もくじ
第1回もしもトイレがなかったら 2017-12-05-Tue
第2回トイレの世界に誘われて 2017-12-05-Tue
第3回マンホールの下で見たもの 2017-12-05-Tue
第4回今のトイレはどう処理している? 2017-12-05-Tue
第5回トイレのあとに残る泥のゆくえ 2017-12-05-Tue

編集経験8年。
媒体の主な分野は教育系、旅行系です。

課題3

担当・朝倉由貴

第2回 トイレの世界に誘われて

ここに1冊の本があります。
『トイレなんでも入門』(小学館)という児童書です。


『小学館入門百科シリーズ 168トイレなんでも入門』
1985年初版で現在は絶版 (C) 小学館

小学校1年生か2年生ぐらいのとき、
たまたま図書館で手にとって、
そのおもしろさにはまりこんだ私は
くり返し読んで、何度も借りました。
「この本、もう一度借りたいです」と窓口にもっていくと、
司書の女性にすっかり顔を覚えられてしまっていて、
毎回ニコニコしながら手続きをしてくれました。

この本にはトイレに関するあらゆることが書かれています。

たとえば、「おしりと手の始末あれこれ」という章では、
「そもそも昔はおしりをふく必要がなかったらしい」
という話から始まっています。
「おしりをふかないなんて、大丈夫?」
と思ってしまいますが、
大昔の人間は運動量が多い生活をしていたので
肛門の括約(かつやく)筋がきたえられてしまりがよく、
しかも野菜などの繊維の多いものを食べなかったので、
出るものもコロコロしていた。
だから、おしりをふく必要がなかったというのです。

そのあと、世界中の「おしりをふくもの」について
調べた博士の話が続きます。

・水
・砂
・小石
・葉っぱやくき
・木片や木の皮
・ロープ
・トウモロコシの毛
・海藻
・海綿

トイレットペーパーしか使ったことがない小学生の私は、
「砂なんておしりにくっついちゃわないのかな?」
「木の皮って、おしりが痛くないのかな?」
とか、使い方やそのあとの捨て方を不思議に思いつつ、
ワクワクと読みました。
おしりをふくものひとつをとっても、
世の中には自分のまったく見たことがない世界が
たくさんあるものだなあ、とおもしろがったのです。

中でも私がとくに感動したのは、
「人間が出したものをどう処理するか」という
実例の紹介でした。

トイレの下に豚小屋をつくって、
人間の出したものを豚の餌にして食べさせる。
(中国)

高床式の家の下で牛を飼い、
トイレのところは床に穴を開けて、
出したものを牛に食べさせる。(インドネシア)

川の中にロープを張り、
用を足したらそのロープでおしりをふく。
ロープについたものは魚に食べさせる。
(アフリカ)

人間の出したものを家畜や生き物の餌として食べさせて、
食べて太ったその家畜や生き物をまた人間が食べる、
というしくみです。

「えっ?汚い!」と思われる方は多いかもしれません。
でもこの本には理由もしっかり書いてありました。

人間は食べたものの栄養を20%くらいしか吸収していない。
豚や牛などの胃腸は丈夫で消化・吸収能力が高いため、
人間が出したもののなかから、
残っている栄養をとり込むことができる、と。
だから、これはとても理にかなった方法なのです。

無駄なものを残さずきれいに使い切るという知恵に
「よくできているなあ~」と感動しました。
リサイクルといった難しい言葉を知らなかった
小学生の私にも、そのすばらしさはよくわかったのです。

この本はほかにも、こんなトピックが並びます。

・世界最古のトイレはレンガ製
(メソポタミア文明の宮殿から発掘された便器)
・ジャンボ便器に流されないで!
(国技館の力士用トイレについて)
・女だってやればできる
(女性の立ちスタイルについて)
・トイレのそばの植え込みのひみつ
(ふくのに使われた草や葉)
・スイスの山は風洗式
(モンブランのレストハウスのトイレ)

子ども向けの本ですが、これほどわかりやすく、
おもしろく、世界中のトイレの話を網羅して、
その奥深さを伝えている本はなかなかありません。

大人になってからこの本をアマゾンで手に入れて、
調べてみたら、「トイレ博士」とも呼ばれていた
日本のトイレ研究の第一人者・李家正文
(りのいえまさふみ)氏が
監修を担当していたことがわかりました。

大学に入学した李家氏は、トイレがあまりにも汚くて、
落書きだらけで、そのひどさにとても驚いた。
それから、たくさんの本を読んでは、
トイレについての抜き書きをするようになったといいます。
そして、まだ学生だった1932年に『厠考(かわやこう)』
という本を出版して話題を呼び、新聞社へ入社したあとも
ずっと研究を続け、「トイレの本」を多数書き残しています。

小学生だった私は、
李家先生(と親しみを込めて呼びたい)が
展開する豊かなトイレワールドの魅力に、
すっかり引き込まれてしまったのでした。
(続きます)

第3回 マンホールの下で見たもの