燃え殻さんが書いてきたこと、書いていくこと。
担当・中川
第3回 「所在がない」感がずっとある。
- 糸井
-
手帳に書いてることの中に、
自然に乗っかっちゃうのが音楽でしょう。
あのときにこの音楽、みたいな。
- 燃え殻
-
はいはい。
- 糸井
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書いてないけど流れてますよね。
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- 燃え殻
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うん、そうですね。
音楽ってさらに共有できることじゃないですか。
だから小説を書いたときに、
ところどころに音楽を挟んでいったんですよ。
- 糸井
-
入れてますよね。
- 燃え殻
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それは、自分自身が
ここでこの音楽がかかってたらうれしいなっていうのと、
ここでこの音楽がかかってたらマヌケだなっていう、
その両方で音楽は必要だったので。
そうすると、読んでくれている人が
共鳴してくれたり共有してくれたり、
共感してくれるんじゃないかなって思ったんですよね。
- 糸井
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音楽って、ある種こう、
暴力的に流れてくるじゃないですか。
- 燃え殻
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はいはいはい。
- 糸井
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聞きたくなくても。
- 燃え殻
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そう。
- 糸井
-
で、そこまで含めて思い出だ、みたいなことは、
あとで考えると嬉しいですよね。
- 燃え殻
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そうなんですよ!
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9641-8.jpg)
- 糸井
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何だろうね。
- 燃え殻
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何なんだろう。
- 糸井
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景色みたいなものだね。
- 燃え殻
-
景色に一つ重なって
共感度とか深度が深まるような気がして。
- 糸井
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うんうん。
- 燃え殻
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この小説でいうと、
同僚と別れるシーンがあるんですけど、
そこって映画だったりドラマだったら、
やっぱり悲しい音楽が流れてほしいじゃないですか。
でもそこでAKB48の新曲が流れるっていうところを
ぼくは入れたかったんですよ。
- 糸井
-
いいミスマッチですよね。
- 燃え殻
-
もう俺たちは会わないなっていうのはわかるけど
それは言わずに、
「おまえは生きてろ」みたいなことを言ってるときに
AKB48の新曲がのんきに流れてること、
あるよなって‥‥(笑)。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9588-8.jpg)
- 糸井
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あるある。大いにある。
「自分が主役の舞台じゃないのが世の中だ」
っていうのを表すのに、
はずれた音楽を流すというのはすごくいいですよね。
ぼくはそれを技術として書いたことがあって。
『ただいま』って矢野顕子の曲の歌詞で、
「ただいま」って言うために階段を駆け上がってくるときに、
「テレビの角力(すもう)の音とか聞きながらね」
という言葉がある。
- 燃え殻
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へぇー。
- 糸井
-
男の子と別れた女の子の歌の中に、
テレビの角力の音とかがよそのアパートから流れてきて、
それを聞きながら「ただいま」と言うっていう
シーンを書いた。
そのときに、なんで俺「角力の音」とか書くんだろうって、
書きながら思ったんですよ(笑)。
- 燃え殻
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ああ。
- 糸井
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その、自分のための世の中じゃないとこに
いさせてもらってる感じ。
若い男女にとって、テレビの角力の音って
自分のためのものじゃないんですよね。
- 燃え殻
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ああ、今思いました。なんでAKB48入れたんだろうって。
- 糸井
-
燃え殻さんの小説の中には
それがいっぱい出てきますよね。
俺のためにあるんじゃない町に紛れ込んでみたり、
俺のためのパーティじゃないところにいたり。
- 燃え殻
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そうですね。
なんかこう「そこに所在無し」みたいなとこに
ぼくはずっと生きてるような気が。
- 糸井
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いる場所がない(笑)。
- 燃え殻
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「所在がない」感がずっとすごいあって。
会社自体も、社会の数に入ってない感じが
すごいしてた。
最初に原宿とか銀座とかに来たときも、
すげーみんな洒落てて。
- 糸井
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すごいよね。ここが自分ちだったら豪華だよね。
![](/juku/hiroba/4th/images/O72A9576-8.jpg)
- 燃え殻
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落ち着かないです。便秘になります(笑)。
でも、なんかその、
どこにも居場所がないっていう感じで生きてて、
「居場所がない」っていう共通言語の人と‥‥
- 糸井
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会いたいんだよよね(笑)。
- 燃え殻
-
そう、会いたい。いつも。
- 糸井
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それは、みんなあるんじゃないですか?
- 燃え殻
-
みんな感じてるんですかね?
-
(つづきます)