燃え殻さんが書いてきたこと、書いていくこと。
担当・中川
第4回 帯の言葉の理由。
- 糸井
-
「いいな」と思ったら、
スケッチするみたいにすぐに書くんですか。
それとも、覚えてるんですか。
- 燃え殻
-
両方です。
でも最近はすぐに書くようにしてます。
昔は、ちょうど小説に出てきた横尾忠則展の
ラフォーレのチラシとか‥‥
- 糸井
-
俺、行ったよ、それ。
あれはいい展覧会だったね。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9609-7.jpg)
- 燃え殻
-
よかったですよね。
それでそういうチラシを
なんかそのとき、集めなきゃと思ったんです。
それで神保町の古雑誌屋に行ったりしてて。
でもその資料って、いつ発表するかわからない。
- 糸井
-
何の資料?
- 燃え殻
-
それもわからない。
いつか自分に役に立つであろう資料。
別に課題とかでもないし。
- 糸井
-
イチローがバッティングセンターに
通ってたみたいなもんだ。
- 燃え殻
-
そうですか?(笑) あ、でもそうかもしれない。
いつ役に立つかなんてわからないけど、
これを集めとかないとと思って。
- 糸井
-
ただ集めた。
- 燃え殻
-
ただ集めてた。
自分としてこれはなんか持っておきたい、
自分として大切なんじゃないか、
どこかで、いつか、何かになるんじゃないかって。
淡い淡い宝くじみたいなことを思いながら
やっていて。
- 糸井
-
それは、みんなするのかな、しないのかな。
俺もちょっとしてたな。
- 燃え殻
-
あ、してました?
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9487-11.jpg)
- 糸井
-
ぼくなんかだと、これはマヌケだなと思うんだけど、
『小さな恋のメロディ』みたいな映画があって、
かわいい女の子と男の子が小さな恋をするんだけど、
そこで瓶に入った金魚が紐でぶら下がってるんですよ。
で、瓶に金魚を飼ったね、俺。
- 燃え殻
-
それを真似て?
- 糸井
-
真似て。
‥‥軽蔑したような目で。
- 燃え殻
-
してない! 軽蔑してない(笑)。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9427-17.jpg)
- 糸井
-
じゃあ何(笑)。
- 燃え殻
-
へぇって(笑)。
いやでも、すごいわかります。
- 糸井
-
他人がやってることとか、
よその人が表現したことも、
もうすでに自分の物語なんですよね。
- 燃え殻
-
そうだと思います。
コラージュのようにいろいろなものを集めて、
それはもう自分が考えたこと、と言ったら失礼だけど、
「俺しか知らないんじゃないか。教えなきゃ!」みたいな。
友達に言ったりとかしてましたからね。
- 糸井
-
ああ。「いいぞ、あれ」って。
- 燃え殻
-
そういうことのためにも集めてたのかなあ。
- 糸井
-
それ、友達にもそういうやつがいた?
そういう話、聞く側になったことある?
- 燃え殻
-
あんまりないかな。
- 糸井
-
自分が言う側だったんですか。
- 燃え殻
-
そうですね。
- 糸井
-
あ、それはもう表現者としての運命ですかね。
- 燃え殻
-
すごくいい人だったと思うんです、ぼくの周りが。
- 糸井
-
聞いてくれて。
- 燃え殻
-
そう。「へぇ」なんつって。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9412-7.jpg)
- 糸井
-
ああ。
聞いてもらうって、
人間にとってものすごくうれしいことですよね。
- 燃え殻
-
そう。すごいドーパミン出ますよね。
- 糸井
-
ね。
見事な歌詞だと思うんだけど、
クレイジーケンバンドの
「♪俺の話を聴け! 2分だけでもいい」
(『タイガー&ドラゴン』より)
- 燃え殻
-
いいですね、2分だけ(笑)。
- 糸井
-
貸した金のことなんかもういいから、
俺の話を聴けって歌詞(笑)。
でもよく考えると、
ブルースミュージシャンが歌うのはそういうことだよね。
「嫁がまた俺をろくでなしって言いやがった」みたいな。
あれも「俺の話を聴け」で。
- 燃え殻
-
ものすごいコアな話題だけど、
聞いてるほうとしては心地いいのかな。
- 糸井
-
聞いてるほうも、だからちょっと。
- 燃え殻
-
ちょっと自分ともシンクロする部分を見つけちゃう。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9550-3.jpg)
- 糸井
-
多分ブルースが生まれた場所での黒人たちなんて
生活も大体似たようなものだから、
「そうそうそう」って。
- 燃え殻
-
「俺のことを歌ってるんだ」って。
- 糸井
-
ブルースミュージシャンがやってきたことを
俺も今繰り返してるのかな、というのは思います。
燃え殻さんの小説なんか、けっこうそうですよね。
- 燃え殻
-
ああ、そうかもしれない。
- 糸井
-
ぼくが本の帯で
「リズム&ブルースのとても長い曲を
聴いているみたいだ」
と言ったのは、そんな気持ちなんですよ。
リズム&ブルースっていうと、
今の若い人は“リズム”で考えるけど、
ぼくは“歌”の時代だったので。
ああいうものを読んでるみたいな気がしたの。
若いとき『ドック・オブ・ベイ』って歌が大好きで、
ずっと聞いてられないかなと思ったことがあって。
- 燃え殻
-
ああ、すげえわかる。
- 糸井
-
だから「リズム&ブルースのとても長い曲を
聴いているみたいだ」っていうのは、
ものすごく若い自分が
この小説をすごく褒めてるつもりなの。
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- 燃え殻
-
すごくうれしかったです。
- 糸井
-
種明かしみたいに言うとそうなんだけど、
でもちょっとわかるじゃないですか。
- 燃え殻
-
すごいわかります。
-
(つづきます)