もくじ
第1回彼は、家具屋さんです。 2017-12-05-Tue
第2回彼は、たくさんの人に囲まれています。 2017-12-05-Tue
第3回彼は、家具と出会いました。 2017-12-05-Tue
第4回彼は、驚きました。 2017-12-05-Tue
第5回彼は今、こうしています。 2017-12-05-Tue

「ものを書くこと」と「ものを買うこと」が大好きな、ライター兼webプロデューサー。テレビ局を辞めて、いまは「ものづくり」に関する記事をまとめています。息をするように買い物ばかりするので、いっぱい働かねばなりません。

この人の名前は「阪井信明」さんです。

この人の名前は「阪井信明」さんです。

担当・中前結花

突然ですが、この記事は
「とある人に届けばいいな」という思いで書いています。
 
「下北におもしろい家具屋さんがある」
テレビやSNSで何度か目にし、
壁一面に整列する小ぶりのイスの様子を見て、
「あのイスに座ってみたいな」と思った。
家具についてなにやら熱く語られるブログで見てからは、
おもしろそうな人だな、話してみたいなという気持ちが湧いた。
本当は、この阪井さんという男性が経営する
「ROOTS FACTORY」という家具屋さんの
これまでのお仕事をご紹介する記事が書きたかったけれど、
お話をうかがう中で、どうしても、
この阪井さんの人生を、
この人の「これまで」と「今」を、
しっかり紹介したいと思った。
そしてまた、今のこのタイミングだからこそ、
とある人に感謝の気持ちを届けるお手伝いができるんじゃないかと、
自分の筆をそんなふうに使ってみたいと思った。
 
なのでこの記事は、
「とある人に届けばいいな」と思って書いています。
しかし、関係のないみなさんにも、ひとりでも多くの方に
どうか読んでいただきたいのです。

第1回 彼は、家具屋さんです。

彼は家具屋さんです。

阪井さんは、「家具を楽しむ」をコンセプトに、
家具の販売や思い出の家具のリメイクを行う
『ROOTS FACTORY』という家具屋さんを経営しています。
今日は下北沢のお店をたずねてみましたが、
足を踏み入れただけで、「あっ」と心がはしゃぐような、
そんな心持ちがします。
きっとこれは、壁一面に並ぶイスの色が、
うれしくなってしまうほどカラフルだったから、だけではないはず。

このイスの名前は「モンペスツール」。
ちょっと座ろうと屈んでも「あれっ」とまだ座面に届かない。
そのくらい低いです。
しかし、腰を落ち着けると「ああ」と思わず声を漏らしてしまいました。
あまりにもちょうどよくて、
背骨の力が、すんと抜けてしまうようなのです。
 
家具に、「人懐っこい」とはじめての印象を覚えました。
阪井さんは言います、
「買ってくれた人もみんな、”持って帰る”じゃなくて
”連れて帰る”て言うてくれるんですよ(笑)」
 
そううれしそうに話してくれる、作り手の阪井さんもまた、
親しみやすい関西弁で話す、人懐っこい笑顔の男性でした。
 
家具の販売だけでなく、オーダーメイドで
世界にひとつだけの家具をこしらえたり、
思い出の家具に、新しい役割を与えるような
リメイクまで請け負ってくれるお店です。
 
たとえば婚礼箪笥(こんれいだんす)を仏壇にするような、
円卓をカフェテーブルにするような、
家具を「ずっといっしょに居られる家族」に生まれ変わらせてくれる、
そんなお仕事もされています。
 

「下北沢」という場所

阪井さんは、関西で暮らしています。
大阪に本社を構え、自然豊かな淡路島の工房で家具を生み出す
『ROOTS FACTORY』。
下北沢のちょっと入り組んだ路地にあるこのお店は、
普段、店長の山本さんが切り盛りされています。
大阪生まれの阪井さんがこの場所を「東京の拠点」として
選んだのはなぜでしょう。
 
「3年前、事故で弟が亡くなったんですよ。
『SECRET 7 LINE』というバンドで、ベースとボーカルをしてたんですが、
機材搬送の車で移動中の事故でした。
下北沢でもよく過ごしてたみたいです。
弟の部屋を片付けるために東京に来たとき、
ふらりと下北沢で『ここかー』って。
気づいたら、不動産屋入って、この店借りてました(笑)
なんかおかしいでしょ(笑)」
 
弟である阪井シンジさんが亡くなったのは2015年8月31日。
そこから阪井さんの人生は大きく変わったと言いますが、
そこに悲しさや傷みを浮かべる様子はありません。
不思議と笑顔で懐かしむように、はにかむように話します。
 
阪井さんは、思い立ったらすぐに行動してしまう人です。
しかしそんな縁があったからこそ、
あなたとここ「下北沢」で出会うことができたのでした。
 
(つづきます)

第2回 彼は、たくさんの人に囲まれています。