もくじ
第1回手土産研究家の田中さん 2017-03-28-Tue
第2回読んでいる人として、書いている 2017-03-28-Tue
第3回ブルーハーツと釣りの共通点 2017-03-28-Tue
第4回「偉そうくならない」は大事なこと 2017-03-28-Tue
第5回僕のこれから、やっぱり変わってくる 2017-03-28-Tue

フリーで編集とライターをしています。
鳩サブレ勉強家です。

田中泰延さんを、紹介します。

田中泰延さんを、紹介します。

担当・マチコマキ

「塩野米松さんの『中国の職人』をみんなで読もう。」の座談会や、
「書くについての公開座談会。」など
ほぼ日に、ふっと登場する田中泰延(たなかひろのぶ)さん。

昨年まで、コピーライターとして広告代理店に24年間勤め
2017年からフリーとなりました。

対談の当日は、ブルーハーツの「リンダ リンダ」の音楽に合わせて現れた田中さん。

田中泰延さんって、どんな人なんでしょう?
「ファンなんです」という糸井さんが聞きました。

プロフィール
田中泰延さんのプロフィール

第1回 手土産研究家の田中さん

糸井
今だから言える秘密が、ぼくらの間に1つあります。
お花見問題。
田中
はい。大問題ですね。
僕が24年間勤めていた電通関西支社の。
糸井
田中さんがおられた部署は、なんていうんだろうなぁ。
よく言えば、梁山泊みたいな所なんです。
田中
もう、はぐれものの集り。
堀井博次さんという親玉が40年ほど前に現れて、
東京のカッコいい広告に対して、
とにかく関西のノリのカウンターパンチを
食らわせようとするんです。
そこへ、どんどんおかしな人がいっぱい集まったんですけど。
なぜか「糸井さん、一緒に仕事をしよう」
っていう話になりまして。
30年くらい前からつながっていたけれど、
久し振りとなる堀井さんと糸井さんの再会が
そのお花見だったんですよね。

糸井
その時に、田中さんとぼくは初対面なんですね。
ツイッターのメッセージで連絡して、京都の駅に降りて
待ち合わせをするんです。
「やぁやぁやぁ、どうもどうも」って。
田中
はいはい。
糸井
その時に田中さんは紙袋を下げてるわけです、複数の。
1つの紙袋は、大きなつづらみたいになってて、
軽くて大きいんです。それで
「糸井さんにお渡しするものなんですけれども、
 つまらないものですが。荷物になりますから、
 これはそのまま僕が帰りまで持っています」って。
渡さないというのにも、ちょっと知恵を使っているわけです。
田中
もう1つの紙袋は重いもの。
糸井
一升瓶なんですね。
田中
大阪のデパートので開けると、のしに大きい筆文字で「糸井」
って書いてあるんですよね。
糸井
「これは糸井さんからの差し入れだっていうことで、
 申し訳ないですけど勝手に用意いたしました。
 あの梁山泊の方々は、とにかく酒さえあれば
 機嫌がいいんです。
 お渡しする時だけ持っていただけませんか」
って田中さんは言うんです。
なに、その歌舞伎のプロンプターみたいな(笑)。
田中
この営業っぽい、小賢さっていうね。
糸井
で、なんていうの、その念の入り方があんまりなんで、
もう笑うしかなくて。
ただ、梁山泊の人たちは、
人を疑うことにかけてもなかなか手練れだし、
その加減もわかんないんです。
ならば、ここは「田中泰延」に任せておこうと思って。
言われた通りに「これ」って言って渡したら、
案の定、湧くんですよ。
田中
糸井さんは特別ゲストですから、
みんながすでに、ちょっとこう飲んでいる所に
お連れしたんですよね。
事前に、糸井さんに(小声で)
「ここは糸井さんからって言ってくださいね」って
お願いしたんですけど。
糸井さん、すごい小さい声で「あのぅ、これ、僕が」って。
糸井
ぼくは芝居ができない人間なんで(笑)
田中
後ろめたそうに出されたけど、
みんなは酔っ払いだから「ワーッ!」。
その包み紙をグシャグシャって取って「ウワァーッ!」って。
「糸井」って書いてあるお酒が出てくるから。
糸井
すごいんだよ。
田中
その喜び方の浅ましさ(笑)。
糸井
ガソリンを、焚火に投入したみたいなの。
これだったら、持ってきたほうがいいんだなぁって。
田中
糸井コールが起きるんじゃないかというくらい湧いて。
瞬時に開けて「酒あるぞ!」って全員一斉に注いで、
一気に飲んでましたね。
糸井
大阪から来た人が、東京の集いであれやったら
「あぁ」って言ってお終いですよね、きっとね。
「あぁ、どうもどうも」みたいな。
で、今まで飲んでた酒を普通に飲み交わして、
どこか置いておかれますよね。
田中
あぁ、なるほど。
糸井
そう。でも、梁山泊のメンバーは馬鹿じゃないんです。
一同
(笑)
糸井
そこがいやらしいところ。馬鹿じゃないっていうのと、
馬鹿が同一平面に2つ置いてあるんですよね。

田中
なんでしょうね、あの人たちは。
糸井
なんでしょう?
田中
なんですかね。
糸井
堀井さんが、ニッコニッコ、ニッコニッコ、
えびすさんみたいな顔していて。
いやぁ、芝居のようでしたね、あの場所はね。
田中
あの日の堀井さんね、ひどかったんですよ。
「あれぇ? 田中、お前、うちに20何年いて、
 何もせぇへんやつかと思ったけど、糸井を連れて来たな」
って。ひどいですよね(笑)。
糸井
「田中泰延」という人がこのチームの中で
どういう存在なのかがまったくわからないんですよ。
つまり、誰もわかんないチームだね、あれは。
田中
なんでしょうね。
普段から僕の呼ばれ方は「ヒロ君」なんですよ。
糸井
ヒロ君なんですよね。
田中
ヒロ君。
糸井
つまり、27歳くらいの呼ばれ方ですよね。
田中
もうずっと、入って以来ヒロ君なんですよね。
ひどいこともあって、社長や重役のような役員が
バーッと20何人くらい並ぶプレゼンの時にも
「では、えぇ、具体的なCMの企画案については、
 ヒロ君のほうから」。
一同
(笑)
田中
向こうはザワザワして「ヒロ君って誰だ?」。
社長が秘書に「ヒロ君って誰だ?」(笑)。
一同
ははははっ
田中
「いやいや、すいません、ヒロ君と紹介されましたが、
 田中でございます」と、プレゼンをする。
糸井
「ヒロ君からのプレゼン」ってね。
田中
「ヒロ君からのプレゼン」、芸名じゃないんだから。
糸井
それでね、今日もいつものように手土産をいただきました。
ぼくの手土産の考え方みたいなのっていうのは、
土屋さんからきていて。
田中
コピーライターの土屋耕一さん。
糸井
同業の神みたいな人です。
土屋耕一さんは、ラジオの投稿家だったんですよ。
そこからアルバイトのように
資生堂の宣伝部に入られるんです。
「これからちょっと一杯やるから、なんか買って来いよ」
なんて頼まれると、資生堂から松屋の地下に行って、
予算の中でいろんなものを買ってくる。
その時の買ってくるものが気が利いているんで、
土屋さんは「それで俺は社員になったんだよ」と
お話をされていました。
田中
なるほど、あぁ。
糸井
いいでしょう? で、田中さんも、
「僕が持ってくるものはだいたいつまんないものです」って
言った後に、ぼくは「うん」って言って。
田中
「つまんないものです」って言うの、
すごくいいコミュニケーションだと思うんです。
昔、田村正和さんに、喜んでもらえるだろうと思いつつね
「つまんないものですけど」って渡したことがあるんです。
田村さんがテレビドラマの中で乗ってた車のミニカーです。
そうしたら、田村さんはそれを見て、裏見て、
「本当につまらないね」(笑)って、あの口調で。
糸井
あぁ、あぁ。
田中
言いながらもね、ちょっとこう鞄にしまっていたんですよ、
楽屋に置いていかないで。
「つまらないものです」って、すごくいいなぁと思います。
糸井
田中さんは「つまんない」の、
そのハードルをものすごく下げた状態で、
だいたい選んでこられますよね。駅で買えそうな、
だけど駅とも限らないみたいなところがある。
田中
大阪のいいところは、お土産自体のネーミングが
だいたいくだらないというところ。

糸井
はいはいはい、すでにね。
田中
中身のおいしさとかまったく問われないっていうところで、
コミュニケーションになっているんです。
糸井
なってますよね。でも、前にいただいた
目黒のほうの揚げ煎餅と揚げ饅頭のセット。
あれが混じったことで、ぼくの田中さん像が
ちょっとずれちゃいました。
田中
おいしいから、本気の手土産です。
糸井
今までは「つまんないもの」という、
越えやすいハードルをとにかく持ってきて、
相手を飛ばせるというやつだったんです。
それなのに「揚げ煎餅、うまいじゃん」ってなって(笑)。
田中
はは、僕の像がぼやけてしまったと。
あの時は、塩野米松さんがいらっしゃいましたから。
糸井
塩野さんの『中国の職人』にまつわるお話を
聞いたときですね。
田中
塩野さんにいきなり、
大阪のお約束の「面白い恋人」を差しあげても、きっとね。
「なんじゃ、これは?」となるからですね。
糸井
あぁ。微妙にこう使い分けて。
田中
微妙に、小ずるく生きてますから。
糸井
目黒まで買いに行ったんですか?
田中
そうです、来る前に。
いつもは、新幹線に乗る直前に買うんですけど。
糸井
あの揚げ煎餅は、今までの路線とはっきり違うんです。
ぼくらはきっと、手土産ひとつの違いでも
コミュニケーションしてるわけですよ。
田中
1回は投げないとだめですね、ああいう変化球をね、
やっぱり(笑)。
糸井
そういうわけで、「手土産研究家の田中さん」というふうに
ぼくは認識しています。
どうしていつも手土産を持っていらっしゃるんでしょう?
営業やってらっしゃったんですか?
田中
まったくやったことないですけど、
やっぱり貰うとうれしいっていう経験がすごく大きくて。
糸井
大きくて。
田中
ほぼ日さんに伺った時は
メッチャいいもの貰えるじゃないですか。
ジャム貰ったりね、カレーの恩返し貰ったりね、
なんかあのぅ、やっぱり紙袋をくれはるんですよ。
糸井
あぁ、なるほど。
田中
で、やっぱり貰うとうれしいし、あと、家族喜ぶんでね。
糸井
あぁ、あぁ。家族って言葉が田中さんの口から出てきたのは、
ちょっと珍しいですね。
田中
珍しいですね。
糸井
やっぱり、無職になってからですね(笑)。
田中
そうですね、そうなんです。
第2回 読んでいる人として、書いている