もくじ
第1回もしもトイレがなかったら 2017-12-05-Tue
第2回トイレの世界に誘われて 2017-12-05-Tue
第3回マンホールの下で見たもの 2017-12-05-Tue
第4回今のトイレはどう処理している? 2017-12-05-Tue
第5回トイレのあとに残る泥のゆくえ 2017-12-05-Tue

編集経験8年。
媒体の主な分野は教育系、旅行系です。

課題3

担当・朝倉由貴

第5回 トイレのあとに残る泥のゆくえ

下水道から金がとれたという話を知っていますか?
「金」は金の延べ棒の金、貴金属のゴールド。
これは都市伝説ではなく、本当の話です。

長野県諏訪市のグリーンレイク諏訪
(豊田終末処理場)では、下水汚泥の焼却灰などに、
かなりの量の金が含まれていたことがわかりました。
その量は、年間に排出する焼却灰約70トンあたり、
約2キロ。これと別に、灰を溶かしている炉からも
年間約20キロの金がとれたのです。
2008年にこの金の売却額は約4000万円になりました。

ここの下水に金が含まれている理由については
流域に金メッキを扱う工場が多いからとか、
金属を含んだ温泉が流れ込んでいるからとか、
いろいろ言われていました。
最新の事情を問い合せてみると、特定の工場からの排水に
金が含まれていたことがわかったそうで、
その工場が排水に気をつけるようになった数年前からは、
金は回収されなくなったということでした。

しかし、こういった例は海外にもみられるようで、
スイス連邦水科学研究所(EAWAG)は、
国内の下水処理施設の沈殿物から、
2016年の1年間で金約43キロ、銀約3トンが
含まれていたことを発表しています。
このスイスの場合では、貴金属を扱う時計メーカーなどが
金銀を含んだ下水のおもな排出元として推測されています。

第4回の最後でふれたとおり、
微生物に汚れを食べさせたあとには、
大量の泥(汚泥)が発生します。
増え続けるこの泥を、どう処理するかということが、
長い間の課題になっています。
だから金が見つかったという話題によって、
下水がまるで宝の山のように、
ただ流して棄ててしまうにはもったいない、
「あなどれないもの」と広く注目される
きっかけになりました。


1932年から稼働した天白(てんぱく)汚泥処理場で
汚泥を干す作業のようす (C)名古屋市上下水道局

下水汚泥は水分を大量に含んでいますので、
まずは脱水機のようなものでしぼったり、
遠心力でぐるぐるまわしたり、
プレスして重さをかけたり、乾燥させたりして、
とにかくいろいろな方法で水分を抜きます。

カラカラに乾燥させた汚泥を処理する、
もっとも単純でお金のかからない方法が、
燃やして灰にして、埋め立てるという処分です。
ただ、埋め立てできるスペースには限りがありますし、
下水汚泥は人が暮らすかぎり、無限に発生するものなので、
ただ単に埋めるという処分は減らしたい。
だから、国内の下水汚泥の約7割はさまざまな形で
リサイクルにまわされています。

リサイクルのなかでも特に注目されているのが、
燃料として使うことかもしれません。
これは下水汚泥という廃棄物を減らせるうえに、
ほかの燃料の節約にもなる一石二鳥だからです。

下水汚泥そのものを燃料化する方法では、
蒸し焼きにして炭化物にします。
こうすると石炭の替わりになるので、
実際に火力発電所などで燃料として使われています。

下水汚泥からガスをとりだすという使い方もあります。
汚泥を発酵させてメタンガスを抽出して、
自動車の燃料などに使えるガスに加工します。
実際、このガスを使って神戸市はバスを走らせています。
このバイオガスを使って発電をして、
下水処理場の電気の一部をまかなっている施設もあります。


東灘処理場の下水汚泥を使った
「こうべバイオガス」のガスステーション
(提供:神戸市建設局下水道部)

古くから「下肥」で使われていた実績があるとおり、
下水汚泥にはリン、窒素などの肥料に適した成分が
多く含まれています。
なので、堆肥(たいひ)として使えるように加工するのも
下水汚泥のリサイクルの定番のひとつです。

また、下水に含まれるリンの成分だけ結晶化してとり出し、
肥料の原料として加工する方法もあります。
日本はリン鉱石の多くを海外から輸入しているので、
下水からこれを大量に生産することができたら、
国内全体にとっても経済的に大きなメリットになる
と言われています。

ほかに、下水汚泥を焼却した灰を、
セメントなどに混ぜて、レンガやコンクリートに加工して
建築資材にリサイクルしているものなどもあります。


白いプランターと、地面に敷き詰められた赤いレンガは
東京都有明水再生センターの汚泥をリサイクルしたもの

現在進行形の「無駄なものを使い果たす」知恵も
とってもおもしろいのです。

私たちの体から出たものが、流れ流れて、
バスを動かす燃料になったり、
公園のレンガになったりしています。
これから先は、もっと違う使い方も
生み出されるかもしれない。
ちょっとわくわくしませんか?

長いトイレの話に、
お付き合いいただきありがとうございました。
(おわり)