もくじ
第1回ちょっとウソを話してるんです。 2017-10-17-Tue
第2回自分だけの切り取り方 2017-10-17-Tue
第3回捨てられないから、大人になれない。 2017-10-17-Tue
第4回みんな同じ人間だから。 2017-10-17-Tue
第5回「商品」と「作品」のハムレットの中で 2017-10-17-Tue

「ものを書くこと」と「ものを買うこと」が大好きな、ライター兼webプロデューサー。テレビ局を辞めて、いまは「ものづくり」に関する記事をまとめています。息をするように買い物ばかりするので、いっぱい働かねばなりません。

ボクたちは、なぜ「書く」のか?

ボクたちは、なぜ「書く」のか?

「ほぼ日手帳2018 On the Desk in銀座ロフト」にて行われたトークショー。
糸井重里と、デビュー作『ボクたちはみんな大人になれなかった』が7万部以上の
ベストセラーとなり話題を呼んでいる燃え殻さんが、
「書く」ことについて、みなさんの前でたっぷりとお話ししました。

燃え殻さんは糸井に尋ねます。
「なにか訴えたいことがないと、小説って書いちゃだめなんですか?」

プロフィール
燃え殻さんのプロフィール

第1回 ちょっとウソを話してるんです。

糸井
えーと、ご承知のとおりの人たちが集まってると思うので、
急にはじめよう。


燃え殻

あ、やりましょう。


糸井
体は大丈夫ですか、ものすごい数の取材を受けてるでしょう。


燃え殻
大丈夫です。取材は受けてますね、サラリーマンなのに(笑)。


糸井
サラリーマンなのにね。


燃え殻
6月30日に本(著書『ボクたちはみんな大人になれなかった』)が
出てから、ありがたいことに何十と受けてますね。


糸井
はぁー。


燃え殻

新聞とかも含めていろいろと
お話をさせていただいてるんですけど、心苦しくて。


糸井
心苦しい?


燃え殻

答えてて心苦しい(笑)。ウソをつかなきゃいけない自分が。


糸井
あ、ということは、新聞で読んだ人は、
みんなウソを読んでるわけですね(笑)。


燃え殻
「なんでこの本を書いたんですか」とか
聞かれるじゃないですか。
で、本当のところはあまり深い意味なんてない。
今日、糸井さんに聞きたかったんですけど、小説とかって、
何か訴えたいことがないと書いちゃいけないものなんですか。



糸井
それは、たとえば高村光太郎に
「このナマズはなぜ彫ったんですか」って
聞くみたいなことだよね(笑)。


燃え殻
そうそう。そこで高村さんは、
「これは社会的にすごく意味があって、」
みたいな話ができたんでしょうかね。


糸井
言えないんじゃないでしょうかね。
そんなこと(笑)。



燃え殻
答えなきゃいけないから、
この本はちょうど1990年代から2000年ぐらいのことを
書いた本なので、「90年代ぐらいの空気みたいなものを、
ひとつの本に閉じ込めたかったんです」
なんていうウソをですね、
この1か月ぐらいずっとついてて(笑)。
もうスルスル、スルスル、ウソが口から流れるようになって。


糸井

でも的確な、「それでもいいや」っていうウソですけどね。


燃え殻
たぶん、そう答えるのがいいんだろうな、って。


糸井

うんうん。「それが聞きたかったんですよ!」みたいな。
おそらく、その取材者にも読者にも言えるでしょうけど、
「その時代、90年代の自分」の話をしたがりますよね。
「あ、その頃ぼくもいたんですよ、レッドシューズ」みたいな。


燃え殻
ああ、そうです。新聞とか文芸の記者の方って、
40代中盤から後半ぐらいの人多いんです。
「いやあ、読みましたよ」
「あなたはこういうこと書いていましたけど、
ぼくの話も聞いてもらっていいですか」って(笑)。

糸井
ほう(笑)。
燃え殻
その流れで「なんで書いたんですか」
って聞かれちゃうので、
「いや、あなたとぼくが生きた90年代について
書いた小説というのは、今まであまりなかったからです。
バブルは終わっても、世の中にはまだ
ヴェルファーレみたいな名残が残ってる。
そんなまだらな世界というのを、
ぼくはひとつの本に閉じ込めたかったんですよ」なんて。
本当によく言ってるから、
もうサラサラ、サラサラ出てきちゃう(笑)。
糸井
立て板に水じゃないですか(笑)。


燃え殻
こういうことを言っとかないといけないんだな、
というか。その場の人たちが頷いてないと
怖いじゃないですか。


糸井
はいはいはい。でもわかる。
この小説は読んでいて楽しかったのは、
ページをめくるごとに、だるい挑発してくるわけです。


燃え殻
だるくて、ぬるい(笑)。


糸井
肘で枕して「糸井さんは、どうですかぁ?」みたいに
言ってくる感じがするんです。そうすると、
「そうねえ、世代は違うけれど、ぼくはね、」
なんて言いながら、読みながら
自分のことをしゃべっちゃうわけです。



燃え殻
ああ、一番うれしいです。


糸井
人は黙読してるとき声帯も動いてる、
っていう話があるけど、同じように、
読んでるときって「書いてる」んですよね。


燃え殻
ああ、なるほど。


糸井
たぶん、そうだと思うんだ。
この帯に「ずっと長いリズム&ブルースが
流れているような気がする」と書いたのは、
そんな気持ちなんです。
ぼくが思い浮かべるのは
オーティス・レディングの「ドック・オブ・ベイ」みたいな。
あの曲が、一時期ぼく大好きで、若いときに、
ずっと聞いてられないかなと思ったことがあったの。


燃え殻

ああ、すげえわかる。


糸井
スナックでバイトしてたときに
ジュークボックスで誰かが「ドック・オブ・ベイ」を
かけてくれるとうれしかった。自分のお金じゃなくて。


燃え殻
ありますね(笑)。

糸井
それを聞いて、いいよなあって思いながら
ピザ運んだりしてたわけ。
ずっと聞いてたいって気持ちがそのときあった。
だから、「ずっと終わらないリズム&ブルースを
聞いてるみたいだ」って表現したのは、
若いころの自分になって、
この小説をものすごく褒めてるつもりなの。


燃え殻
いやー、すごくうれしかったです。


糸井

勝手に言うとね(笑)。
だから、自分にとってのそういう歌みたいなのが
みんなあってさ。で、誰かが歌ってくれてて、
「そうそう、俺もそういうつもりだったんだよ」っていう。
燃え殻

ちょっと自分ともシンクロする部分というのを
見つけちゃうんですかね。


糸井
うん。たぶんブルースが生まれた場所の
当時の人たちの生活なんて大体みんな
似たようなものだから、「そうそうそうそう」って。
燃え殻さんの小説は、けっこうそうですよね。


燃え殻
俺のことを歌ってるんだ、って思うんですね。
糸井
今になって種明かしみたいに言うとそうなんだけど、
そういう感じ。でも、ちょっとわかるじゃないですか。

(つづきます)

第2回 自分だけの切り取り方