のこだわり 2016-12-06-Tue
第4回校正のやりがい 2016-12-06-Tue

会社員です。毎日頑張って働いています。

「校正ガール」

「校正ガール」

担当・kumiko

私は出版社で仕事をしています。
そこで一人の校正さんに出会いました。

彼女はフリーランスの校正者。
校正歴は30年超。
月刊誌の校正を20年に渡って続け、
担当した単行本の校正は200冊にのぼるそうです。
その校正さんの校正後のゲラ(出版物を校正するための試し刷り)は、
誤りを修正する赤いペン入れはもちろん、
文章や内容に関する疑問や指摘のエンピツの文字で余白が真っ黒。
私は幾度となく、この校正さんの的確な指摘に助けてもらいました。

校正という仕事は、裏方の地味な仕事、
というイメージが一般的だと思います。

それでも、余白を真っ黒にするほどのその「指摘」の裏に
どんな労力や、どんな思いや、どんな熱意があるのか。
それを今回、聞きたいと思いました。

顔出しも、名前出しも、ちょっとNGですが、
地味にスゴい「校正さん」のお仕事話をお伝えします。

第1回 校正という仕事

――
今日はよろしくお願いします。
校正さん
はい。
私の話なんか、ぜんぜんおもしろくないと思いますけど。
いいんですか。
――
いえいえ、そんなことないです。
最近では「校閲ガール」というドラマも
話題になっているくらいですから。
校正さん
私も見てますよ。
――
あ、やっぱり気になりますか。
仕事のシーンは、わりと、事実に近い?
校正さん
うん、結構よく取材してあると思いますよ。
――
ではまず、お仕事についてお聞きします。
校正さん
はい。
――
出版物の文字や言葉を直すお仕事には、
「校正」と呼ばれたり、「校閲」と呼ばれたり
するものがありますが、
そもそも「校正」と「校閲」はどう違うのでしょうか?
校正さん
うーん、どうでしょう。
実はあまり
「校正」と「校閲」の区別ってはっきりないんですよ。
――
えっ、そうなんですか。
校正さん
ええ。
どちらも、まず一義としては、文字の間違いを直すこと。
言葉が正しく使われているか、確認すること。
あとは事実関係の確認。
このうち、文字の間違いや元の原稿と印刷された文字が
合っているかどうか確認するのを「校正」、
それに加えて、事実関係の確認まで深く調べるところまで
やることを「校閲」、
そんな風に言われることもあります。

――   「校閲」のほうが、ちょっと仕事が深い? 

校正さん
うーん……、ただ、文字使いや言葉の使い方だって
そこには絶対「調べる」という行為が付いてくるわけだから、
全く何も調べずにこの仕事をするってないはずなんですよ。
だから、あまりその区別の仕方って
どうかなあっ、て私自身は思ってるんです。
――
ただ、「校閲」のほうがちょっと偉そうな感じがあります。
校正さん
そうですよね。昔、名刺を作るときに
「校正」より「校閲」って書いたほうが仕事が来るよ、
と言われたこともあります。
私は、自分のことをそんなに偉そうに思えないから
「校正」って言ってる、というのはあります。
――
なるほど……。ずいぶん謙虚ですね。
校正さん
いえいえ。
――
では、今回は、本当は「校閲」と呼んでもいいお仕事の
内容かもしれないけれど、
あえて「校正」という呼び方で進めさせていただきますね。
校正さん
はい。そうしてください。
――
校正について、簡単にお聞きします。
校正は、出版物の校正用の試し刷りである「ゲラ」を読んで、
間違いや疑問を指摘していきますよね。
校正さん
そうです。
完全な文字の誤りや言葉遣いの誤りなどは
赤いペンでしっかり修正指示をゲラに書き込みます。
完全な誤りと言えなかったり、校正中に
文章や書いてある内容について、疑問に思ったり、
調べてみた結果、再度確認したほうがいいのではないか、
と思ったところは、
エンピツでそれを余白などに書き込みます。
――
実際、校正さんはものすごい調べてくれますよね。
私のゲラは、校正さんから戻ってくると、
文章や内容の問題を指摘してくれるエンピツ書きで
余白は真っ黒でした。
調べるのは、どのレベルまでやるものなんですか?
校正さん
そうですね……、
例えば、住まいについて書かれた記事を校正するときは
書かれている家の間取り図を実際に書くし……。
――
えっ!「校閲ガール」でそういうシーンがありましたが
本当にそこまでするんですか?
校正さん
ええ、しますよ。
主婦向け雑誌の記事の
「子どもと一緒にクリスマス」のような特集で
折り紙で何か作る内容があれば、
実際に記事どおりに折り紙で作ってみます。
「この山折りは……」とか。
もう、すっごく面倒くさいんですけど(笑)
――
本当にそこまでやっていたとは……。
校正さん
普通、やりますよ。
――
「校閲ガール」では、小説の中に書かれている
現地に足を運んで事実確認をしていましたが、
そんなことも?
校正さん
いやいやいや……。あそこまでは私はしないですし、
あそこまでやってる人は、私の知る限りでは
聞いたことがないです(笑)
 
ただ、パリの街について書かれているものを校正するときは
パリの地図を買ってきてきちんと調べるし、
“江戸の捕物帳”とかだったら
「○○川の左を曲がると…」というところで、
昔、それがあったかどうかを確認するために
古地図を買ってきたりとか、そういうことはしますよ。
あと、家系図を実際に書いて確認しながら、とかも。
――
へぇ!
校正さん
大変だったのは、経済本でやたら関数が出てきたとき。
もう関数なんてすっかり忘れてるのに
関数がある程度解けないと
書かれていることが合ってるか、確かめようがなくて……。
――
関数、勉強しなおしたんですか?
校正さん
はい。仕方ないからしましたよ。
――
そこまで……。
校正さん
だってそうじゃないと校正できないですから。
もう、本当に大変でした。
あとは、体操の記事だったら、実際に体操してみたりも……。
――
とにかく事実誤認がないように、確かめるんですね。
校正さん
そうです。
書いてあることは正しいのかどうか、
とにかく確かめるんです。

(つづきます)

第2回 校正の実務