もくじ
第1回ヒロ君から、田中泰延へ。 2017-03-28-Tue
第2回読み手と、書き手と、コピーライター。 2017-03-28-Tue
第3回糸井さんの本業ってなんでしょう。 2017-03-28-Tue
第4回「ご近所の人気者」でありたい。 2017-03-28-Tue
第5回はじめて言葉にできた、もうひとつのこと。 2017-03-28-Tue

自転車と山歩きが好きなコピーライターです。40歳を前にフリーになりました!どうしましょう。

電通をやめた田中さん、</br>広告をやめた糸井さん。

電通をやめた田中さん、
広告をやめた糸井さん。

第4回 「ご近所の人気者」でありたい。

田中
僕も「青年」を名乗ってはいるものの、
会社を辞めた理由のひとつには、
人生がすごく速く思えてきたなというのがあって。
20代の頃と比べたら、
もう倍以上、日が暮れるのも早くなってるし。
 
これは80いくつで死んだ僕の祖母さんが言った
忘れられない一言なんですが、
「あぁ、こないだ18やと思ったのに、もう80や」って。
一同
(笑)
糸井
素晴らしい!(笑)
田中
その1行で、60何年間という時間をピョーンって。
そりゃあ速いわなぁっていう。

糸井
あいたたたた(笑)。
それ、泰延さんよりも、
僕の方がもうちょっと深くわかりますね。
田中
僕はまだ、実感がない(笑)。
糸井
でも、それですよ。
それは翻って「ご近所の人気者」の話なんですよね。
田中
うん、そうですね。
糸井
一番近いところで僕のことを
単なる「人体」として把握している人たちが、
「ええな」って言う。お互いに。
「今日も機嫌ようやっとるな」って。
やっぱりここに落ち着けたくなってしまう。
田中
はい、はい。
糸井
そのご近所のエリアが、
本当の地理的なご近所と、気持ちのご近所と、
両方あるのが今なんでしょうね。
田中
あぁー。
その「ご近所」っていうのは、
フィジカルなことがすごい大事だと思ってて。
糸井
大事ですねぇ。
田中
たとえば1週間前、
大阪に来た糸井さんの楽屋を5分だけでも訪ねて行く。
それだけでも、今日が全然違うんですよね。
ちょっと顔を見に行くとか、ちょっと会い行く。
糸井
あの時も手土産をどうもありがとう(笑)。
田中
はい(笑)。
糸井
「アマチュアであること」と「ご近所感」って、
結構、隣り合わせなんですよ。
田中
うんうんうん。
糸井
アマチュアであるっていうのは、
変形してないってことなんですね。
プロであるってことは、変形してる。
田中
変形?
糸井
これは吉本(隆明)さんの受け売りで、
吉本さんはマルクスの受け売りなんですけど、
「自然に人間は働きかける。
で、働きかけた分だけ自然は変わる」。
田中
はい。
糸井
それは、作用と反作用の話で、
何かをして相手が変わった分だけ、
自分が変わっているんだよと。
 
わかりやすいことで言うと、
ずっと座り仕事をして、ろくろを回してる職人さんは、
散々茶碗をつくってきた分だけ、
座りダコができたり、腰が曲がったり、
何かをしてきたことの反作用を受けてるんだよと。
1日だけろくろを回している人にはそれはないんです。
田中
そうですよね。
糸井
ずっとろくろを回している人は、
ろくろを回すっていうふうに「変形」しているわけです。
で、「変形」するっていうことが、
プロになるっていうことであると。

田中
なるほど。
糸井
世界を詩で表す人は、
その分だけ世界が詩的に「変形」してるわけですよ。
田中
なるほど。
糸井
だからさっきの、
僕と泰延さんが「超受け手でありたい」っていう気持ちも、
すでにそれは変形であって、
その意味では、もうアマチュアには戻れないほどに
体が歪んじゃってるわけです。
田中
そうですね。
糸井
そうやって変形していく中でも、
歪んでない部分をどう維持するのかっていう時に、
「ご近所の人気者」というのが出てくるわけです。
田中
「アマチュアであること」と「ご近所感」は、
隣り合わせである、と。
糸井
たとえば、永ちゃん(矢沢永吉さん)はすごい。
本当に「ご近所の人気者」なんですよ。
田中
そうなんですか?
糸井
たとえば、うーん…、
僕もよく行ってたイタリアンのお店があるんだけど、
僕が永ちゃんの関係の人だっていうことも知っていて
言うんだけど。
「こないだ矢沢さんがお見えになって、
『何時に、何人とか入れますか?』って予約しに来て、
その後、社内の人を連れてきてくれました」って。
つまり、みんなの分を予約するために、
お店に顔を出していくような人なんですよ。
田中
矢沢さんが?
糸井
それとか、社員が
引っ越し先を探しあぐねているって話したら、
何日か経って、すっごい朝早く電話が来て、
「あ、俺だけど」って永ちゃんで、
「いい物件あったから」って(笑)。
田中
矢沢永吉が(笑)。
物件見てくるの?
糸井
そう。
「でも、決まらなかったんですけどね」って。
一同
(笑)

糸井
その「決まらなかったんです」も含めて「ご近所の人」。
田中
へぇ。
 
あのぉ、吉本さんのお話でしたっけ、お花見の時の。
糸井
うんうん。
午前中から、
田中
最初に来て。
糸井
場所取らなきゃいけないから、
吉本さんが自転車でブルーシートを背中に背負って、
午前中から最初に来て。
1冊そこで読む本を持って、
夜、人が集まるまで本を読んでるんです。
田中
はぁ。すごいですね。
糸井
うーん‥‥、すごいねぇ。
たしか鍋のセットとか持って行ったんじゃないかな。
田中
すごいですねぇ(笑)。
糸井
そういうお手本を見ていたのもあると思う。
僕は吉本さんを見ていたのがすごく大きい気がしますね。
田中
大阪弁で言うと、
「エラそくならない」ってすごい大事だなって。
糸井
そうですね。鶴瓶さんとか、ものすごく上手ですよね。
田中
まったくエラそくならないですよねぇ。
糸井
あれはもう鍛え抜かれた、エラそくならなさですね。
あの人はトップだなぁ。
田中
ええ、ええ。
糸井
一緒に大阪の街を歩いたことがあって。
鶴瓶さんだって気付きそうな人がいたら、
自分から攻めていくもんね(笑)。
田中
「あ、鶴瓶や」って言われそうになる前に。
糸井
自分から、「こんばんはぁ」って。
一同
(笑)
田中
はぁー。
糸井
なんていうんだろう、
「身内」っていう感覚の持ち方の上手さ。
それってつまり、「身内=ご近所」なんで。
あの人にとってみれば、みんな「ご近所」で。
田中
はい。
糸井
で、せっかく吉本さんを出したなら、
それは、吉本さんが
「大衆の原像」とおっしゃったことなんでしょうね。
田中
なるほど、「原像」ですね。

糸井
そういうものを心の中に置いておいて、
「お前、そんなことやってると、
変形してない部分の自分なり他人に笑われるよ」っていう、
そこを持ち続けられるかどうか。
田中
そうですね。
糸井
文楽の落語の中の、
「そういうことは天が許しませんよ」っていうさ、
それを持っているかどうかみたいな。
そこはなんか抱えておきたい部分。
田中
あぁ、なるほど。
糸井
うちって、夫婦ともアマチュアなんですよ。
だから、ちょっと持ってるような気がします。
田中
えぇ?奥様は、僕らなんか見ると、
やっぱりプロ中のプロのような気がするんですけど。
糸井
違うんです。
「プロになるスイッチ」を入れて、
その仕事が終わったら、アマチュアに戻る。
 
カミさんは、高い所とか本当は苦手で。
僕はパラシュートとか、
自分はできるかなって思うタイプなんだけど、
「なんでやるの?」とか聞いてくる。
 
で、カミさんに、
「じゃあ、仕事ならやる?」って言うと、
間髪入れずに、「やる」って。
田中
おっしゃるんですね(笑)。
糸井
プロだと、後先を考えてしまうようなことも、
アマチュアの人ってへっちゃらなんですよね。
裏を返せば、
どこか「自分は演技したくない」っていうのがあるから、
だから、泰延さんに渡された日本酒っていうのも、
あれは僕には、ものすごくむずかしいんですよ。
田中
なるほど。
糸井
で、たぶん、カミさんとかはそこで、
僕よりももっとすごいことしてると思うから、
僕は自分がアマチュアでいられるんでしょうね。
田中
あー、この話、どこまで伝わるかなぁ。
これはむずかしい話。
糸井
まぁ伝わらなくていいですけどね。
このまま言えば、もういいやって。
田中
あぁ、なるほど。
糸井
「プロって、弱みなんですよ」っていうのは、
肯定的にも言えるし、否定的にも言える。
 
ただ、僕の中では、
「何でもない人として生まれて、死んだ」というのが、
人間として一番尊いことだという価値観は、
どんどん強固になっていきますね。
 
「生まれた」「めとった」「耕した」「死んだ」っていう、
4つくらいしか思い出のない人生っていうのは、
みんなは悲しいことだって言うかもしれないけど、
やっぱり一番高貴な生き方だと思うんですよ。

(つづきます)

第5回 はじめて言葉にできた、もうひとつのこと。