もくじ
第1回取材で同じことばっか言う日々。 2017-10-17-Tue
第2回思うだけじゃなくて、書きたい。 2017-10-17-Tue
第3回「所在がない」感がずっとある。 2017-10-17-Tue
第4回帯の言葉の理由。 2017-10-17-Tue
第5回燃え殻さんの人生相談にあるもの。 2017-10-17-Tue

16歳の老犬と暮らしています。
春夏秋冬、いつでも歩き回っています。

燃え殻さんが書いてきたこと、</br>書いていくこと。

燃え殻さんが書いてきたこと、
書いていくこと。

担当・中川

毎年、ほぼ日手帳が発売される頃に
糸井重里が行ってきたトークライブ。
今年、糸井が「この人としゃべりたい」と
指名したのは、燃え殻さんでした。

6月に発売したデビュー作
小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』も
話題となっている燃え殻さん。
この日話してくれたのは、
今、さまざまなメディアに取材される中で感じていること、
「書く」ということ、
そして21冊の手帳の存在について。

全5回でお届けします。

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 取材で同じことばっか言う日々。

糸井
やろう。
燃え殻
やりましょう。

糸井
燃え殻さん、今、体は大丈夫?
けっこうものすごい取材受けてるでしょ?
燃え殻
サラリーマンなのに、はい(笑)。
糸井
サラリーマンなのにね。
燃え殻
6月30日に本が出て。
そこから取材を、ありがたいことに何十と。
糸井
何十と。
燃え殻
はい。
糸井
はぁー!

燃え殻
新聞とかいろいろとお話をいただいて。
糸井さんには相談させていただいたんですけど
いろいろな方から来る質問が心苦しいいんですよ。
糸井
心苦しい(笑)。
燃え殻
心苦しい(笑)。
糸井
答えてて。
燃え殻
ウソをつかなきゃいけない自分が。
糸井
うんうん。
燃え殻
「なんでこの本を書いたんですか」
とか言われるじゃないですか。
で、本当はあまり意味がない。
ぼく、今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、
小説って何か訴えなきゃいけないことがないと
書いちゃいけないんですか?
糸井
それは、例えば高村光太郎がナマズを彫ったから、
「高村光太郎さん、このナマズはなぜ彫ったんですか」
って聞くみたいなことですよね。
燃え殻
そうそう。
で、「それはすごく社会的に意味があることなんだ」
みたいな話を、高村さんは言えたんでしょうか。
糸井
言えないんじゃないでしょうかね。
横尾さんに聞いたら怒りますよね。
「だからダメなんだよ!」。

燃え殻
(笑)。でもぼくは答えなきゃいけないので、
「90年代ぐらいの空気みたいなものを
一つの本に閉じ込めたかったんです」
というウソをですね‥‥。
客席
(笑)
燃え殻
この1か月ぐらいずっとついてて。
もうスルスル、スルスル、
ウソが口から流れるようになってて。
糸井
的確なウソですよ(笑)。
燃え殻
それで、「なるほど」みたいな。
糸井
それでもいいやっていうウソですよね、でも。
燃え殻
多分それがいいんだっていう。
糸井
「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。
で、おそらく読者と取材者に共通するのは、
「自分もその時代に‥‥」って話をしたがりますよね?
燃え殻
そうですね。
糸井
「その頃、ぼくもそこいたんですよ、
レッドシューズ」みたいな(笑)。
燃え殻
そう!
新聞とか文芸の記者とか同年代の方が多くて
「大体近いとこにいたんで、
ぼくの話聞いてもらっていいですか」って(笑)。

客席
(笑)
燃え殻
新聞社に入られたりとか
雑誌の編集の方なので
もちろん学歴があって、
皆さんすごく‥‥すごくいい形で
社会でやってきてるじゃないですか。
糸井
うんうん。
燃え殻
そこにぼく、いたことが1回もないんですけど、
「一緒ですよ」とか言われて。
「一緒じゃねえよ」と思いながら(笑)、
「あ、そうですね」みたいな。
糸井
ああ。
燃え殻
で、「なんで書いたんですか?」って言われるんですよ。
そうするとさっきみたいに、
あなたとぼくがいた90年代を書いた小説は
今までそれほどなかったので、
あのバブルが終わって、
‥‥これ本当によく言ってるんですけど、
バブルが終わって、
でも世の中にはヴェルファーレとか残ってる。
そのまだらな世界というのを
ぼくは一つの本に閉じ込めたかったんです‥‥ウソ!
みたいな(笑)。
糸井
ははは!

燃え殻
そういうのをやっていて。
「でも、こういうこと言っとかないといけないんだな、
いろんな人たちが見てるし」って。
取材の場所にもいろんな人たちがいて、
その人たちが頷いてないと怖いじゃないですか。
糸井
はいはいはい。
燃え殻
カメラマンの人も
「最初はおまえのことよくわかんなかったけど、
そういうこと書いてる人なんだね」って感じで
シャッターを押してくれたりとか。
糸井
うん。
燃え殻
誰かについてきた人、絶対本を読んでないんだけど、
「あ、そういう本書いてんだ。
だったらまあいいんじゃない?」
みたいな感じで、場が少し温まる。
温まりたいから、それをずっと言う。
糸井
ずっと言う。うん。
燃え殻
で、その記事1個1個がネットにアップされる日が
けっこう近くて。
だから「同じことばっか!」っていう。

(つづきます)
第2回 思うだけじゃなくて、書きたい。