- 糸井
-
文壇や表現者の集いの中で、
偉大な人として語られるのは
それはそれで居心地がよさそうだなって
いうのは思うのだけれど、
そのために、
趣味のいい暮らしをするみたいになっちゃうのが
僕としてはちょっと。
もっと下品でありたいというか(笑)。
「何それ?」みたいな。
- 田中
-
だから、永遠にバカバカしいことを
やるっていうのは、
これは一種の体力が必要ですよね。
- 糸井
- 体力ですね、そうですね。
- 田中
-
これをやらないところに陥った瞬間、
偉そうな人にやっぱりなるんで。
- 糸井
-
なるんですよねぇ。
泰延さんでも僕でも、
「いや、自分でも悪い気はしないよ」
というツボが、
やっぱりいっぱいあるわけだから。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
- どうしようかって思うんだよ。
- 田中
-
「どうしようか」(笑)。
そうですよね。
- 糸井
-
だから「グルッと回って結論は?」ってなると、
「ご近所の人気者」っていうところへ行くんだよ。
- 田中
-
そこですね(笑)。
本当にそこですね。「ご近所の人気者」。
- 糸井
-
このフレーズは、
『じみへん』という
中崎タツヤさんの漫画で、
書いていた言葉なんですよね。
それをうちのカミさんが、
「俺だ」って言ったんですよ。
- 田中
-
なるほど。
中崎タツヤさんのスタンスは、
素晴らしいですね。
仙人くらいの、なんていうか、
スタンスの崩れなさですよね。
- 糸井
-
凄味がありますね。
もう1つ中崎さんの漫画で
永遠に忘れまいとしたのがあって。
主人公の男というのが、
お母さんがやってることがすごく馬鹿に見えるんですね。
庶民の家ですからそのことにものすごく腹が立って、
馬鹿さ、くだらなさ、弱さ、下品さ、
下世話なものに対して、
自分もそこの生まれの主人公の青年が、
「母さんは、何かものを考えたことあるの?」
って言うのを、もう怒りのようにぶつけるんですよ。
つまり自分の血筋に対する怒りですよね。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
-
そうすると、お母さんが、
「あるよ。寝る前にちょっと」
って言うんですよ。
- 田中
- (笑)。
- 糸井
- これ、涙が出るほどうれしかったです。
- 田中
-
それは素晴らしい。
いやぁ‥‥。
- 糸井
-
その、「寝る前にちょっと」をね、
漫画にした。
- 田中
- ものすごい凄味ですね、それは。
- 糸井
-
でしょう?
青年がどんな顔をしたかも
覚えてないんですけど、
一生忘れられないと思った、それ。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
-
僕は、
「寝る前にちょっと」を探す人なんです。
「寝る前にちょっと」の人たちと
一緒に遊びたい人なんです。
- 田中
-
その時間ね、
若干活発になってこられますね、
深夜のね(笑)。
- 糸井
-
そう(笑)。だから、それ言いながら、
自分に対して、「お前も幸せになれよ」って
いうメッセージを投げかけ続けるっていうのは、
もう俺にとっての生き方しかないんですよ。
- 田中
- わかります(笑)。
- 糸井
-
「みんなこうしろ」とも言えない。
僕は探したんだもん、だって、それを。
で、今の泰延さんのこの、
青年、青年‥‥、なんだっけ、
扶養者じゃなくて(笑)、
- 田中
- 「青年失業家」。
- 糸井
-
失業家。「青年扶養者」って(笑)。
なんていうんだろう、
自転車でランニングの人のね
横にいる自転車の人みたいな、
- 田中
- あぁ、伴走してる。
- 糸井
-
気持ちで見るわけです。
「どうなの?」みたいな。
- 田中
-
本当ですね。でも、
「青年」と勝手に名乗ってますけど、
- 糸井
- 27ですからね。
- 田中
-
27ですよ、心は。
それで、会社を辞めた理由の1つには、
人生、すごい速く感じてきたなと思って。
みんな感じると思うんですけど、
20代の頃と40代だったら、
もう倍以上、日が暮れるのも早くなるし。
だから、そうなんです。
うちのね、祖母さんが死ぬ前に言った、
忘れられない一言があって。
80いくつで死んだんですが、こう言ったんですよ。
「あぁ、この間18やと思ったのに、もう80や」って(笑)。
- 一同
- (笑)。
- 田中
-
その一言でものすごい時間をね
意識しました(笑)。
- 糸井
- 素晴らしい。
- 田中
-
60何年のこの時間をピョーンって、
そりゃあ速いわなぁっていう。
- 糸井
-
それ、泰延さんが言うより、
俺、もうちょっと深くわかりますね。
- 田中
-
(笑)僕まだね、実感がない。
「この間18やったのに、もう80や」って
その1行でね(笑)。
- 糸井
- あいたたたた(笑)。
- 田中
-
はや(速)って。
そうなんです。
- 糸井
-
それは、ひるがえって
「ご近所の人気者」の話なんですよね。
- 田中
- そうですね。
- 糸井
-
だから、一番近い所で僕のことを
人体として把握している人たちが、
「ええな」って、
「今日も機嫌ようやっとるな」って言う。
お互いにね。
- 田中
- はい、はい。
- 糸井
-
ここにやっぱり自分を落ち着けたくなってしまう。
それをご近所のエリアが、
本当の地理的なご近所と
気持ちのご近所と
両方あるのが今なんでしょうね。
- 田中
- あぁ。
- 糸井
- うーん‥‥。
- 田中
-
ネットを介したり印刷物を介したりするけど、
その「ご近所」っていうフィジカルなこと
すごく大事だと思ってて。
- 糸井
- 大事ですね。
- 田中
-
1週間前に大阪のロフトの糸井さんの楽屋に
5分だけ訪ねていったんですが、
それがあるのとないのとでは
今日が全然違うんですよね、やっぱり。
- 糸井
- (笑)。
- 田中
-
何かね、ちょっと顔見に行くとか、
ちょっと会いに行く。
- 糸井
- あの時も手土産をどうもありがとう(笑)。
(つづきます)