もくじ
第1回もしもトイレがなかったら 2017-12-05-Tue
第2回トイレの世界に誘われて 2017-12-05-Tue
第3回マンホールの下で見たもの 2017-12-05-Tue
第4回今のトイレはどう処理している? 2017-12-05-Tue
第5回トイレのあとに残る泥のゆくえ 2017-12-05-Tue

編集経験8年。
媒体の主な分野は教育系、旅行系です。

課題3

担当・朝倉由貴

第3回 マンホールの下で見たもの

突然ですが、「マンホール」って、
日本語でなんて言うかご存知でしょうか。

私も知りませんでしたが、
「人孔(じんこう)」というそうです。
人が出入りする穴という意味ですから、
英語と同じで、そのものずばりなネーミングですね。

最寄駅から家まで、道を歩いているとき、
注意して見てみると、普段は気づかないものですが、
とにかくいろいろなマンホールがあることに驚かされます。


「ガス」と書いた小さめのもの。
「NTT」というのは電話線が入っているのでしょうか。
「水道」「空気弁」と書いてあるもの。
「下水道」と書いてあるものが、下水管のマンホールです。

鉄製だけじゃなくてコンクリート製のものもあるし、
丸でなく、四角い形のものもけっこうあります。
住宅街の地下にはあらゆる管と線が通っていて、
これがうちにもつながっているのだなあと思い知ります。

27歳になった私は下水管の中にいました。

『トイレなんでも入門』を繰り返し読んでいた自分ですが、
ときどきトイレにまつわる本を読むだけで
研究者や専門家を目指したわけではありませんでした。
その後大学で専攻したわけでもなく、
何の知識もない状態で、「環境新聞」という専門誌の
「水循環」分野の記者に応募します。
その範疇に「下水道」の文字があったからです。
李家正文先生にまいてもらった好奇心の種が、
うずうずと芽を出したのかもしれません。

記者となった私にあてて、当時の上司が考えてくれた
企画が「花子さんの下水道見てある記」です。
新人記者・花子さんが、下水道にかかわる施設や企業を
取材して、レポートするというものでした。

そこで初めて、下水道管に潜入することになりました。
作業着にヘルメット、軍手、ゴム長靴を着けて、
マンホールからはしごを下って、ゆっくり降りていきます。
金属製のはしごなので滑って怖いです。
管内に降り立つと10センチほど水がたまっていて、
足元はぬるぬると滑ります。
管は円形なので、かがんだままの姿勢で、
20メートルほどゆっくりと進みました。
中はもちろん暗くて、空気はひんやりとしていました。

実はその下水管は、管理点検する専門家のセンターの
研修用だったので、造りは本物と同じですが、
手入れが行き届いていて汚れも少なく、
下水管にしてはかなりきれいなものでした。

実際はもっと水量が多くて流れの速い管の中を、
アンカーボルトを打ち込み、ロープを張りながら、
もし流されても引っかかるように安全ネットを張って
注意しながら作業するのだそうです。

そんな危険な職場環境でも、
「社会にとって大事な仕事だから」と、
誇りをもって管理点検している人々がいることを、
そのとき初めて知りました。
縁の下の力持ちに支えられていることも知らずに、
ジャーっと水を流していた。


「環境新聞」2007年9月5日付下水道の日特集

そのあと、同じ「花子さん」の企画で
マンホールの工場と研究センターを訪れたときも、
驚きの連続でした。
ただの「鉄のフタ」となめたらいけない。
ずっと風雨にさらされ、路上に設置されたままになる
マンホールには、その製品が満たすべき大事な条件が
いくつもあります。

・車や人が上を通るときに、ガタつかないようにする
・はずれたら危険だから、きっちり固定されるようにする
・使うときには簡単に開けられるようにする
・野外に設置され、車の荷重もかかるから頑丈にする

「はずれないようにしっかり固定」と
「簡単に開けられるように」は矛盾するようですが、
それも含めたもろもろを考え抜いたうえで設計された、
絶妙なものが、今道端にあるマンホールなのです。

重さ、寒暖差、日光、風雨、あらゆる条件を想定した
耐久テストの数々。
「マンホールひとつでここまでするの?」という、
執念ともいえる品質管理と研究の徹底ぶりに、
感心を越えて若干引いてしまったぐらいでした。

少し話がそれてしまいますが、
阪神・淡路大震災などを踏まえて、
普及が進んできた「マンホールトイレ」は、
2016年の時点で全国の学校や公園などに
約2万基設置されたそうで、かなり増えています。
マンホールトイレは、通常時は普通のマンホールですが
いざというときにはふたを開けて
仮設の洋式便器を設置して、テントのような囲いをする、
下水管と直接つないで使う災害用トイレです。
調べてみたら、うちからすぐ近くの公園にも
設置されていました。


通常はマンホール(右)で、
使用するときにテント状の囲いと洋式便器を設置する(左)

「マンホールトイレ 区市町村名(○○市など)」で
検索すると設置場所がわかりますので、
よかったらぜひ調べてみてください。
(続きます)

第4回 今のトイレはどう処理している?