もくじ
第1回もしもトイレがなかったら 2017-12-05-Tue
第2回トイレの世界に誘われて 2017-12-05-Tue
第3回マンホールの下で見たもの 2017-12-05-Tue
第4回今のトイレはどう処理している? 2017-12-05-Tue
第5回トイレのあとに残る泥のゆくえ 2017-12-05-Tue

編集経験8年。
媒体の主な分野は教育系、旅行系です。

課題3

担当・朝倉由貴

第4回 今のトイレはどう処理している?

今の私たちは、トイレで用を足して、
ペーパーでおしりをふいて、水で流します。
そこから先はどうなっているのか、
という話をしたいと思います。

今の日本では下水道が主流です。
普及率は78.3%(2017年)。
約8割の人が下水道を使っていることになります。
ほかに、浄化槽(じょうかそう)が9.2%。
浄化槽は戸建の家庭1軒から集落単位までの
排水処理に対応できる装置です。
ほかに農業集落排水施設(農村部の排水処理施設)、
コミュニティプラント(小規模な排水処理施設)
といった施設もあります。

私がトイレから流した下水と、
お風呂や台所から流した生活排水は、
同じマンションの家から出た水と合流し、
近隣の家から出た水と合流しながら、
道路の下に埋まっている下水管を通り、
少しずつ下水処理場に近づいていきます。

おもしろいのは下水管が「自然流下」ということ。
管には水を流すための特別な技術は備わっていないのです。
単純に傾斜がつくように設置されているので、
水は上から下へ、どんどん流れていきます。
「どういうこと?」と思う方もいるかもしれません。
下へ下へ流れるなら、「下りきったらどうするの?」と。

下りきったところにはポンプ所があります。
ポンプ所で水をまた高いところまでくみ上げて、
そこから先はまた坂を下へ下へと流れます。
その繰り返しで、いくつかのポンプ所を中継して、
やっと下水処理場に到達します。

下水道はそういった処理場までの管が必要ですから、
たくさんの人が密集して住んでいる市街地では
まとめて処理ができて効率がいいのですが、
日本国内は山地や島も多いので、
下水管を張りめぐらすことに向いていない地域も
たくさんあります。
そういう地域では、さきほど名前を出した浄化槽、
農業集落排水施設、コミュニティプラントといった、
住んでいる人々の数や環境にあった施設が選ばれています。

下水処理場で汚れた水をきれいにする方法は
ざっくりといってしまえば、
「ごみをとりのぞいて、汚れを微生物に食べさせて、
最後に殺菌する」ということにつきます。
施設にはいくつかの大きな池があり、そこに流しながら、
だんだん水をきれいにしていきます。

ごみをとりのぞく方法はいくつかあります。
まず単純で確実なのが、沈殿(ちんでん)させること。
ゆっくり水を流しながらしばらく時間をおいて、
ごみを自然にまかせて沈めます。
そして、ごみと分離したうわずみの水を次の池に移します。

それから、フィルターになるものを使って、
汚れた水を網目にとおし、ごみをひっかけて、
水を濾過(ろか)する方法も使われています。
これは砂や小石で濾過する、古代から採用されている
伝統的な方法もありますし、「膜(まく)」という
最新技術のフィルターを使うこともあります。
膜は、海水から塩分をとりのぞいて真水にしたり、
工業排水や水道水を浄化したりすることにも使われていて、
この話だけでも何時間もできるぐらいおもしろい分野です。

ちょっと話が脱線してしまいました。
微生物に汚れを食べさせる方法ですが、
この微生物には空気が好きなもの(好気性)と、
嫌いなもの(嫌気性)の2種類があり、
このどちらか、または両方に食べさせるなど、
施設によって採用している方法は異なります。
下水処理場だけでなく、浄化槽でも同じなのですが、
現代の排水処理技術では、
微生物たちに汚れをもりもり食べてもらうという
ステップが多くの場合にあり、
意外とそのしくみは原始的です。
人間の出したものを豚や牛や魚に食べさせる例が
ありましたが、今は微生物に活躍してもらっています。

最後にこれまでの方法でとりのぞくことができない
有害な病原菌やウィルスなどは、殺菌して死滅させます。
ここはさすがに化学的な処理が必要で、
おもに使われるのが塩素、紫外線、オゾンなどです。

このほか、目指す「きれいな水」の度合いによって、
高度な処理や特別な工程を組み合わせるなど、
施設によって処理の方法はさまざまです。

環境基準に即して、人間の病気の原因になる菌や
自然の生き物に有害な薬物、金属類などが
とりのぞかれた状態であることが検査で確認できたら、
きれいになった水はようやく川や海に放流されます。

以前、ある下水処理場を取材したとき、
施設の方がおっしゃっていました。
「今夜は7時からワールドカップの日本戦がある、
といったイベント情報はいちおう頭に入れておきます」
サッカーの試合の場合、ハーフタイムになると
TV中継を見ていた人々がトイレに行くことが多い。
だから下水処理場に流れ込む水が、その時間帯だけ
増えてしまうこともいちおう想定する、というのです。
施設で働く人々は、流入する下水の量に応じて、
設備の具合を調整したり、
微生物くんたちがちゃんと働いているかを確認したり、
24時間体制で見守っているのです。

微生物に汚れを食べてもらう処理の技術は、
水をきれいにできるのはいいのですが、
おなかいっぱいになった微生物たちが、
汚泥(おでい)として大量に出てしまいます。
まだ「どう処理するか」という問題が残っているのです。
しかしこの汚泥の処理にも、さまざまな方法があって、
非常におもしろいのです。
(続きます)

第5回 トイレのあとに残る泥のゆくえ