もくじ
第1回恋は残酷 2017-11-07-Tue
第2回ドキンちゃんが「バイキン城」を出たなら 2017-11-07-Tue
第3回「気づかないヒロイン」と訪れない最終回 2017-11-07-Tue
第4回本当は気づいているとしたら 2017-11-07-Tue
第5回私の「ばいきんまん」 2017-11-07-Tue

「ものを書くこと」と「ものを買うこと」が大好きな、ライター兼webプロデューサー。テレビ局を辞めて、いまは「ものづくり」に関する記事をまとめています。息をするように買い物ばかりするので、いっぱい働かねばなりません。

私の好きなもの、やなせたかしさんが描く「恋」

私の好きなもの、やなせたかしさんが描く「恋」

担当・中前結花

「ドキンちゃんは、しょくぱんまんのことが好き」
小さな子どもから大人まで、多くの人が知っている、
あまりにも公な恋心です。
甘いマスクとさわやかな声、やわらかい物腰、
しょくぱんまんのそれらにドキンちゃんは
ただただ心揺さぶられ、想いを寄せる毎日。
しかし、積極的なアプローチも虚しく、
しょくぱんまんはいつだって涼しい顔。
ドキンちゃんは思います、
「この切ない恋心に、彼は気づいてはくれないのね」。

そして、そんな切ない横顔を傍で眺める
もうひとりの男がいました。
彼の名前はばいきんまん。
彼もまた、似たような切ない想いで
胸をいっぱいにしているのでした。
だけど、ドキンちゃんとばいきんまん、
この二人の関係性は考えれば考えるほどに、
切なく奇妙です。

私は、やなせたかしさんが描く「アンパンマン」の
その片隅で繰り広げられる、
この「ラブストーリー」が大好きなのです。
大真面目で誰かに話してみても、
いつも「そんなこと考えたことがなかった」と
気のない返事が返ってきます。
なので、今回はその魅力と考察について、
好き勝手に記してみることにします。
そして自分自身についてもじっくりと考えてみました。
愛について、恋について、パンについて。
「そんなことー」と言わず、
最後まで読んでいただけるとうれしいです。

第1回 恋は残酷

ドキンちゃんは、彼を「しょくぱんまん様」と呼ぶ。
その姿を視界に見つけると、途端に瞳はハート型。
 
アニメ『アンパンマンとぱんどろぼう』以来、
すっかり彼女は骨抜きにされてしまったのだ。
手作りチョコにフリルのワンピース、
ちょっと下手な芝居さえも、ドキンちゃんにしてみれば、
すべては彼の気をひくためのツール。
あの手この手で「なんとか射止めたい」と、
半ば躍起になっているのだった。
 
そんな彼女の最強のツールとも言えるのが、
相棒のばいきんまん。
 
彼が優秀すぎるハードウェアエンジニアである
ということは、近ごろよく語られているところだけれど、
よくよく考えれば彼が担っているのは
設計・実装部分だけではない。
全体の戦略策定から施策の企画・設計・実装、
そして遂行にあたるまで、すべてを最前線で行う。
「おれ様」と得意になるのも
無理はない仕事ぶりなのだ。
 
そんなばいきんまんの優れた能力も、
時に、しょくぱんまんとの恋路のために
「道具」として利用してしまうのがドキンちゃん。
彼もまた彼女に夢中であるというのに、
これはなんと皮肉なことなのか。

小さいころから母が読み聞かせてくれた
「アンパンマン」。
大人になった今でも、この二人の関係性に、
私はたまらなく魅力を感じてしまう。

そこにあるのは、
「遠く」と「近く」、
「憧れ」と「日常」。
遠くにあるものは、つい輝かしくて憧れてしまう。
近くにあると、
慣れっこになってありがたみをつい忘れてしまい、
時には疎ましくさえ感じてしまう悲しさ。
ドキンちゃんにとって、ふたりの男性は
まさにそのような存在であると思う。
そして、そんな日常のかけがえのなさを
気づけずにいるドキンちゃんに、
ついつい私は知らせたくなるのだった。
 
先に断っておくと、私はドキンちゃんが好きだけれど、
彼女の片思いはこれっぽっちも応援していない。
私が応援しているのは「ばいきんまん」の恋だ。

そして、私にはすでに「策」がある。
 
(つづきます)

第2回 ドキンちゃんが「バイキン城」を出たなら