はみ出した部分が、味になる
阪井さんは、あるとき、ひょんなことから
リサイクル事業で培った技術を活かしてつくった家具をひっさげて、
大阪の通天閣で開かれるアートイベントに出展します。
「ちょっと衝撃的でした」
阪井さんは声をひそめるように話します。
「僕、褒めてもらえたんですよ。
それが、めっちゃうれしかったんです(笑)」
と、まるで子どものような笑顔。
人とちがうことしてはいけない、
そう言われれば言われるほど、
「ちがうこと」にたどりついてしまったのが、これまで。
たくさんの人に、自分の作品を褒めてもらうことで知ったのは、
そのはみ出した部分が”味”になるのだということでした。
そして、そんな「ものづくり」という世界がある、
ということに救われる気分だったのだと言います。
自分の個性を、隠さず悪ぶらず表現できる世界が
「ものづくり」にはありました。
すっかりその気になった阪井さんは、
調子づくままに思います。
「もっともっと家具がつくりたい」
「つくったもので喜んでもらいたい」
そうして、すぐに行動に起こす阪井さんは2010年、
この家具屋をスタートさせたのでした。
思いついたことを、言っていい、やっていい
阪井さんは、「そこから本当にたのしくて」と
振り返ります。
「要らんことをするな!」と叱られてきた時代がうそのように、
自分でアイデアを出し、
自分で実行することが求められるようになりました。
これは阪井さんにとって、おもしろくうれしい変化です。
こだわり素材の和食屋さんに、
「アバンギャルド」「アシンメトリー」なテーブルを。
Web制作会社のオフィスに、
その幅4メーターのDJブースを。
阪井さんたちのつくりだす「家具」は、
その後のお客さんの暮らしや過ごし方を、
大きく変えてくれるものばかりです。
いつも心がけていることがあると言います。
「お客さんと、向かい合って対峙したくないんですよ。
ぼくは、横で居りたいんです。
困ったことがあるなら、いっしょに解決できる方法を考えたいし
やりたいことあるなら、実現できるように
いっしょになって考えたい。
この方法が一番や!と思ったらIKEAをすすめることだってあります。
だって、家具っていっしょに暮らすものですから」
その心がけは誠実すぎるほどでした。
お客さんがお客さんを呼び、
着実に阪井さんの手によって喜んでくれる人は増えていきました。
毎日を忙しく過ごし、「つくること」に夢中です。
そしてお店を東京にも構え、そこにはテレビの取材まで訪れるように。
中でも印象的だったのは、「おじゃMAP!!(フジテレビ)」。
香取慎吾さんザキヤマ(山崎弘也)さん広瀬すずさんなどが訪れ、
あのモンペスツールに腰かけてくれたといいます。
その対応のうれしさから、
香取さんにモンペツールシリーズの「ピクニック」を
プレゼントしたほど。
たくさんの人に知ってもらえ、たくさんの人と出会える。
なにより、
自分が「作業として作る」のでなく
「いっしょに考えて創った」家具で
人を笑顔にすることができる。
なんて幸せなんだろう、
阪井さんはその喜びを毎日噛み締めながら
日々の仕事と向き合っていきました。
そんなある夏の日、1本の電話がかかってきます。
大阪にある阪井さんの工房が、燃えているというのです。
(つづきます)