燃え殻さんが書いてきたこと、書いていくこと。
担当・中川
第5回 燃え殻さんの人生相談にあるもの。
- 糸井
-
小説の文章を直されたりとかっていうのを
新人のときにはするけど、
そういうやりとりはあったんですか。
- 燃え殻
-
ありました。
- 糸井
-
それはどうでした?
- 燃え殻
-
女性の編集の方だったんで、
男としてはアリっていう表現も、
「女性は読んだときに嫌悪感があります」
っていうものに関しては、バッサリ捨てました。
例えば主人公のぼくが
違う女の子と泊まっているラブホテルで
昔好きだった女の子を思い出すシーンでは、
「20年前と同じラブホテルに行ってる男、
引くんですけど」って言われて(笑)。
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- 糸井
-
ああ、なるほど、なるほど。
- 燃え殻
-
「行かないでください。女性引きますから、そういうの」
って言われて、六本木のシティホテルみたいな
ラブホテルに変えたりとか(笑)。
- 糸井
-
多分、今、本を作るっていうのは、
作品を出すということと
商品を出すということと二重の意味があって。
女子が引くなら引くで、
引けよっていうのが作品じゃないですか。
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- 燃え殻
-
ああ。
- 糸井
-
でも、
「女子が引くんです」
「そうですね。それ汚れに見えますもんね」
「きれいにしましょう」
って拭くのが商品じゃないですか。
- 燃え殻
-
わあ、これ言わなきゃよかったかもしれない。
新潮社の人が来てたらどうしよう(笑)。
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- 糸井
-
いやでも、もっと言えば、
推理小説の中で描いてる恋愛なんていうのは、
推理小説である理由なんかなかったりするわけで。
でも興味がなくなっちゃうと困るから、
人を殺して入れたりするってことはあるわけでしょ。
それは商品性を高めてるじゃないですか。
それを丸々否定するわけにはいかないし、
女性が引いちゃうんだったらやめとこうかっていっても
伝わるものが出したいんだったら、
バランスの問題だから。
- 燃え殻
-
そうですね。
- 糸井
-
だから今いっぱい取材受けてるなんていうのも、
ウソばっかりついてるのも含めて1個ずつの重みで。
トータルにしたら、
あそこでああいうことを言えたからいいかとか、
あの人と会って、あのあとでまた違う話をしたとか、
「90年代の空気を」っていうのを読んだ人が、
もうちょっといいことを何かかぶせてくれるとか。
- 燃え殻
-
そうですね。
あと、そのウソがだんだん自分の中で
板についてくるというのもあって。
そういうことを求められてたのかっていう
“気づき”なのかもしれないし。
ぼくは受注体質なので。
- 糸井
-
受注体質(笑)。
- 燃え殻
-
だからお客さんがそう思うんだったら、
そうしたいな、そういうものを作りたいなって思っていて。
そういうものが作れたんだったら、
それでいいじゃないかって思うんですよね。
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- 糸井
-
そろそろ終わりにしようと思うんだけど、
最後に、
燃え殻さんが自分では気づいてなくて
あなたはすごいですよっていう
はっきりあるものがあって。
- 燃え殻
-
はい。
- 糸井
-
あのとんでもない角度からの質問を受けている
人生相談(文春オンライン「人生相談」)。
あれで答えている燃え殻さんは、
同じ場所に立ってて、一生懸命考えてて、
ものすごい発見もあって、全部面白い。
- 燃え殻
-
えー、ありがたい。
- 糸井
-
谷川俊太郎さんの人生相談の本をうちで出してるんだけど、
『谷川俊太郎質問箱』っていうので‥‥
- 燃え殻
-
はい、ぼく、持ってます。
- 糸井
-
あれぐらい面白い。
- 燃え殻
-
え?
- 糸井
-
本当にそう思う。
- 燃え殻
-
ああ、ありがとうございます。
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- 糸井
-
本当に一生懸命やってますよね。
- 燃え殻
-
もう一生懸命やるしかないし‥‥
- 糸井
-
そうですよね。
- 燃え殻
-
あと、小説と一緒かもしれないですけど、
まったく同じことはないけど
そういう気持ちに俺もなったことあるよっていう
ことばかりなんですよ。
性別が違ったとしても、年代が違ったとしても、
生きてた場所だったり職業が違ったとしても、
近い気持ちになった、みたいな。
で、まずはその話をしよう。
こういうことであなたと同じような気持ちになった。
で、この話なんだけど、
もしかしてこうなんじゃないかな。
もし、ぼくがあなたの立場だったらこう思う。
違ったらごめんなさい、ぐらいまで入れる
っていう感じですよね。
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- 糸井
-
その燃え殻さんのいい意味での気の弱さが、
相談してきた人に嫌な思いしてほしくない
っていうことなんですよ。
- 燃え殻
-
ああ、それ思います。
- 糸井
-
一番効率的だったり、真実に近いところで回答するのなら、
その人を一回傷つけてでも、
「今は悲しいかもしれないけど絶対このほうがいいから」
って。これはぼくも言うことはあるんです。
だけど燃え殻さんは、
その人が嫌な思いをしませんようにっていうのを
前提にしながら。
- 燃え殻
-
悩みがあって、
さらにそれをネットにメールするって、
熱量が半端ないというか、
それくらい真剣なので。
ということはそれぐらい
傷ついていたり、悩んだだろうから、
もういいじゃないかってぼくは半分思ってて。
それを投げ出さなかった時点ですごい、みたいな。
- 糸井
-
だからあれは人生相談に答えてるというよりは、
その人と隣り合わせで慰めてるんですよね。
- 燃え殻
-
ああ、そうです。そう思ってました、ぼく。
- 糸井
-
このところ、ぼくがものすごく考えている
「慰め」ということの大事さ。
燃え殻さんの人生相談の中に、それがあるんです。
「演歌を歌ってこの悲しみをごまかしてはいけない」
っていうのが厳しい人の
言うことかもしれないけど、
それを取りあげちゃって、
ほかにどんな道があると責任持ってくれるのか。
- 燃え殻
-
そうなんですよ。
傷がかさぶたになって、
それが取れて、きれいになりましたって
すごく素晴らしいですけど、
そんなことばっかじゃないから。
- 糸井
-
そうそうそう。
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- 燃え殻
-
かさぶたでもいいし、
止血しながらでも生きていかなきゃ
いけないじゃないですか。
- 糸井
-
そうそう。
- 燃え殻
-
そういうことに
「一旦保留にしようぜ」って言う人生相談が
なんでなかったんだろうって。
ぼく、一旦保留にしたから
生きてこれたというのがたくさんあって。
そういうほうがリアルな気がして。
全部がきれいに片付いてるほうがいいけど、
答えが要らないときって多いと思うんですよ、
ぼく、人生で。
- 糸井
-
ご飯食べるとかさ。
- 燃え殻
-
そう。
お腹いっぱいになると、
けっこう解決したりしません?
- 糸井
-
あと、歩く。
- 燃え殻
-
ああ、歩くもあるかもしれない。
- 糸井
-
俺は歩くで大体ごまかしてるね。
- 燃え殻
-
書くのもそうなんです。
いいことも悪いことも、
テレビとか見てて人が言ったこととかも書いちゃう。
で、それが何かつながるとか、
そんないやらしいことは考えないで書いて。
あとで見ると「何書いてるんだ」って思いますよ。
でも結果的にそれで、人に対する言葉が
出てきたりすると思うんですね。
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- 糸井
-
もういくら続けてもいいんですけど、
ここでやめます。
どうもありがとうございました!
- 燃え殻
-
ありがとうございました!
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