- ――
- 誤植の指摘は、正解がハッキリしていますが、
文章や内容に対する指摘は
校正する方によっても違うと思うんです。
- 校正さん
- ええ、そうですね。
- ――
- 校正さんの場合は
どんなものを「指摘出し」するんですか?
- 校正さん
- 基本的には「ひっかかり」の部分です。
たくさんいる読者の一人として、
この言い回しを読んだときに
ここはひっかかるな、という部分。
普通の言い方をしたほうが自然なのに
無理に擬人化しているとか、
「これってどうなの?」というところを
指摘出ししますね。
- ――
- 文章へのダメ出し、ということにもなりますね。
- 校正さん
- はい。
- ――
- そこは容赦しない、と。
- 校正さん
- そこは、やっぱり、ね。
作家さんの原稿にはそこまでしないですけど、
特に雑誌は先ほども言ったとおり
全体のトーンを重視するので。
だから、ライターさんにとっては
私は天敵だと思いますよ(笑)
だって、自分が一生懸命書いたものにね、
何だかんだって……。
- ――
- 一生懸命書いたもの、というのは
わかっていても、
言うべきものは言わないと、と。
- 校正さん
- だから、できるだけ
僭越にならないようにしよう、とは思っているんです。
- ――
- 僭越、ですか(笑)
- 校正さん
- そう、僭越にならないように。
校正しなきゃいけないのに
僭越になっちゃいけないって、
難しいんですけどね。
でも、実際にわかりにくかったり
読みにくい文章はあるので、
そこはね、僭越ながら。
- ――
- こだわるんですね。
- 校正さん
- はい。
そこはやっぱり、多くの人に
わかりやすく、間違いなく届けたいという気持ちです。
「これくらいは読者もわかってるだろう」っていうのを
前提で書いてくるライターさんの文章って
結構あるんですよ。
「これ、初めて読んだ人、絶対わからないよ」って
思うことも多いのは事実で……。
- ――
- 僭越ながら。
- 校正さん
- 指摘出しさせてもらいます。
- ――
- まあ、その前に
編集者がしっかり原稿見ておけ!ですよね。
ゲラの向こう側にいる編集者に対しても
いろいろ思うことはありますか?
- 校正さん
- あります、あります。
「もっとしっかり原稿見ておいてよ!」というのは。
あと、私はデザインとか
そういうところまで見ちゃうんですよ。
誌面の全体のバランスとか。
左右のスペースのアキ具合とか。
「これ、左に寄りすぎじゃん!」とか。
- ――
- そこも、やはり、品質を落とさないための、こだわりですか。
- 校正さん
- そうですね。こだわります。
- ――
- だから、指摘出しが多くなる。
- 校正さん
- 読んだ人にがっかりされるのが
イヤなんです。
編集者がそこにひっかからなかったら
そのままの状態で出版されてしまうでしょ。
だから、このまま出版されたら
読んだ人ががっかりする、と思うようなところ、
「ひっかかり」は、そのままにできない……。
- ――
- 文章も、言葉遣いも、デザインも、
完全な正解というのがないものに対して指摘する、
というのは、結構勇気がいるんじゃないかな
と思うんですが、どうですか?
- 校正さん
- ああ、それはそうですね。
特に、言葉って生きてますからね。
どんどん新しい言葉もできますから。
例えば「新しい」っていう言葉だって
昔は「あらたしい」だったのに、
音が言い易いように「あたらしい」に変わったわけで。
そうやって言葉って、多数決、みたいなことで
どんどん変化する。
- ――
- 多数決。
- 校正さん
- そうです。
「ら抜き言葉」も
以前は若者がよく使う間違いの言葉という
認識が一般的だったのに、
たくさんの人が使うようになってきたから
今では辞書に載るようにもなってきて。
そうやって、変わっていくのは仕方ないと思うんです。
- ――
- はい。
- 校正さん
- でも、全部が全部「そういうもんだよね」って
迎合するんじゃなくて、
「それでもこれだけは残しましょう」とか
「こういう正しいところは残していかないとダメだよね」
という、歯止めは必要だと思うから。
日本語の、そういう部分を守っていきたい
という気持ちがあるんです。
- ――
- だから、指摘できる。
- 校正さん
- そうですね。
ちょっとした、日本語への使命感です(笑)
(つづきます)