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臼澤さんは、
ジュエリーは人に何を与えてくれると考えていますか?
- 臼澤
-
いろんなものですよ。
夢もあるし、希望もあるし、明日への活力とか幸福感とか、
そういうのを総じて〝想い〟って言ってるんですけど。
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ジュエリーっていわば、贅沢品じゃないですか。
メシかジュエリーか、どちらか選べって言われたら‥‥
- 臼澤
- メシ、メシ。
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ですよね。
想いを身に付けるっていうのは、
指輪をしていて感覚的にわかるようになったんですけど、
必要性ということで考えると、
ジュエリーがなくても死ぬわけじゃないですよね。
だから、僕が指輪を探していた時に感じていた
必要性ってことを説くのが
すごく難しいなって思うんです。
- 臼澤
-
そう思いますよ。
だけど、どんなに貧乏しても、どんなにお金がなくても、
これだけは守りたいってものがあるじゃないですか。
例えば、おばあちゃんの形見だったり、
奥さんからのプレゼントだったり。
そういうものって、
何がなんても死守したいって思うじゃないですか。
それが想いだと思うんですよ。
自分がすごく大切な人からもらったものとか、
形見のものとか、お金に換算できないもの。
僕の仕事は、それをどれだけ残せるかだし、
それをどれだけ伝えていけるかだし、
どれだけわかってもらえるかだと思っています。
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絶対に守りたいジュエリーの最たるものって、
結婚指輪だと思うんです。
- 臼澤
-
そうですね。
一番わかりやすいのって結婚指輪ですよね。
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結婚指輪って、
何事もなければ、一生身に付けるものじゃないですか。
そういうものって、他にはないなって思うんですけど、
誰かが一生身に付けるであろうジュエリーを作るって、
どんな気持ちなんですか?
- 臼澤
-
それが夢であったり、希望であったり、
明日への活力であったり、
その人にとっての決意であったりするものだという
意識は常に持っています。
別に結婚指輪がなくたって生活できるんですよ。
だけど、金やプラチナじゃなくても、
銀でも真鍮でもいいから、
2人の約束の指輪って欲しいじゃないですか。
それって、つまり〝想い〟なんですよ。
そこをどれだけ汲めるかが、
職人の仕事の良し悪しなんだと思います。
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指輪って、身に付けている時間が長くなればなるほど、
思い入れも強くなっていくと思うんです。
当然、直してでも長く使いたいなって思うんですけど、
臼澤さんのお店って、
自分のところで作った指輪のメンテナンスを
ずっと無償でやってくれるじゃないですか。
- 臼澤
-
5号以上のサイズアップは、地金代だけもらってますけど、
それ以外はちゃんと正規の直し方で、
新品仕上げまでして、無償でやってます。
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つまり、メンテナンスって、
「直しながら長く使う」という文化に沿ったものであって、
臼澤さんの儲けにつながる行為じゃないわけですよね。
- 臼澤
- まぁ、口悪く言えば、めんどくせぇだけですよ(笑)。
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(笑)。
買い換えてくれた方がお金になるわけじゃないですか。
- 臼澤
-
買い換えてくれたり、
新しく作らせてもらうのが一番儲かりますね。
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そうであるにも関わらず、
「直しながら長く使う」という文化を根付かせることに
軸足を置いているということは、なんて言うか‥‥
戦ってる人だなと思いました。
だって、自分の儲けとは反対の方向の文化を
作ろうとしているわけですから。
- 臼澤
-
まぁね。
でも、それをやり続けていくと、
お客さんたちにとって、ジュエリーひとつが、
かけがえのないものになるんですよ。
そしたら、最終的には俺、食いっぱぐれないじゃんみたいな。
変な言い方だけどね。
そこまでいって、本物だと思うんですよ。
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今の話を聞いてて思うのは、
臼澤さんは、貴金属を売ってる人じゃないんですね。
- 臼澤
-
違います。
ただ資産価値のあるもの、儲かるものってことでやるなら、
僕なんか飽き性だから、やめちゃいますよ。こんな仕事。
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貴金属を売ってる人ではなく、
臼澤さんの言葉を借りるならば、
〝想い〟を形作っている人なんだなっていうのが、
たぶん僕が初めて臼澤さんと話した時に感じた
商売っ気のなさの正体なのかなという気がしました。
- 臼澤
-
なんか、カッコつけた言い方になっちゃうけど、
仕事に対して邪心とか色気がないんですよ。
みんなが思ってるよりも、もうちょっと純粋なんですよね。
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- そんな感じがします。
- 臼澤
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僕はそういう風にやってきて、
いろんな人といい付き合いができたし、
職人って、そうであるべきだとも思う。
こうやって仕事ができているのも、
お客さんが頼りにしてくれたり、理解してくれたり、
想いをかけてくれるからなんですよ。
そうなると、すべての仕事をさ、
親方に対しても、自分の家族に対しても、
うちのお客さんに対しても恥ずかしくない仕事に
しないといけないですよね。
それが、結果的には
僕が生きた証になるんじゃないですかね。
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いや、変な言い方ですけど、
臼澤さんが亡くなっても、
指輪を見るたびに思い出す気がします。きっと。
- 臼澤
-
ありがたいことに、そういう人がいっぱいいるんです。
職人だから、そうじゃないといけないなって思います。
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僕も年に一度くらいの頻度でお店に行って、
指輪のメンテナンスをしてもらってますけど、
磨いてもらうというよりも、
臼澤さんに会いに行くって感覚が強いんですよ。
家族の顔を見せに行くというか。
親戚のおじちゃんに会いに行くみたいな感覚なんですけど。
- 臼澤
-
磨くってのは、口実でいいんです。
だから、お金取らないでメンテナンスをしてるわけだし。
まぁ、そこは職人のやせ我慢になっちゃうんだけど(笑)。
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「職人のやせ我慢」って、
すごく本質を突いた言葉ですね(笑)。
- 臼澤
-
ビジネスを考えてる人からすれば、
「バカじゃねーの?」って思うんだろうけど、
僕は、自分が作ってるものに責任持ちたいし、
自分の技術に自信を持ってるんで、
オーダーの時は「納得いくまでやりましょう」って言うし、
メンテナンスでも「あなたの物なんだから、
言いたいことがあれば何でも言ってくれ」と伝えてます。
お客さんの希望に応える自信もあるから。
逆にお客さんが「いやぁ、いいっすよ」って
遠慮しちゃうこともあるんだけど、
そこは納得いくまで戦わせてくださいよ
って思いながら仕事してますね。
そういう工房がひとつくらいあってもいいでしょ。
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客の立場からすると、
その自信が伝わってくるから安心できます。
- 臼澤
-
うちが銀座に工房を出した時、
「坪単価が悪い」とか
「もっと売り場を広げた方が利益も出るのに」とか
って言われたんですけど、
僕がやりたいのは、そういうことじゃないんですよ。
ちゃんとジュエリーの文化と歴史を繋げることをしたいし、
それをキチッと伝えていきたいという考えなので。
- ━━
- そうですよね。
- 臼澤
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僕は職人だから、なるべく表に出たりとか、
顔出したりとかしないようにしてきたんですよ。
親方のいうとおり、控えめに思って。
だけど、今の業界を見てると、
表に出て言わなきゃいけないことがあると思うし、
伝えたいって思うようになって。
今の時代は「詠み人知らず」じゃダメなんだなって。
長谷川鐵太郎の名前が残ればいいと思ってたんですけど、
ネットがない時代の人だから、誰も知らないんです。
だから、自分が得た技術を伝えて、
生きた証にしないとダメなんですよね。
弟子に対しても、キツイこと言ったりしながら。
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- 師匠譲りの教育方針ですね(笑)。
- 臼澤
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だんだん似てきちゃったんだよなぁ。
親方のことを知ってる人から
「なんで、高い技術があるのに、
そんな簡単な修理とか受けちゃうの?」とかって言われて、
「だって、困ってんじゃん」って言ったら、
「臼澤くん、師匠とそっくりになってきたね」
って言われたりするんですよ。
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子どもは親に似てくるというのと、
同じなのかもしれないですね。
- 臼澤
- そうかも(笑)。
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まさか、大学の学費を稼ぐために
わけもわからず飛び込んだ工房が、人生を決定付けるとは。
- 臼澤
-
夢にも思ってなかったですよ。
もし、役人になってたら、
今頃は総理政務官くらいになってたかもしれないし(笑)。
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そうですね(笑)。
だけど、僕は職人さんとしての臼澤に会えてよかったです。
- 臼澤
- ありがとうございます。
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今回のお話も面白かったです。
お忙しい中、ありがとうございました。
- 臼澤
- いえいえ、こちらこそありがとうございました。
撮影:桑原健太
(おわります。最後までお読みいただき、ありがとうございました)