糸井重里×田中泰延 対談 書いて食べていくって、どんなこと?
担当・逸見栞
第5回 ブルーハーツが、そうさせた。
- 田中
-
糸井さんと初めて京都でお会いした時に、タクシーの中で、
「ほぼ日という組織を作られて、その会社を回して、
大きくしていって、
その中で好きなものを毎日書くっていう、
この状態にすごく興味があります」って聞いたんですよね。
そしたら、糸井さんが「そこですか」
っておっしゃったんですよ。
それが忘れられなくて。
- 糸井
-
だって、辞めると思っていないから。
- 田中
-
あぁ。
- 糸井
-
電通の人だと思ってるから。
だから、「あれ?この人、電通の人なのに、
そんなこと興味あるのか」って思ったんですよね。
- 田中
-
その時は、それこそ辞めるとは思ってなくて。
辞めようと思ったのが、11月の末ですね。
- 糸井
-
(笑)
- 田中
-
で、やめたのが12月31日なんで、
1ヶ月しかなかったです。
- 糸井
-
素晴らしい(笑)
- 田中
-
この間も書いたんですけど、
理由になってないような理由なんですけど、
ブルーハーツなんです。
中身は20うん歳のつもりだから、
ブルーハーツを聞いた時のことを思い出して。
「あ、これは、なんかもう、
こんな風に生きなくちゃいけないな」って。
- 糸井
-
うん。
- 田中
-
かと言って、何か伝えたいこととかはないんですよね。
何かを見て聞いて「これはね」って
しゃべるだけの人なんですけど、
でも、「ここは出なくちゃいけないな」って
思ったんですよね。
- 糸井
-
あの、どうしてもやりたくないこと、
っていうのが世の中にはあって。
僕はそこを本当に逃げてきた人なんです。
逃げたというよりは、捨ててきた。
どうしてもやりたくないことの中に、
案外、人は人生費やしちゃうんですよね。
- 田中
-
はい。
- 糸井
-
僕は「何かをやりたい」よりも、
「やりたくないことをやりたくない」気持ちの方が強くて。
そこから、しょうがなく、
マッチもライターもないから、木切れをこう、
こうやって火を起こしはじめたみたいなことが
自分の連続だったと思ったんで。だから、広告も、
なんかどうしてもやりたくないことに似てきたんですよ。
- 田中
-
とはいえ、糸井さんの広告のお仕事見ていても、
「この商品について、良さを延々語りなさい」とか、
そのリクエストに応えたことはないですよね、最初から。
- 糸井
-
うん。それは、なんだろう。
やっぱり、さっきの、
「受け手として僕にはこう見えた、いいぞ」って
思いつくまでは書けないわけで。
だから僕、結構金のかかるコピーライターだったんですよ。
車の広告するごとに1台買ってましたからね。
- 田中
-
はい、はい。
- 糸井
-
「いいぞ」って思えるまでが大変で。でも、
受け手であることに
ものすごく誠実にやったつもりではいるんです。
で、誠実にやりきれなかった仕事っていうのは、
混じりますよね。でも、広告の仕事を辞めるっていうのは、
「あ、このまま『あいつ、もうだめですよね』
って言われながら、
なんで仕事やっていかなきゃならないんだろう?」
っていう風に、たぶんなるだろうなと。
だから、こういう時代にそこにいるのはまずいな、
絶対嫌だな、と思って。
で、僕にとってのブルーハーツにあたるのが、
釣りだったんですよね。ずっと、釣りしたかったんで。
- 田中
-
あの、この間おっしゃってた、
「釣りをはじめた頃は、ちょっと水たまりを見ても、
魚がいるんじゃないか」っていう話、おかしかった(笑)。
- 糸井
-
そうなんです。
正月にね、家族旅行で温泉なんか行った時に、
まったく根拠なく、砂浜で一所懸命、竿を投げるんですよ。
真冬に。海水浴やるようなビーチで。
それを、妻と子どもが見てるの。
- 田中
-
(笑)。なんか釣れましたか?
- 糸井
-
まったく釣れません。
- 田中
-
(笑)
- 糸井
-
根拠のない釣りですから。
- 田中
-
(笑)
- 糸井
-
でも、根拠がなくても水があるんですよ。
いいでしょう?
これ、僕にとってのインターネットと一緒なんですよ。
- 田中
-
なるほど。
- 糸井
-
水があれば、水たまりでも魚はいるんですね。
で、それが自分に火をつけたところがある。
だから、僕の「リンダリンダ」は、水と魚です(笑)
- 田中
-
水と魚、はぁ。
その話がまさかインターネットにつながるとは。
- 糸井
-
思いついてなかったですね。
広告を辞めるとかっていう
「ここから逃げ出したいな」っていう気持ちと同時に、
「水さえあれば、魚がいる」って期待する気持ちに、
肉体が釣りでつなげたんでしょうね。
- 田中
-
なるほど。はぁ。
- 糸井
-
大勢の人たちに、なんか、その、
わかってもらえるかは、むずかしいねぇ。
- 田中
-
でも、その、今僕が思ったのは、
やっぱり肉体の重要性、肉体って大事だなと思って。
- 糸井
-
だから「ご近所」って、物理的な「ご近所」もありますよね。
- 田中
-
そうですね。だから、なんかちょっと体を動かそうと
思ってきましたね、だいぶ。
- 糸井
-
もしかしたら泰延さんは、それがバンドを組むことかもしれないしね。
- 田中
-
バンドを組む(笑)。
でも、今日、糸井さんにお会いして、
身体性の話に行くとは思ってなかったです。
なんか、僕のこれからがやっぱり変わってくると思います。
- 糸井
-
いやぁ、やっぱり、
田中さんの人生を1時間じゃ、収まらないね。
- 田中
-
いやぁ。
- 糸井
-
お疲れ様でした。どうもありがとうございます。
- 田中
-
ありがとうございました。