- ――
- そもそも、なぜ校正者になろうと思ったんですか?
- 校正さん
- 本が好きだったんですよ。
- ――
- 本が好きなら、
編集するとか、文章を書くほうになろうとは
思わなかったんですか?
- 校正さん
- いや、自分にそんな才能ないって思ってましたから。
でも本の仕事がしたかったんです。
あとは、コツコツやることとか、
徹底的に調べることとか、そういうことも好きで。
でも、前に出て自分が何かを書くとか作るとか、
そういうタイプじゃないんです。
- ――
- “文字校正”は完全な間違いの指摘なので、
その部分はゲラに赤いペンでしっかり記入されて
それが印刷時には反映されますが、
内容に関する指摘出しは、
校正さんがエンピツでゲラに書かれて、
それが最終的に反映されるかどうかは
それを受け取った作家さんや編集者の判断に委ねられますよね。
- 校正さん
- はい。
- ――
- 一生懸命調べて、エンピツで指摘をたくさん書いてくれる。
- 校正さん
- はい。
- ――
- でも、作家さんや編集者によっては
それを反映させずに
ゴッソリ消しゴムで消してしまうこともあると思うんです。
「いやいや、これはこれで、元のままでいいんだ」って。
- 校正さん
- はいはい。
- ――
- そういう、自分が一生懸命やったことを
消されてしまうって、どういう気分なんですか?
- 校正さん
- うーん……。
それはそれでいいんです。
- ――
- ムダになってしまった、とかは思わない?
- 校正さん
- いや、それはやっぱりムダですよね(笑)
でも、いいんですよ。
ムダっていうか…。
- ――
- ……。
- 校正さん
- ……。これだけやって、反映されなくて、ムダだったな、
って思うことがあっても、
それを思い続けてることはないかな。
- ――
- 「あいつ、消しやがったな」とかは思わない?(笑)
- 校正さん
- 思わないですよ。
指摘出しをしたところで「私はこう思いました」っていう
ことは表明できてるので。
それまでに、自分で疑問に思ったこととか
突き詰めて考えることか、
わからないことを調べるとか、
自分でやるべきことはやってる、って思えるからかな。
でも、たまには思うこともありますよ、
「あーあ、あれだけ頑張ったのに、生かされなかった」って。
たまに、ね(笑)
- ――
- 作家や編集者を支える側の仕事ですよね。
- 校正さん
- そうそう。本当に、校正は縁の下の力持ち。
本当に、下のほうで支える仕事です。
- ――
- さきほどおっしゃったように、
ムダとなってしまう部分もあると感じられている。
校正のどんなところにやりがいを感じますか?
- 校正さん
- でも、見えない縁の下の仕事なんだけど、
そこがしっかりしてなければ
上に乗っているものは崩れてしまいますよね。
すごくいいテーマの内容だったり
ストーリーだったりしても、
1つ誤植があるだけで、読む人がそこに気が付くと
「あーあ」ってがっかりする。
1つの誤植で台無しになる。
そこで引っかかることで
本全体に対する印象が変わってしまう。
そういうことをなくす助けになる、
そういうことを支えてる、というのはやりがいです。
- ――
- 確かに、1つ誤植があるだけで
作品全体が台無しになる印象はあります。
- 校正さん
- なりますよね、台無しに。
- ――
- はい。
- 校正さん
- だから、作家さんや編集さんはフロント側にいる
かもしれないけど、それはそれで役割。
校正はフロントではないけれど
それも同じ1つの役割。
縁の下でも、フロントでも、
自分の好きな居場所にすることができれば
そこで楽しめるんだと思います。
- ――
- 好きだからできる。
- 校正さん
- そう、やっぱり好きなんです。
だから、真っ黒にした指摘出しのエンピツ書きを
ゴッソリ消されてしまっても
「まあ、いいや」って思えることが多いんです。
あとは、褒められると嬉しい。
「あそこ、よく拾ってくれたね。ありがとう」って
言われると、とても嬉しいです。
- ――
- 拘束される時間が長いお仕事でしょうし、
腹が立つ編集者などもたくさんいたと思います。
いままで、辞めたいと思ったことは?
- 校正さん
- うーん……、ないですね。
一度もないです。
- ――
- 30年間、一度も?
- 校正さん
- はい。ないです。
- ――
- やっぱり、本を読んでいたりしても
校正者目線で見てしまうものですか?
- 校正さん
- 本当はイヤなんだけどね……。
やっぱりどうしても、そうなってしまうんですよ。
誤植とか、すぐ見つけちゃう。
- ――
- 最近は何を見つけましたか?
- 校正さん
- えっと……。
そうそう、
「校閲ガール」で”表紙の誤植を見落とした”っていう
内容のお話があったでしょ?
あの表紙が最初に画面に映ったとき、
「あ、これ誤植だ」ってすぐ見つけちゃいました。
(おわります)